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鎌首をもたげる

慣用句として、「良くないことが起こる前触れ。鳴りをひそめていたものが活発になること」 《例文》 わたしやめられないの ソレを 絶対にやめられないの 強迫観念みたいに ダメだダメだと 思えば思うほど どうでもいい ソレが 鎌首をもたげて はな組のみんなが 御子柴先生の教え子たちが 下世話な女性誌系youtuberの動画に唆され 雅子さまの悪口ばっかり 言ってるんじゃないかって 気になって気になって ああ もう寝なきゃ 今日も4時だ もう寝なきゃ ねえどうして いっつもそう

    • ユーミンな午後 (短編小説)

      休日の午後のコメダ珈琲は休日の午後をコメダ珈琲で過ごそうという類いの人々でごった返している。 何か書き物をする時、私は群衆の中に身を置く。 そこに私にしか見えていない宇宙人が降りて来て不思議な交流が始まることもなければ、急なゾンビがいま私が眺める窓ガラスにへばりついて来ることもない。 市井の人々のぬるま湯のような日々から捻り出されるぬるま湯のような話ぬるま湯のようなおトクの中にこそ私が書きたいぬるま湯のようなものがあるとユーミンが半身浴しながら言っている。 窓の外を飛沫をあ

      • 31番バスのりば (短編小説)

        例えばいま目の前のバスに乗るとする。 31番のバスは背山のイオンを経由して植物園へと至るが5分後に来る53番の快速を花見坂下で降りると31番と同系統の30番に4分先回りして接続し花見坂下で30番に乗車後7分の勤労会館前で浜口団地方面左回りの9番快速に乗り換え3分の希望ヶ丘入口で下車48分歩くと31番より1分早く植物園に着く。 バスターミナルには乗りもしないバスが次々と入っては出ていく。行先は同じでも辿る道が違うせいでバスは別の数字を与えられ、14番は市民病院へ行くから井堀

        • クアラルンプール (短編小説)

          「ヴギ」という洋品店が昔あった辺りだろうか。 いつ来ても日暮れているような川のように緩やかに蛇行する商店街の端に、お誂え向きの朽ちた外観の喫茶店ができていた。歴史観光地にある色を抑えたコンビニみたいな揉み手ぶりが鼻についたが、そのついた鼻腔をくすぐる芳醇な珈琲の香りと不思議な店名に惹かれ立ち寄った。 流木をあしらった扉の取手を押し開けるとクラン川の流れは急となり押し寄せ、私は掴んだ流木諸共濁流に飲み込まれてゆく。 夕闇の川辺には褐色の屈強な背が座している。背中の男は原始的な青

        鎌首をもたげる

          My Bird Peforms (短編小説)

          おはよう。おかあさん。 いってきます。 駕籠の中で鳥は様々な言葉を覚える。 まるで休日の午前中のような日差しが降る平日の午前中。 家族が出掛けた後の静かになったリビングで、妻は窓際の鳥かごをテーブルへと運び、その前に腰掛ける。 かごの中の鳥は混じり気のない黒目で、こうして妻と向き合うことを鳥は楽しみにしている、と妻は思っている。 「ツカレチャッタ。ツカレチャッタ」 「ううん。今日は違うの」 足元にあるオイルヒーターのスイッチを止めると長い冬が終わる。 レースのカーテン

          My Bird Peforms (短編小説)

          Books Are Burning (短編小説)

          あなたが燃えています 誰からも愛されず、気付いてもらえず、 堆く積まれたマンションのごみ捨て場の 一番下にある可燃ごみ袋のような あなたと、あなたの文字が 燃えています 染みだらけの手帖に殴り書いた 詩とも小説ともつかない 日々の醤油がこびりついた 剥き出しのあの文字たちは あなたの最後の抵抗だったのでは ないのですか 関わり合うことを拒絶した 世界への 遣る瀬ない叫びであり それでも捨てきれぬ何かを託そうとした 撚れた糸ではなかったのですか でもあなたは それを抱えて逝くこ

          Books Are Burning (短編小説)

          The Can,the smaller the better (短編小説)

          佐潟村には商店などひとつしか無く もう夕間暮れ 牛蛙が鳴き 煮炊きの匂いがする まだ畔道だった道を 父の使いでよく通ったものです 亡くなった母は 午前のうちに小豆を炊き よくお汁粉を作りました 独りになった今も 父はそれが忘れられず あの道を通い ツルハドラッグで買った 小豆の缶詰で お汁粉を作っています 一缶を使い切ると多くなるので 八使って、二余します 次の日も 八使って、二余す 余した二から使えばよいのに 父は 余した二を使えば 今開けたのを六しか使えず 二余すはずが

          The Can,the smaller the better (短編小説)

          あひる(短編小説)

          かつて七十年代に開発されたこの辺り一帯の新興住宅地へ濁流のように流入したニューファミリー層たち。海外、とりわけアメリカの生活様式に憧れた彼らは、朝食にはトーストとリッターの牛乳瓶からミルクを注ぎ、休日になると近くにあるこの二面のテニスコートでこぞって汗を流した。端材のバットしか知らなかった少年が初めて手にしたヨネックスのラケットが、今も目の前のフェンスに立て掛けられている。 先月引っ越して来たばかりの私は適当なことを言いながらウォーキングへ行く。 冬なのに今日は暖かい。それで

          あひる(短編小説)

