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ティール組織と成人発達理論・インテグラル理論の繋がりから社会の文脈を紐解く旅路を概観する

今回は、私自身がフレデリック・ラルー著『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』の考え方・あり方を世の中に浸透させていこうと活動に取り組む中で、成人発達理論や現代社会の病理へと探求が進んでいった過程について、その旅路を振り返りながらまとめていこうという試みです。

『ティール組織』が国内で取り上げられる時にあまり注目されない領域ですが、本書中の第5章においてフレデリック・ラルー氏は、『ティール社会(進化型社会)』という社会のあり方について思索をめぐらせ、その中で企業や働き方がどのように変わりうるかの展望を述べています。

ティール組織』ではレッド、アンバー、オレンジ、グリーン、ティールといった組織の進化の歴史について紹介していますが、それぞれの組織形態も人間社会における世界観の変化と、その世界観によって規定・体現される行動指針、技術の発展、生活様式の変化といった大きな流れの中で生まれてきたものです。

今回のまとめでは、一つの企業・組織という枠を超えて、企業・組織を取り巻く社会の構造や、その背後にある主義・思想といったものに焦点を当てながら、2023年5月時点までの探求について振り返っていこうと思います。


ティール組織との出会い

ティール組織(Reinventing Organizations)

2014年に出版されたフレデリック・ラルー著『Reinventing Organizations』は、日本では2018年に『ティール組織』という邦題で出版されました。

『ティール組織』は500ページを超える大作でありながら、2023年現在では10万部を超えるベストセラーとなりました。

書籍内においては、人類がこれまで辿ってきた進化の道筋とその過程で生まれてきた組織形態の説明と、現在、世界で現れつつある新しい組織形態『ティール組織』のエッセンスが3つのブレイクスルーとして紹介されています。
フレデリック・ラルー氏は世界中のユニークな企業の取り組みに関する調査を行うことよって、それらの組織に共通する先進的な企業のあり方・特徴を発見しました。それが、以下の3つです。

全体性(Wholeness)
自主経営(Self-management
存在目的(Evolutionary Purpose)

この3つをラルー氏は、現在、世界に現れつつある新たな組織運営のあり方に至るブレイクスルーであり、『ティール組織』と見ることができる組織の特徴として紹介しました。

そして、この3つのブレイクスルーを実践するために、いくつかの関連書籍も出版されました。

ティール組織の探求・実践のきっかけ

私自身が、この新しい組織運営のあり方について関心を持ったのは、2016年の秋から冬にかけての頃でした。

2016年9月19日~23日に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』。

ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスは、『Reinventing Organizations』にインスピレーションを受け、新しいパラダイムの働き方、社会へ向かうために世界中の実践者が学びを共有し、組織の旅路をサポートしあい、ネットワーク構築を促進することができる場として催されました。

いち早く日本人として参加していた嘉村賢州吉原史郎といった実践者たちは、この海外カンファレンスの報告会を開催することとなります。

2016年9月19日~23日に開催された『NEXT-STAGE WORLD』の報告会は、2016年10月19日に京都、10月24日、25日に東京にて開催され、嘉村賢州吉原史郎の両名は組織運営に関する新たな世界観である『Teal組織』について紹介しました。

※日本における『ティール組織』出版は2018年1月24日。

これ以降、当時私が参加していた特定非営利活動法人場とつながりラボhome's viは『ティール組織』探求を始め、同年2016年11月以降、『Reinventing Organizations』の英語原著を読み解く会も始まりました。

2016年12月の「reinventing organizations」読み解き会

また、2017年6月以降はhome's vi自体をティール・パラダイム的な運営へシフトするため、『ティール組織』で事例に挙げられていた組織運営法であるホラクラシー(Holarcacy)の導入を行うこととなります。

当初は、NEXT-STAGE WORLD以降、嘉村らとコミュニケーションしてきたメンター、ジョージ・ポー氏(George Pór)にご協力いただき、またミーティング・プロセスの伴奏はホラクラシー(Holarcacy)の実践を深めていた吉原史郎さんに参加してもらうことで進めていきました。

