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泥唾のにおいをかぎながら、九月あたしはブランコに揺れる台風日和の夜

どうも。くずです。
数日前の夜、雨が降ってたね。
ゲームもネトゲもセックスも飽きたから
お散歩しました。
台風の晩、
目つき悪いメスガキが
狂ったように
赤いブランコをたちこぎしています。
明らかにやべぇですね、
よく通報されなかったな。
キティちゃんのパーカーが
雨粒に濡れて溶けて、
PIERROTの変拍子だけが
低気圧よりも激しく、静かに
あたしの耳の中へ息を吹きかける。

ふいに思う、
「あ 嫌な匂いがするな」


こないだ「バイトしたい」って言ったら
「フルタイム勤務しないと
ケースワーカーが許可しないと思う」
って返されました。

プロフィールにもありますが、
わたしって生活保護なんですよ。
でも、一応進学と一人暮らしも考えている為
お金が必要なんですね。
来年からは大学無償化も始まるけれど、
入学金や学費以外にもお金はかかります。
しかし、税金でおまんまモグモグしてる訳ですから
幾ら学びたいガキんちょとは言え
当然働くのには制限があり、
一万五千円以上稼ぐと
その分保護費用から引かれてしまいます。
で、まあ一万五千円とか糞低シフトで雇ってくれる所は少ないし、月々一万五千円とか
正味全然足りないのですけど、
我慢して何とか働こうと思い、
母親に言いました。

すると、今年のケースワーカーさんは
大分真面目な方らしく
原則第一ぺろぺろ原則至上主義で
「え、働けるんですか?
じゃああなたの生活保護は解除して
フルタイム勤務出来ますよね??」となる方で。
中学卒業した途端に
家でぷーたらぷーたらしてるくずガキが、
いきなりフルタイムで
しかも受験勉強と両立するのは
中々大変ですね。
わたしが働いた分家に入るお金も減るので、
途中で辞めたりせず
家にもお金を入れつつ、進学費用も貯めなくてはならない。
とまあ、母親も一応ケースワーカーさんには
相談してくれるみたいですが、
ちょっと難しそう。

不安とは地続きなものだ。
過去にあの「不安」が消えたと思ったら、
もう目の前に新たな「不安」がしゃがみこんでいる。
生きている限りは
多かれ少なかれ絶対に背負わなくてはならない。
頭では分かっているのだけれど、
それでも思ってしまう。

「こうやって自分の檻の中でだらだら暮らしているだけなのに、どうして生きてることって、こんなにつらいんだろう」

私が敬愛する作家の短編に出てくる
一文だ。
小学五年生の時に読んだ時は
ふーんとしか感じなかったが、
今は痛い位に心へ染み込む。

貧乏なのは仕方なかった。
母親も好きで働けなくなったのではないし、
むしろ生活保護をきちんと申請してくれた
おかげで、
健康で文化的な最低限度の生活を営めている。
メンタル面の健康は少々怪しいが、
シジミかふりかけしか
無かった頃よりはずっと良かった。
奨学金の制度だって充実しているし、
あたしより苦労している人なんか
病院や学校でいくらでも見てきた。
当然お分かりだろうが正直、
あたし程度の境遇の子供は
今の日本では全く珍しくない、普通だ。
薄幸ぶることに
底知れぬ後ろめたさを感じ
「あたし程度」とへりくだっているが、
でも

嫌な匂いがする。

生臭くて、泥と土塊が混ざりあった
気持ち悪い匂いが
あたしにまとわりついている。
雨に濡れながら、ずっとこのにおいが
あたしの体から流れ出ている気がして、
ぐしょぐしょのパーカーの袖で
何度も前髪を拭った。
人間の唾液と泥濘のにおい。
人が泥を啜り、土をはんで
泥水の中溺れている時のにおい。

どんなに強がって、
大したことないと言い張っても
実際に大したことなかろうと、
それでもあたしは辛かった。泣きたかった。
なのに涙は一粒もこぼれてくれなくて
可愛くないなぁと呟いて、また死にたくなった。
あたしの弱さがいけないんだとは思う、
弱い自分が嫌で嫌で醜くて仕方ない、
でも、でもでもでも
あたしが握る鎖は錆びきっていて、
もうこの両手は赤く染まりきり
雨も降りやまない。
風邪をひいて
九月の咳を繰り返すばかりだ。
小さい頃からブランコをこぐ度に、
何処かへ飛んでいけるような気がした。
そのまま体がぽーんと
空まで跳ね上がれるんじゃないかと思った。
けれど、何度宙に近づいても
体は後ろへ引き戻されてしまうのだ。
手を伸ばしてみても
何にも届きはせずに、
空しく前後へ揺れるだけだった。
赤い錆が手から腕へ、腕からお腹へと周り
きっとあたしもいつか
ブランコと見分けがつかなくなるんじゃないか。
漠然とした不安と泥臭い絶望感が、
ごつごつとした両手で
延々と背中を押す。
この体を吹き飛ばされないように
前から跳ね返してくれる存在が
何なのか、これから探していくつもりだ。

あなたもブランコ、こいでますか?



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