石井和良

文芸批評を書いています。 Kindle著者ページ https://www.amazon…

石井和良

文芸批評を書いています。 Kindle著者ページ https://www.amazon.co.jp/stores//author/B0BGQYSB7H

マガジン

  • 平野啓一郎論

    小説家平野啓一郎氏の長編作品の主要テーマである「存在、時間、死、記憶」を身体性を軸に読み解きます。特に氏の提唱する「分人主義」について、氏の作品に絡めて徹底的に理解します。

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分人主義とは何か

【警告】 小説作品における物語の重要な部分に触れています。未読の方は十分に御注意下さい。 このテキストは『平野啓一郎論』の第一章にあたります。(全六章) 分人とは平野啓一郎氏は近年「分人主義」を提唱してきた。「分人」とは何だろうか。それは「個人を分割する」という発想である。本来、これ以上分けられないという意味の「個人」(individual)を分けてしまおうというのである。 氏は「個人」という考え方は、元々西洋文化に特有のものであるうえに、現代においてアイデンティティの問

    • 文学フリマ東京38出品物のご案内④ 『平野啓一郎論』

      今年五月の文学フリマ東京38に出店いたします。四作品、全て文芸批評での出品となります。 📍ブース:H-08 🗓5/19(日) 12:00〜開催 🏢東京流通センター第一展示場 出品物の一つ『平野啓一郎論』をご紹介します。こちらで最後になります。 近年「分人主義」を提唱されている平野啓一郎氏ですが、この論考では、その分人主義を使って氏の全長編を読み解いていきます。そうすることで、更に分人主義に対する理解が深まるからです。 そもそも「分人主義」とは、今一つ捉えどころのない概念

      • 文学フリマ東京38出品物のご案内③ 『マルチ・ヴァース・オブ・マッドネス 太宰治の構造分析』

        今年五月の文学フリマ東京38に出店いたします。四作品、全て文芸批評での出品となります。 📍ブース:H-08 🗓5/19(日) 12:00〜開催 🏢東京流通センター第一展示場 出品物の一つ『マルチ・ヴァース・オブ・マッドネス 太宰治の構造分析』をご紹介します。 四点のうちでは最も薄く、手軽に読めるものとなっております。 二章構成の第一章では、大宰の上昇志向に焦点を当てます。 第二章では、これも第一章と大いに関係しているのですが「水を渡る」という、太宰作品の主人公達の特徴的

        • 文学フリマ東京38出品物のご案内② 『三島由紀夫の構造分析』

          今年五月の文学フリマ東京38に出店いたします。四作品、全て文芸批評での出品となります。 📍ブース:H-08 🗓5/19(日) 12:00〜開催 🏢東京流通センター第一展示場 出品物の一つ『三島由紀夫の構造分析』をご紹介します。 まず私は、三島の右翼的活動とか、大作家である、ない、などの偏見を極力取り除いて虚心坦懐に全集を読んでみることから始めました。 すると、気付いたのは、三島の奇妙な処女(性)への拘りです。 たとえば『仮面の告白』は、見方を変えれば園子という処女と、妻

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        分人主義とは何か

        • 文学フリマ東京38出品物のご案内④ 『平野啓一郎論』

        • 文学フリマ東京38出品物のご案内③ 『マルチ・ヴァース・オブ・マッドネス 太宰治の構造分析』

        • 文学フリマ東京38出品物のご案内② 『三島由紀夫の構造分析』

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        • 平野啓一郎論
          20本

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          文学フリマ東京38出品物のご案内① 『筒井康隆論』

          今年五月の文学フリマ東京38に出店いたします。四作品、全て文芸批評での出品となります。 📍ブース:H-08 🗓5/19(日) 12:00〜開催 🏢東京流通センター第一展示場 出品物の一つ『筒井康隆論』をご紹介します。 「全ての筒井康隆作品はスパイ小説である」と言うと怪訝な顔をされるでしょうが、本論考では、この命題を実証していきます。 まず、代表的なスパイは『家族八景』の七瀬でしょう。彼女は人の心に侵入して、その人を操ろうとするのですから。 また、身分を偽って過去に侵入し

          文学フリマ東京38出品物のご案内① 『筒井康隆論』

          『平野啓一郎論』発売開始しました

          『平野啓一郎論』ペーパーバック版を発売開始しました。 小説家平野啓一郎氏の長編作品の主要テーマである「存在、時間、死、記憶」を身体性を軸に読み解きます。特に氏の提唱する「分人主義」について、作品に絡めて徹底的に理解します。 noteのマガジンからもお読み頂けます。 ペーパーバック版 Kindle Unlimited

          『平野啓一郎論』発売開始しました

          『平野啓一郎論』Kindle版発売開始しました

          『平野啓一郎論』のKIndle版を発売開始しました。2024.2.15夕刻まで無料キャンペーン中です。キャンペーン中にダウンロードすれば、いつでも無料でお読みいただけるので、いまのうちにどうぞ。 また、noteのマガジンでもお読みいただけます。

          『平野啓一郎論』Kindle版発売開始しました

          時間4 (平野啓一郎試論)