私自身は2017年7月以降、ホラクラシー(Holacracy)のファシリテーターとして実践を積み始めました。

これ以降、私にとっての新しいパラダイムの組織づくりの探求は、ホラクラシー(Holacracy)を軸に進んでいきます。

2017年11月、2018年8月には、ホラクラシーワン創設者トム・トミソン氏(Tom Thomison)、ヨーロッパでのホラクラシーの実践者であるクリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏(Christiane Seuhs-Schoeller)らを招聘したワークショップのスタッフとして参加し、

2019年9月には、ホラクラシー(Holacracy)の開発者ブライアン・ロバートソン(Brian Robertson)が講師を務める5日間のプログラムにジョインし、そのエッセンスや源泉に触れることを大切にしてきました。

ティール組織と成人発達理論

インテグラル理論と成人発達理論

『ティール組織』の中でラルー氏は人類誕生以来の組織構造の変化の歴史を、思想家ケン・ウィルバー(Ken Wilber)の意識の発達理論・インテグラル理論(Integral Theory)を用いて説明していたため、より良い組織づくりのための研究領域として成人発達理論と呼ばれる領域によりスポットが当てられるようになりました。

そして、『ティール組織』出版以降、国内ではケン・ウィルバーの絶版本が再度出版される、新たな邦訳本が出版される等、発達理論および意識の変容に関する書籍が相次いで出版されました。

先述のホラクラシー(Holacracy)は、ケン・ウィルバー氏の四象限(世界に存在する多種多様な情報を、内面と外面・個と集合という2軸で分けた分類・整理のためのレンズ)が応用されていたため、必然的に私の探求はケン・ウィルバー氏の著作および研究へと向かいました。

このような流れの中で、2011年の時点でインテグラル理論および意識の発達段階を対人支援・ビジネスの領域で活用する書籍『インテグラル・シンキング』を出版されていたのが、一般社団法人Integral Vision & Practice代表理事である鈴木規夫さんでした。

『ティール組織』出版以降、いわゆる成人発達理論がビジネスの領域に広く紹介されるようになり、安易に人を測定する物差しとして活用される危険性も高まりました。

その物差しは、一体何を「良し」と判断するための物差しなのか?

その物差しは、人や組織の価値を判断するための唯一絶対の物差しなのか?

という視点が欠けたままでは、物差しは偏った使われ方をしてしまいます。

このような中、鈴木規夫さんはケン・ウィルバーに限らず、ロバート・キーガン(Robert Kegan)ザッカリー・スタイン(Zachary Stein)、スィオ・ドーソン(Theo Dawson)、スザンヌ・クック・グロイター(Susannne Cook-Greuter)といったさまざまな学派、流派に属する研究者たちや研究・実践の潮流を踏まえつつ、実際に対人支援の領域で成人発達理論を活用するとはどういうことかについて、2021年に著書を出版されました。

上記のような背景も手伝い、私自身も理解を深めていくために読書記録としてまとめています。

社会の文脈・構造と成人発達理論

『インテグラル理論』を提唱したケン・ウィルバーをはじめ、意識の発達段階の研究者の多くが、ある集団、ある組織、ある社会における慣習・文化・意識段階が個人に対して大きな影響を与えていることを言及しています。

私自身もまた、『ティール組織』に端を発した人の意識について探求を進めているうちに、人々を取り巻くより大きな構造……産業構造、政治、経済といったものが人の意識に及ぼす影響について理解を深めていく必要性を感じていました。

日本において、いち早く『ティール組織(Renventing Organizations)』の潮流を海外から伝えてくれた先駆者であり、『実務でつかむ!ティール組織著者の吉原史郎さんもまた、鈴木規夫さんらとの親交を深める中で同様の問題意識に直面されたのかもしれません。

吉原史郎さん鈴木規夫さん、加藤洋平さんの鼎談企画である『成人発達理論とティール組織 各分野の専門家による対談〜Reinventing Civilization 「文明の再発明」に向けて〜』は、まさに人や組織を取り巻く「文明そのもの」について再考しようという意図から開催された、と認識しています。

人の意識・社会の構造の背後にある主義・思想

新自由主義的資本主義社会とお金(マネー)

