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【短編】月光症候群

【短編】月光症候群

 海松の茂みに身体をあずけて、ぼくははるかな水面を見上げていた。ぼくにとっての〈空〉。揺れるそれが碧く見えるのは、本物の空の色を映しているからだ。右手を空に伸べると、海松の葉から細かな気泡が立ちのぼった。いくら望んでも、この手は届かない。
 小魚の群れが螺旋を描きながら水面に昇ってゆく。いっせいに向きを変えるその身体が、銀に耀いた。彼らはどこへゆくのだろう。ぼくは指の間から〈空〉を透かし見、ぼんや

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【ショート】あを

【ショート】あを

 空よりも透明で海よりも深い色。
 お気に入りのインクで手紙を書いた。
 愛用のペン先はこの店で手に入る一番細いものだ。
「カウンターに物を広げるな。邪魔だ」
 店主の言葉も意に介さず、少年は自分の手先に集中している。
「どうせ、他の客なんて来ないくせに。――ビンをちょうだい」
 書き終えた便箋を細く巻きながら、彼はどこまでも無邪気だ。
 店主は鳥かごや色褪せた書物や鉱石といった雑多なものが並ぶ棚

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【ショート】大きくなったら

【ショート】大きくなったら

 その鳥は、空を飛ぶことができない。
 代わりに、水の中を翼を使って自由に泳ぐことができるらしい。
 アルファベットのPのところに描かれた絵によると、色合いはゴジュウカラに似ているようで、背中の部分がもっと濃い色をしているみたいだ。(絵がモノクロなので、どんな色なのかはわからない)
 二本足で歩くのは他の鳥と同じだが、足が短く、背筋を伸ばして歩くらしい。ずんぐりとした姿をしていた。
 ああ、昔は人

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【短編】くじら

【短編】くじら

 ある朝、一頭のくじらが流れついた。
 くじらは死んでいた。港のはずれの波消しブロックに頭をつけて、波が寄せるままに身体を上下させる。
 近付くと腐臭がすると、見物に出掛けた人々が云う。

 イサは図鑑を押しやって窓の外を見た。重なる家々の屋根の向こう、港はここからでは見えない。はるか水平線だけが色とりどりの屋根のすき間からのぞく。
 くじらは息絶えると、その身を静かに海底に沈め、生き物たちの糧と

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