          短編小説 唐津にて

          そこまで綴ると先程の地酒が回ったのか、眠気が差して女は筆を置いた。 翌朝、和装の女は唐津の城下町を二日酔いのままそぞろ歩く。 武家屋敷通りはまだ人気が無くがらんとしていて、朱塗りの下駄の音が から、ころ、からと玩具のように石畳の上に響く。 ときに立ち止まり、ゆっくり横を向いて塀の上の猫をぼうっと眺める女は科をつくる芸妓のようだったが、合わない枕で首を寝違えていた。 通りの郵便局で女は切手と封筒を買った。 昨夜の便箋を綺麗に畳み、その封筒に収める。 美しい虹の松原の海岸線が

          短編小説 唐津にて

          朝の公園(短編小説)

          タクシーにデュクシーと撥ねられて入院した患者が寝間着のまま抜け出してまだ薄暗いベンチで煙草に火をつけると公園の一日が始まる。「カン専用」と書かれたゴミステーションから溢れる空のペットボトル。遊具の向こうで悠久の時を刻む老婆の太極拳。野良猫に囲まれた高齢男性は「野良にエサをやるなとか言うバカどもがいる、目の前の飢えたミーちゃんを救わないで何が愛護だ」と独り話す。コンビニの袋から餌っぽい何かを撒いた後、つられて寄って来た鳩を蹴散らしながら男は公園を何周かする。中央の広場に日が射し

          朝の公園(短編小説)

          サングラスの世界 (短編小説)

          近頃は外出する時サングラスをかけるようになった。白内障の手術を受け六〇年以上酷使してきた目を保護する意味もあってのことだ。散歩の途中で出会う店先の旬野菜が瑞々しい彩りを見せ公園の木々が色づきながら移ろうのを遮光レンズの薄いグレー越しにしか楽しめないのでは一体何の為の手術だったのかと自分で可笑しくなる。行きつけの酒屋ではいつものように店主の奥さんが忙しなくしていて、床に置かれた酒瓶のケースを持ち上げては裏へと運んでいる。襟元の緩い服を着ているので酒瓶のケースを持ち上げようと前屈

          サングラスの世界 (短編小説)

          カレイドスコープ (短編小説)

          県道85号線の阿羅木町と下谷の境に洗川という川が流れている。 付近の用水を集めて流れているような小規模の川で、県道を渡す為古い橋が架けられている。 この橋の名前を長く知らなかったが、聞くと橋の袂にある沢木米穀店に因んだ沢木橋や米屋橋というのが周囲の住民の呼び名であるようだ。 米穀店の前には朽ちかけた長椅子が置かれていて寄合バスの待合所となっている。 百舌鳥が一羽、しきりに鳴いている。 何処で鳴いているのか、しかし独りで器用に鳴くものだ。 長椅子でギキキキと鳴き声を真似ている

          カレイドスコープ (短編小説)

          旅行へ行かないふたり (短編小説)

          「城崎温泉なんかいいんじゃない? ♫カニ食べいこう〜てあったじゃん。あダメだ、お品書きに甲羅のグラタンある。私乳製品ダメなのに。何でカニ料理のコースて決まって甲羅グラタンあんのよ。ようやく料理長になって立派なカニ目の前にして、よしグラタンやってみるかとはならんでしょ普通…うんこっちの宿の方が良さげ、お部屋に温泉もあるし。ねえどうする?」 グダグダ喋って彼女はノートパソコンの画面をこちらに向ける。見ていたバチェラージャパンの続きが気になるがソファを離れ、隣で画面を覗く。 「

          旅行へ行かないふたり (短編小説)

          落雁 (短編小説)

          細く白い指が線香を摘む 蝋燭の火が横顔を仄かに染める 辺りを襲った俄雨の跡が 湿濡るうなじをつうと伝う 「急な雨でしたので 家寄りのようなことです すぐ去きますので」 蒸し風呂のような部屋で 私は汗をおさえる 格子戸の隙間から僅かに差し入る 夕前の明り 村太鼓と笛の音 「もう何年も だれも来て居らぬのですよ」 此の頃の人気無い和室の 畳の湿りを吸う上げたように 気怠い夫人の声は 発した傍から 腐り始める 「珈琲でも、お持ちしましょう」 夫人はそう残し席を立つ 盆

          落雁 (短編小説)

          (詩) 1000Umbrellas

          化学工場の用水路を辿る 冒険家たち ジャンボタニシの朱い卵を目印に 芒(すすき)の波が途切れた所で 夢は敷地内へと吸い込まれた 金網の向こうは機械の世界 金網の向こうは大人の世界 ルンバみたいにペッタンコになれたら はいれるのにな ちがうよおおきくなるんだよ おおきくなって中年になるんだよ 中年になってえらくなって ふんぞりかえっていれてもらうんだよ じゃあいっぱいたべておおきくなったら 中年になれるの? いっぱいたべてはらがふくれたら 中

          (詩) 1000Umbrellas

          (詩) In The Club

          すれ違う すれ違う 青い光 通り過ぎる 青い光 すれ違いざま 横顔、あ 目で追った クラブミュージックと目眩く闇 ケータイが青白く照らす あなたの顔 すれ違う 振り返れず 彗星のように見送る ニンガピョンガタッカリマッコリ チョカレナイジリュブへ クンデチョウミョモヤストスミダ チングリマンダリョブへ 「In The Club」 2NE1

          (詩) In The Club