加藤洋平さんはこれまで、発達心理学とインテグラル理論に関する研究を進めて来られました。

また、ハーバード大学教育大学院教授カートフィッシャーKurt Fischer)が提唱した発達理論「ダイナミック・スキル理論」を紹介する書籍の出版、

構成主義発達理論(constructive developmentalism)のオットー・ラスキー博士(Dr. Otto Laske)の書籍の邦訳出版など、

成人発達理論に関して、より包括的にアプローチするための幾つもの道筋を日本に紹介されてきました。

しかし、

「人間の成長に関する問題が永続しているのは、なぜなのか?」

という問いに立ち返った時、この「人間の成長に関する問題を生み出している問題・構造・文化」に目を向けなければ、これまでの自身の取り組みも有意義なものとできない、と感じられたとのことです。

人間の成長に関する問題を生み出している問題・構造・文化」とはすなわち、個人やひとつの組織を超えたより大きなコンテクスト(文脈)であり、それは先述した新自由主義に基づいた資本主義社会などに代表される社会文化的な構造などが考えられます。

吉原史郎さん鈴木規夫さん、加藤洋平さんの3名による鼎談の中でも、社会の構造お金(マネー)というシステムについて議論が交わされました。

この『Reinventing Civilization 「文明の再発明」に向けて』という鼎談企画の後、私は『ソース原理(Source Principle)』という知見について探求する中で、再び人の意識・社会の構造・お金(マネー)というテーマに巡り合うこととなりました。

今年4月、ソース原理(Source Principle)提唱者のピーター・カーニック氏(Peter Koenig)が来日され、鈴木規夫さんとピーター・カーニック氏による対談企画も開催されたのですが、ここでも焦点に当たったのは人の意識・社会の構造・お金(マネー)でした

その際の内容については、以下の鈴木さんご自身の振り返り記事、Forbes Japanにて掲載されたピーターへのインタビュー記事および、まとめもご覧ください。

疲労社会とハッスルカルチャー

『ティール組織』の探求から成人発達理論、そして人の意識・社会の構造・お金(マネー)というテーマへと探求を進めてきましたが、ここで再び加藤洋平さんから新たなキーワードをご紹介いただきました。

それは、『疲労社会』というキーワードです。

疲労社会(Müdigkeitsgesellschaft)』とは韓国出身ドイツ在住の哲学者であるビョンチョル・ハン(Byung-Chul Han)によって提唱された概念であり、現在の、新自由主義(ネオリベラリズム:neoliberalism)に基づいた資本主義社会を指して表現した言葉です。

英語表現では、『The Burnout Society(燃え尽き症社会)』とも称されます。

政治経済上のイデオロギーの一つである新自由主義には、「達成主義(achievementism)」「能力主義(meritocracy)」が内在されており、新自由主義化が進んだ社会においては『ハッスルカルチャー(hustle culture)』が醸成されます。

ハッスルカルチャーにおいては、人々は飽くなき成長、成果、成功といった過剰な活動変化の加速へと駆り立てられ、時に燃え尽き、うつ状態に陥るなど心身を疲弊させてしまいます。

人々は新自由主義、ハッスルカルチャーによって「できること」「肯定的な感情」「成果を生み出すこと」に無意識のうちに絡め取られ、「あえてしないこと」「否定すること」「無為に過ごすこと」を抑圧してしまいます。

この『疲労社会』という概念そのものは、先述の『成人発達理論とティール組織 各分野の専門家による対談〜Reinventing Civilization 「文明の再発明」に向けて〜』にて加藤洋平さんからご紹介いただいており、ティール組織・人の成長についての探求の中で常に意識してきたものでもありました。

ビョンチョル・ハン(Byung-Chul Han)の文明論に関する書籍は現在、『疲労社会』『透明社会』に加えて『情報支配社会』の3冊が日本語で読むことが可能です。

以下も参考にご覧ください。

成長疲労社会とは?

