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#読書録

【読書メモ】『ふつうの相談』(東畑開人著)

【読書メモ】『ふつうの相談』(東畑開人著)

著者の書籍のファンになり乱読状態なのですが、本書は、ウィットの効いた軽妙な語り口を想像して読み始めたらしっかりした内容かつ少々硬い文体で驚きました。『心はどこへ消えた?』から『野の医者は笑う 心の治療とは何か?』へと読み進めた身としては少々面くらいましたが、エッセンスのなるほど感は著者の他の書籍と同様に高いです。

ふつうの相談とは何か私が読み飛ばしただけなのかもしれませんが、本書のタイトルにもな

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【読書メモ】『問いのデザイン』(安斎勇樹・塩瀬隆之著)

【読書メモ】『問いのデザイン』(安斎勇樹・塩瀬隆之著)

2000年代前半に傾聴やコーチングといった言葉とともに質問力が流行った時期がありました。カウンセリングや臨床心理といった心理学(特に心理構成主義)の考え方に依拠しながらある程度は定着したように感じます。本書は、学習論をベースにして問いを扱い、質問や発問とは明確に分けて捉えています。社会構成主義に基づきながら、個人の変化や他者との関係性の変化を促し、個人として組織としての創造性の発揮に繋がる、という

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【読書メモ】『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』(早瀬信・高橋妙子・瀬山暁夫著、中村和彦監修・解説)

【読書メモ】『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』(早瀬信・高橋妙子・瀬山暁夫著、中村和彦監修・解説)

石山ゼミ関連でご一緒する早瀬信さんからご恵投いただき、さっそく読ませていただきました。早瀬さん、ありがとうございました!本書は、そのタイトルにたがうことなく、組織開発の入門書として読みやすく、また味わい深い書籍でした。

二つの組織開発組織開発に詳しい方ですと、二つの組織開発と聞くと「対話型と診断型の違いでしょ」となるかもしれませんが、本書では違う観点から類別をしています。具体的には、構造化された

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【読書メモ】企業における人材開発・組織開発の役割:『人材開発・組織開発コンサルティング―人と組織の「課題解決」入門』(中原淳著)第1章

【読書メモ】企業における人材開発・組織開発の役割:『人材開発・組織開発コンサルティング―人と組織の「課題解決」入門』(中原淳著)第1章

本書は、立教LDCの一年次の授業をベースにして中原先生が書かれたものです。私はその授業を約三年前に受講しています。興味深く受講し、多くのことを学んだ授業なのですが、「あれ、こんなこと中原先生おっしゃってたっけ?」ということが多く、人間がいかに忘却するのかに愕然とします。他方で、中原先生は「同じ授業を繰り返さない」という趣旨のご発言をブログでよく発信されているので、きっとアップデートされた内容が本書

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【読書メモ】『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(伊達洋駆著)

【読書メモ】『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(伊達洋駆著)

ビジネスリサーチラボの伊達洋駆さんより弊部に新著をご献本いただき、出張でオフィスに行った際に一冊いただいて拝読しました。伊達さん、どうもありがとうございます!心理的安全性、バズワード化していますよね。はやりすぎとも言える気もしているので、本書のような、まっとうな解説書にして入門書が出版されることは企業人事に携わる身として大変ありがたいです。

なぜ日本企業は心理的安全性に注目するのか?ここまで心理

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【読書メモ】日本型キャリア自律を考える。:『人材育成ハンドブック』(人材育成学会編)

【読書メモ】日本型キャリア自律を考える。:『人材育成ハンドブック』(人材育成学会編)

日本でのキャリア自律についてレビューする用件があり、色々と漁っていたのですが、「『人材育成ハンドブック』にはどのように書かれているのだろう?」と思い、読んでみました。人材育成学会が編集しているので半ば想像してはいたのですが、執筆者は花田先生で「キャリア自律への多様な支援」という項目で執筆されています。本自体は2019年出版なので、花田先生の更新された内容が書かれていると信じて、ポイントだけまとめま

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【読書メモ】『パラドックス思考』(舘野泰一 ・安斎勇樹著)〜実践編〜

【読書メモ】『パラドックス思考』(舘野泰一 ・安斎勇樹著)〜実践編〜

本書の第5章以降は、前半の理論編を踏まえた実践編です。具体的かつ示唆に富んだ事例に溢れていて必読の箇所です。特に興味深く感じた、感情パラドックスに気づくためのセルフチェック、キャリアに変化を創り出すヒントの二点について触れて、個人的に妄想したジョブ・クラフティングとのつながりを最後に少しだけ書いてみます。

理論編についての所感は以下のブログにまとめています。

感情パラドックスに自身で気づくため

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【読書メモ】スター社員はどのようなプロセスで生み出されるのか?:『Wedge』2023年2月号

