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桜よ……


日ごとに太陽の温もりが増し

風の冷たさも和らぎ

雪解けが急速に進む頃

桜の開花時期が報道される。

途端に、私の心は憂いを帯びる。

母の命日が迫り

春の陽光とは裏腹に

寂しさが募る。


桜の蕾が、ふっくら膨らみ始めた頃、

母は旅立って行った。

咲き始めた桜を見ることなく

母は逝った。

深い悲しみに沈んでいる間に

桜が一斉に咲きほころび

それが逆に寂しさを増幅させていった。


今年もまた、桜の便りが

3年前の記憶を呼び起こす。

母の命の灯火が消え

亡骸を腕に抱えるまでの一部始終が

鮮やかに蘇る。

1つの命が消え去っても

自然は営みのサイクルを繰り返す

季節は確実に巡っていく

そんな当たり前のことが切ない。


今年もまた、咲き乱れる桜が

悲しみを誘う。

桜よ、

そんなに綺麗に咲かないでおくれ。

視界を覆い尽くすほど

咲き乱れるその様が、

一層、私を切なくさせる。

母が亡くなった悲しみが蘇る。

いっそのこと、春ではなく、

夏に咲いておくれ。

これ以上、悲しませないでおくれ。


母さん、会いたいよ。

人が亡くなるということは、

会いたくても

もう二度と会えないことなんだと

母さんがいなくなって

初めて気づいたよ。


桜よ、

お願いだから、

それ以上、華蓮に咲かないでおくれ。

お願いだから……。





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