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【マガジン】掌編・短編小説

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くにんの「短編・掌編小説」を集めております。
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単行本「九月の雨はクラゲ色」を、BOOTHの秋風堂書房より発売いたしました。

単行本「九月の雨はクラゲ色」を、BOOTHの秋風堂書房より発売いたしました。

 みなさん、こんばんは。くにんです。 

 今冬一番の寒波が襲来しているとのこと、寒いですねぇ。

 さて、今回は嬉しいお知らせです。

 先日から制作作業をしておりました僕の初めての掌編・短編集が、BOOTHの秋風堂書房から文庫本として発売されました!

 題名は「九月の雨はクラゲ色」。著者名は「秋野紅人」。これは「くにん」の元々の筆名です。A5の文庫本で266ページです。

 ブログ「コト

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【短編物語】何も書かれていない手紙が途絶えた時 ~サイド ビー

【短編物語】何も書かれていない手紙が途絶えた時 ~サイド ビー

 これは、遠い遠い国の昔々のお話です。
 その頃はまだ、電灯はおろかガス灯も発明されておらず、人々は朝日が昇るのに合わせて起き出し、太陽の光の下で畑仕事をしたり家畜の世話をしたりしていました。そして、夕日が沈むのに合わせて仕事を切り上げるのでした。
 でも、農作業のような外での仕事を持つ人ばかりではありません。それに、農民にも室内で行う作業がたくさんあります。
 そのような者たちが用いた明かりとし

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【短編物語】何も書かれていない手紙が途絶えた時

【短編物語】何も書かれていない手紙が途絶えた時

 これは、遠い遠い国の昔々のお話です。
 その頃はまだ、電灯はおろかガス灯も発明されておらず、人々は朝日が昇るのに合わせて起き出し、太陽の光の下で畑仕事をしたり家畜の世話をしたりしていました。そして、夕日が沈むのに合わせて仕事を切り上げるのでした。
 でも、農作業のような外での仕事を持つ人ばかりではありません。それに、農民にも室内で行う作業がたくさんあります。
 そのような者たちが用いた明かりとし

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【短編小説】「落穂拾い」の特別展示にて

【短編小説】「落穂拾い」の特別展示にて

 年末年始の休暇に当たるからか、美術館の館内は、とても多くの客で賑わっている。
 もちろん、ここは落ち着いて絵画や彫刻を鑑賞するために多額の費用と労力をつぎ込んで作られた場所だから、賑わっていると言っても下町の商店街のような生命力に溢れた騒々しさがあるわけではない。品の良い服に身を固めた上流国民と思しき方々が、わかったよう顔をしながら密集していらっしゃるということだ。
 ヒソヒソ。ナニヤラ。ヒソヒ

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【短編小説】恋愛小説家北田文明の新作

【短編小説】恋愛小説家北田文明の新作

定刻。

照明が落とされたその一角は、上映直前の映画館内のように暗い。

そのスペースの奥側には、小劇場のような舞台があつらえられているが、その上は無人だ。ドライアイスによるものだろうか、どこからかうっすらとしたスモークが舞台上に流れ込んできて、静かに揺れている。

対面には三段のひな壇状になった仮設観客席が組まれている。舞台上とは対照的に、観客席は肩が触れ合うほどの近さで座った観客でいっぱいに埋

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【掌編小説】初盆に綴る手紙

【掌編小説】初盆に綴る手紙

 拝啓。

 最高気温予想が34度だと「35度を下回っている」とホッとする程の異常な暑さが続いております。
 お元気ですか。

 ・・・・・・で、あってますか? どうなんだろう? お元気ですか、ねぇ。
 いやぁ、出だしからいきなり躓いてしまったけど、初盆を迎えるに当たって君に手紙を送るよ。

 まったく早いもんだね。
 キミが逝ってしまってから、初めての夏を迎えることになるんだ。
 いまでも

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【掌編小説】最優秀死神の秘密

【掌編小説】最優秀死神の秘密

 いつもと同じ夜のはずなのに、何かが違う。
 おかしい。誰かに見られている気がする。
だけど、そんなことはあり得ない。自分の部屋の中にいるんだぞ。誰に見られているというんだ。

 何気なく若者が振り向いた先には、奴がいた。
 死神。
 黒いローブで全身を包み、大きな鎌を構えている骸骨。大柄な体を透して部屋の向こうがうっすらと見える。死神が抱える大鎌はその身丈を二つ重ねたほどの長さがあり、この世の