【読書メモ】スター社員はどのようなプロセスで生み出されるのか?:『Wedge』2023年2月号

『Wedge』の最新号に掲載されている服部先生のスター社員に関する記事が面白いです。スター社員とは「例外的に高い成果をあげ、かつ広く内外労働市場においてその存在が知れ渡っている個人」(28頁)のことを指します。サクセッション・プランニングや高度専門人材のリテンションに関心がある人事パーソンに一読をオススメします。一般向けの雑誌なので平易に書かれながらも、ポイントが凝縮されています。

スター社員が

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【読書メモ】なぜ日本企業のシニア社員の縮小的ジョブ・クラフティングに着目するのか?:『シニアと職場をつなぐ:ジョブ・クラフティングの実践』(岸田泰則著)

【読書メモ】なぜ日本企業のシニア社員の縮小的ジョブ・クラフティングに着目するのか?:『シニアと職場をつなぐ:ジョブ・クラフティングの実践』(岸田泰則著)

岸田さんの博論が書籍化された『シニアと職場をつなぐ:ジョブ・クラフティングの実践』の第二弾として、第4章の調査デザインをみていきます。ちょっとマニアックな書き方になるのですが、博論では複数の査読論文を束ねて一つの論文として書き切るというプロセスを経ることになります。このプロセスの全体像をトップダウン的に描くものが調査デザインなので、著者の問題意識から全体設計へと落とし込むこの章もとても勉強になりま

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【読書メモ】SEM入門の決定版!:『共分散構造分析はじめの一歩』(小塩真司著)

【読書メモ】SEM入門の決定版!:『共分散構造分析はじめの一歩』(小塩真司著)

共分散構造分析とか構造方程式モデリングなどと訳されるStructural Equation Modeling(以下SEM)の入門書を読んでみました。文字通りの入門書であり、前提知識不要で読める安心な一冊です。心理統計の入門書は小塩先生にお世話になりっぱなしです。

SEMの図形の意味私がこれまでSEMを用いた論文をなんとなくの理解で済ませていたことがわかったのは、冒頭の、図形の説明に関するものを読

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【読書メモ】統計に苦手意識を持つ人が、統計が得意な人に相談するための本:『統計嫌いのための心理統計の本:統計のキホンと統計手法の選び方』(白井祐浩著)

【読書メモ】統計に苦手意識を持つ人が、統計が得意な人に相談するための本:『統計嫌いのための心理統計の本:統計のキホンと統計手法の選び方』(白井祐浩著)

新入社員の時に、周囲の先輩に相談しようとしても、的を射た質問ができずに、「そこを知りたいわけではなかったんだけどなぁ」という経験を持つ方も多いのではないでしょうか。ある事象を相談するためにはその事象についてある程度知っていないと相談できない、という逆説的な状況は世の中によくあるものです。本書は、心理統計に苦手意識を持っているのだけれども(が故に?)、うまく質問できないなーと思っている方にとって大変

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【読書メモ】心理測定尺度とは何か?:『質問紙調査と心理測定尺度』(宮本聡介・宇井美代子編)

【読書メモ】心理測定尺度とは何か?:『質問紙調査と心理測定尺度』(宮本聡介・宇井美代子編)

本書の第4章「心理測定尺度の概要」では、基礎的なところから心理測定尺度について解説してくれています。心理測定尺度とは、「人間のある心理的特徴をとらえるための「物差し」」(p.61)のことを指します。心理測定尺度を考える上で最も大事なことは、信頼性と妥当性です。最も大事という言い方は言い過ぎかもしれませんが、少なくとも論文では必ず出てくるキーワードです。それぞれに関する説明をまとめてみます。

尺度

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【読書メモ】自発的離職者が出ることが組織に好影響を与えることを明らかにした研究群:『組織論レビューⅢ』(組織学会編)

【読書メモ】自発的離職者が出ることが組織に好影響を与えることを明らかにした研究群:『組織論レビューⅢ』(組織学会編)

自発的な離職者が出ることはその組織にとって望ましくない、という言説は、実務家も研究者も共有している感覚と言えます。backfill採用とexit interviewに追われていたHRBP時代のトラウマ(?)のせいか、私も同じです。しかし、本書の第3章では、自発的な離職が在籍元の組織にとってポジティヴな影響を与えることもあるよ!という刺激的で興味深い研究群が紹介されています。昨今のalumni ne

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【読書メモ】グローバルに利用される心理尺度はどのようにつくられているのか?:『なるほど!心理学調査法』(三浦麻子・大林恵子著)

【読書メモ】グローバルに利用される心理尺度はどのようにつくられているのか?:『なるほど!心理学調査法』(三浦麻子・大林恵子著)

キャリア・アダプタビリティ尺度(CAAS)について書かれているSavickas & Porfeli(2012)は何度か読みました。ただ、この論文をあらためて熟読して気づいたのは、尺度開発の心理統計に関する詳細な手続き内容をこれまであまり理解していなかったということです。今回は、多国言語で使われる尺度開発について、以下の書籍で補足しながらまとめてみます。

不変性CAAS開発論文を読んでいて大量に出

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