成長疲労社会』とは、先述のような『疲労社会』に関する洞察をもとに、特に人の成長と、成長を取り巻く社会文化的な事柄について現代社会を言い表した、加藤洋平さんによる造語です。

先述の鼎談企画以降も思索を深められていた加藤洋平さんは、2023年4月に新刊である『成人発達理論から考える成長疲労社会への処方箋』を上梓されました。

成人発達理論から考える成長疲労社会への処方箋』では、先述したドイツの哲学者ビョンチョル・ハン(Byung-Chul Han)および、神学者ポール・ティリック(Paul Tillich:パウル・ティリッヒ)の観点を核としながら、現代社会への洞察が進められていきます。

また、本書の出版企画として、加藤洋平さんと鈴木規夫さんの対談企画が実施されました。

対談企画の中では、

人がポストコンベンショナル(後慣習的段階)のあり方・ティール段階の意識で生きるとはどういうことか?

新自由主義、資本主義という社会のコンテクスト(文脈)が存在する中で、私たちは成長疲労に陥らないために何から始めていけるのか?

ポストコンベンショナルであるということは、わたしたちを取り巻くコンテクスト(文脈)を同定・自覚しつつ、コンテクストに対して積極的に働きかけていけること」だとするならば、私たちが「コンテクスト・チェンジャーとなるためのステップ」は、どのようなものになるのか?

といった問いが扱われました。

最後のコンテクスト・チェンジャーへのステップについては今後のさらなる探求が必要になる領域であり、ここまでが現時点での探求の旅路の最先端です。

ティール組織に端を発した探求の旅路を振り返って

『ティール組織』を探求を続けてくる中で感じたのは、組織を起点として個人に焦点を当てた探求と、社会に焦点を当てた探求のそれぞれを並行しながら進めていく必要性と重要性でした。

『ティール組織』の概念の中では、存在目的(Evolutionary Purpose)について紹介されています。

存在目的(Evolutionary Purpose)について探求をし始めた時、そもそも私たち一人ひとりにも目的やパーパスが存在することに思い当たります。

この、個人に焦点を当てた探求を続けていった結果、ピーター・カーニック氏(Peter Koenig)が提唱したソース原理(Source Principle)という概念に出会いました。

組織を実体として捉えるのではなく、人がアイデアを実現するために一歩踏み出した活動や、それに伴う協働に焦点を当て、それらの結果や法的手続き等の必要性から組織が形作られる、という観点に立って捉えるのが、ソース原理(Source Principle)です。

ティール組織をより個人に焦点を当てた探求の旅路については、以下のような探求記録としてまとめました。

そして今回まとめたのは、組織からより広く視野を広げた社会の構造・文化と、その背後にある主義・思想に関する探求についてです。

人・組織・社会はそれぞれ密接に繋がっており、影響しあっています。

そのため、組織をより良くしたい!と思い立った時には、組織の構造・文化だけではなく、組織に所属する人、組織を取り巻く産業・構造・社会について、複数の文脈や異なる層に対する視点が重要になると私は考えています。

また、一人ひとりの創造性や可能性が発揮されていくような組織、社会の実現のためには数年単位ではなく、数十年先、数世代先を見据えた思考や行動も必要になってくるでしょう。

やや話が脱線しますが、私の生まれ育った故郷には地域の神社が田んぼの中央に佇んでいます。

田んぼの真ん中に佇む神社

そして、神社の森に足を進めていくと数百年かけて地域の人々たちを見守り、同時に地域の人々たちに見守られてきた森が天高く幹を伸ばし、枝を広げている姿を見ることができます。

枝を広げて茂る鎮守の森の樹々

一人ひとりの創造性や可能性が発揮されていくような組織、社会の実現を考えたとき、私自身はこの森から感じられるあり方を大切にしつつ、長い時間がかかり、やがてこの世を去る日が来ても誰かが思いを継いで続けてくれるように……そのような心持ちで一歩一歩、活動を続けていきたいと考えています。

私自身の探求は今後も継続していきますが、このような旅路をご一緒してくださる方が一人でも増えてくれれば幸いです。

サポート、コメント、リアクションその他様々な形の応援は、次の世代に豊かな生態系とコミュニティを遺す種々の活動に役立てていきたいと思います🌱