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掌編小説

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掌編小説を纏めました! サクッと読めるので、ちょっとした時間に(*´-`)
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記事一覧

初めまして!

初めまして!

【写真で掌編小説】

「初めまして!」

僕は君の友達だ。

君が生まれて間もなく、君の隣で眠る。

ギュッと抱きしめて、話を聞いて、また一緒に眠る。

君が大きくなるにつれて、抱きしめてくれる回数は減ったけど、その代わりにいっぱい話しかけてくれる。

僕はその話が大好きなんだ。

君の友達でいられる事が嬉しいんだ。

そして、君は大人になっていく。

恋人が出来て、家族が出来て、君は新しい宝もの

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私はあなたが……

私はあなたが……

【写真で掌編小説】

「私はあなたが……」

私はあなたが嫌いだった。

あなたはいつも暗い顔で、悩み事や辛い事に苛まれているように見えるから。

言葉で繕うばかりで努力もしない。

そんなあなたはきっと誰にも好かれない。

だから、私はあなたが嫌いだ。

会社に向かう途中、新しくオープンした美容室が目に入る。

宣伝なのか技術を磨くためなのか、店先でカットモデルを募集していた。

若い美容師が声

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空の色

空の色

【写真で掌編小説】

「空の色」

私はいつもピンクのポーチを持って歩いている。

子供の頃からずっと大好きなピンク色。

お財布も筆箱も、お気に入りのものは全部ピンク色をしている。

今日もお気に入り色を持って学校へ行く。

美術の授業は教室を移動する。

お気に入りのポーチを持って教室を出る。

入り口で君とぶつかった。

私の落としたピンクのポーチを君は拾い上げる。

君は苦そうに笑いながら

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紫陽花と君

紫陽花と君

【写真で掌編小説】

「紫陽花と君」

私は雨が好きだ。

傘を弾く音も、ちょっと湿った匂いも、空気の冷たさも好きだった。

大抵の人は私を否定する。

雨のどこがいいの?と。

傘を差すのは面倒だし、気分も滅入るし、おまけに頭痛のタネにだってなる。

どこがいいのかがわからない。

そんな否定が大半だった。

だけど、君は唯一私を否定しなかった。

雨にも晴れにも楽しみ方がある、と。

君の楽し

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今日からの帰り道

今日からの帰り道

【写真で掌編小説】

「今日からの帰り道」

時間はいつも進んでいく。

前へ、前へ、時計は針を進める。

右足から踏み出し、左足で踏みしめる。

繰り返しを歩みと言うのだろう。

時計は針を刻むことで教えてくれる。

今、一秒が経った。

もうすぐ、十秒が来る。

さっき、一分が過ぎた。

足跡は後ろへ伸びていく。

ふと、考える。

時計が刻んでいるのは、未来への歩数ではなく、過去への足跡なの

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三つ葉のクローバー

三つ葉のクローバー

【写真で掌編小説】

「三つ葉のクローバー」

いつもと同じ帰り道に、見覚えのないベンチがあった。

いつもと同じだったら、通り過ぎるだけのはずだけど、今日はどこか気になり立ち止まった。

ベンチに対面して周りを見回す。

通行人はいない。

私はベンチに腰掛けてみる。

ベンチにかかっているカーテンの隙間から、新緑が見えた。

遠く遠くに見える緑は、心を擦り減らす日常を忘れさせてくれる気がした。

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コーヒーの香りが誘うもの

コーヒーの香りが誘うもの

【写真で掌編小説】

「コーヒーの香りが誘うもの」

朝食は家から少し離れたカフェに行く。

数年前に引っ越して来た時に、このカフェに巡り合った。

普段、コーヒーなどろくに飲まない。

コーヒーの種類以前の問題だ。

なのに、なぜか仕事に向かう途中、その香りに誘われた。