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【短編】蛇とイヴの物語

【短編】蛇とイヴの物語

「ああ・・・・・・。みんな死ねばいいのに・・・・・・」
 石上が発した不穏な言葉は、勢いよく吐き出されたものでもなければ、重々しく決意を述べたようなものでもなかった。しかし、ポツンとつぶやかれたその言葉は何やら特別な響きを持っていて、耳にした人の背中に冷たい汗を生じさせ、早急にこの場から去るための言い訳を考えさせるだけの力があった。
 もっとも、彼の言葉を聞いてこの部屋から誰かが立ち去る必要はなか

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【掌編小説】雪の日のプレゼント

【掌編小説】雪の日のプレゼント

「参ったなあ。今日と明日は、大変な大雪なのかぁ」
 数年前の冬の日のことだだ。その日、台所で皿を洗いながら傍らに置いたスマートフォンで天気予報を見ていたわたしは、心の中でつぶやいていたた。その言葉はとても口には出せなかった。わたしの腰にしがみついている二人の子供に、聞かせたくなかったからだ。
「ねぇ、ママ。今日はクリスマスイブだね」
「クリクマシブだよねぇ」
「ケーキ食べるよね」
「キチン食べるよ

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【短編小説】猫飯店事件

【短編小説】猫飯店事件

「弥永部長、片野先輩、藤本先輩。さようならー」
「はい、お疲れー。気ぃ付けて帰ってなぁ」
「じゃぁ、弥永。俺もお疲れーと言うことで・・・・・・」
「ちょい待ち。何言うてるん、自分はアカンで。しっかりつきおうてや」
「ああ、だよなぁ・・・・・・。がっくし」

 今日最後の授業が終わってから数時間が経った放課後。
 文芸部が部室代わりにしている三年二組の教室には、オレンジ色をした夕日が僅かに差し込むよ

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【短編小説】世界で最も関心を集めた手紙

【短編小説】世界で最も関心を集めた手紙

 漆黒で満たされた宇宙空間の中を、寄り添うようにしながら進んでいる二つの銀色をした球体。
 それらは、同じように宇宙に浮かんでいる巨大な星々と比較すれば極めて小さな存在であったが、星々の周囲に無数に散在している小岩石と比べれば遥かに大きかった。また、果てしなく広がる宇宙空間の中で捉えれば、それらはただその場で浮かんでいるに等しかったが、自らに定められた軌道に従って淡々と動いている惑星や衛星の動きと

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【短編小説】完全犯罪って、ありますよね

【短編小説】完全犯罪って、ありますよね

「完全犯罪って、ありますよね」
 若い女性の口から出たその言葉は、極めてはっきりとした調子で話されていた。
 とても信じられない言葉だが、聞き間違いなどではない。
 僕は少し離れたところで窓の外を眺めていたが、驚きのあまり声の主の方に振り返らざるを得なかった。

     ◆◇◇◇

 探偵事務所の応接室では、男女が向かい合ってソファーに身を沈め、小さな声で言葉を交わしていた。
 男はこの探偵

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【抒情詩】フラーレンの黒棒

【抒情詩】フラーレンの黒棒

夜空の青暗さを表す言葉がどれだけあったとしても、一夜の空が見せる色彩の豊かさを表現し尽くすことなどできない。
見る者に母なる海を思い出させるその深みの一端でもキミと共有することができたなら、ボクはそれを自分の成し遂げた一大事として記憶し続けるだろう。
それとは対照的なのが、漆黒で塗りつぶされた丘だ。
陽の光を浴びて輝いていた木々の緑葉も、長い時をかけて微生物が有機物を分解して生み出した褐色の腐葉土

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【短編小説】タワーマンションのショウコウキ

【短編小説】タワーマンションのショウコウキ

 えー、くにんでございます。
 「エレベーター」をテーマにした当アンソロジー、力作・名作の数々をお楽しみのところと思いますが、やはり、人間には休憩も必要でございます。そこで、この辺りで肩の力を抜いた私の小話をお楽しみいただきたく思います。
 あぁ、アンソロジーはまだまだ続きますから、お手洗いに行きたい方はお気になさらずこのタイミングでお願いいたしますね。

 さて、この「NEMURENU」とも「

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