カフェの前に誘われ、扉を開ける。

クラシックの流れる店内には、落ち着きと安らぎがあった。

何を頼めばいいのかわからないの

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辞書にはない言葉

辞書にはない言葉

【写真で掌編小説】

「辞書にはない言葉」

辞書には言葉がいっぱいある。

幸せの定義とか、悲しさの行方とか、後悔の正体とか。

ありとあらゆる言葉が詰まっている。

ありがとうやごめんなさい。

意味はわかる。意味だけなら。

だけど、その言葉を正しく使うことは難しい。

昨日、友達から「うざい」と言われた。

僕の心にはささくれが出来たみたいに、キリキリとチクチクとした感じになった。

そし

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LINE患い

LINE患い

【写真で掌編小説】

「LINE患い」

きっと今頃、部活中なんだろうな。

LINEを送っても既読にならない。

既読機能は無い方がいい。だけど、ある方がいい。

矛盾しているけど、そう思えてしまう。

君が、私の手紙を読んだよ、という合図のような気がして、それが嬉しくも苦しくもする。

家に帰るまでの間に、何度も立ち止まりLINEを開く。

その度に一喜は無く一憂を味わう。

自宅に着き部屋に

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僕には君が必要

【写真で掌編小説】

「僕には君が必要」

視線を追いかけるといつも君は僕を見ていた。

雪の降る空の下も、真夏のかんかん照りの日も。

窓辺で寝ていればそっと撫でて、小さな窓の外を見ていると一緒に眺める。

陽炎のように気まぐれな君は、僕が不意に振り返ると抱き上げる。

まるで、僕が構って欲しがっていたみたいに。

君が寂しい時にはそっと横に座る。

君が泣いている時には膝の上に寝転ぶ。

笑っ

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幸せを頬張る

【写真で掌編小説】

「幸せを頬張る」

もったいないことをした。

今日の昼食はオムライスを食べてしまった。

ダイエットをしているのに、帰り道でこんなに美味しそうなパンケーキを見つけてしまうとは。

隣を歩く友人がパンケーキの看板に反応した。

「ちょっと寄ってみる?」

その言葉に頷く。

お店の中は甘い香りに溢れていた。

鼻先をくすぐる香りに絆される。

友人はパンケーキを頼み、私はアイ

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吹き抜ける風のように

吹き抜ける風のように

【写真で掌編小説】

「吹き抜ける風のように」

夜から朝へ、朝から夜へ。

移ろいを繰り返しながら進んでいく。

ある人は新しい足跡を未来と呼び、振り返った足跡が過去だと言う。

けれども、これまでの足跡に、もう一度足跡を重ねてみる。

すると、先ほどまであった綺麗な一つの足跡が、不恰好で大きな足跡へと変わった。

そうか……。

未来は新しい足跡を刻む事ではない。

時間を刻む事なのだ。

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黒猫のざわめき商店

黒猫のざわめき商店

【写真で掌編小説】

「黒猫のざわめき商店」

「いらっしゃい」

振り返ると、ざわめきがあった。

道を歩くのは黒猫と僕。

「君が言ったのかい?」

黒猫は「にゃあ」と応え、ざわめきの中へ向かう。

後ろを付いていく。

迷いそうなほどの緑に囲まれると、黒い野良猫は木陰に寝転んだ。

隣に座りなよ、と言われた気がした。

僕は黒猫の横に腰掛け、時間を過ごす。

黒猫は自由に毛づくろいをする。

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思い出の味

思い出の味

【写真で掌編小説】

「思い出の味」

初めて食べたキャンディクッキーはとても甘かった。

これまで、クッキーは少ししょっぱいものだと思っていた。

けれど、ステンドグラスのような透き通ったキャンディは甘く、クッキーのしょっぱさよりも勝っていた。

君が必死になって作ってくれたのは、今でも覚えている。

台所を占拠し、何人も立ち入らせないようにしていた。

初恋の相手に渡すのだとい

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