          【警告】 小説作品における物語の重要な部分に触れています。未読の方は十分に御注意下さい。 このテキストは『平野啓一郎論』の第六章です。 最初から読みたいという方はクリエイターページのマガジンをご覧下さい。 死者との再会ここまで、平野作品における主要なテーマである「存在、時間、死、記憶」について考察してきた。 彼の作品において、それらはいずれも身体を軸にして扱われる。 時間は、記憶という形で身体に取り込まれるし、死とは身体の存在が失われ、時間が無限へと還っていくことを意味す

          時間4 (平野啓一郎試論)

          時間3 (平野啓一郎試論)

          【警告】 小説作品における物語の重要な部分に触れています。未読の方は十分に御注意下さい。 このテキストは『平野啓一郎論』の第六章です。 最初から読みたいという方はクリエイターページのマガジンをご覧下さい。 過去は変えられるか大澤真幸氏は『<自由>の条件』の中で、「自由」についての問題提起に関連してマイケル・ダメットが挙げた例を紹介している。 ダメットが提起するのは「結果は原因に先立つか」という問題である。 ここに、封筒を開ける前に、必ず舌打ちする癖のある人がいる。舌打ちを

          時間3 (平野啓一郎試論)

          時間2 (平野啓一郎試論)

          【警告】 小説作品における物語の重要な部分に触れています。未読の方は十分に御注意下さい。 このテキストは『平野啓一郎論』の第六章です。 最初から読みたいという方はクリエイターページのマガジンをご覧下さい。 無限に還る『葬送』のドラクロワは、常に納期に追われ、時間を気にしている。 ドラクロワにとって、絵画とは、自分の生を場所に刻みつける行為である。彼は、作品が完成すると、身体の中を巨大なものが通過していったかのような荒廃を感じる。 彼は抜け殻になる。 絵画という怪物は、ドラ

          時間2 (平野啓一郎試論)

          時間1 (平野啓一郎試論)

          【警告】 小説作品における物語の重要な部分に触れています。未読の方は十分に御注意下さい。 このテキストは『平野啓一郎論』の第六章です。 最初から読みたいという方はクリエイターページのマガジンをご覧下さい。 時間に追われるという感覚平野は自作の主要な主題を「存在、時間、死、記憶」であると語っていた。(「方法を巡って 『高瀬川』」(『モノローグ』)) 特に平野は常に「時間」について考え続けている作家だといえる。 彼は「一区切りついた、という実感」(『考える葦』)では、作家の創

          時間1 (平野啓一郎試論)

          なりすましと変身3 (平野啓一郎試論)

          【警告】 小説作品における物語の重要な部分に触れています。未読の方は十分に御注意下さい。 このテキストは『平野啓一郎論』の第五章です。 最初から読みたいという方はクリエイターページのマガジンをご覧下さい。 分人は統合できるか平野は、作品の中で、様々な変身・分身・合体のファンタジーを描いてきた。 また平野は、分人主義において、個人を分割したものが分人であり、その分人の全てを統合したものが個人であると言う。 平野がいう「分人の個人への統合」とは何を意味するのか、もう一度考えて

          なりすましと変身3 (平野啓一郎試論)

          なりすましと変身2 (平野啓一郎試論)

          【警告】 小説作品における物語の重要な部分に触れています。未読の方は十分に御注意下さい。 このテキストは『平野啓一郎論』の第五章です。 最初から読みたいという方はクリエイターページのマガジンをご覧下さい。 錬金術(一体の体験)平野の初期三部作「日蝕」、「一月物語」、『葬送』の表立ったテーマは「二元論の統一」である。特に「日蝕」は、全編「統一」の暗示に満ちている。 「フェカンにて」の小説家大野の処女作は『太陽と月の結婚』というタイトルなのだが、これが平野の「日蝕」を指すのは

          なりすましと変身2 (平野啓一郎試論)

          なりすましと変身1 (平野啓一郎試論)

          【警告】 小説作品における物語の重要な部分に触れています。未読の方は十分に御注意下さい。 このテキストは『平野啓一郎論』の第五章です。 最初から読みたいという方はクリエイターページのマガジンをご覧下さい。 変身譚平野は『私とは何か——「個人」から「分人」へ』で、自分たちの世代はバブル崩壊後の就職超氷河期だったために、学生時代はアイデンティティの危機に直面したと書いていた。就職氷河期がアイデンティティ・クライシスになるのは、自分の個性が発揮できる仕事に就けるかどうかが非常に

          なりすましと変身1 (平野啓一郎試論)

          固有名と属性 5(平野啓一郎試論)

          【警告】 小説作品における物語の重要な部分に触れています。未読の方は十分に御注意下さい。 このテキストは『平野啓一郎論』の第四章です。 最初から読みたいという方はクリエイターページのマガジンをご覧下さい。 アナグラム固有名とは、親が、言葉のカオスに引いた輪郭線であり、具体的には顔である。そして、遺伝子とは、身体に埋め込まれた異物であった。その異物は他者(親)でもあり、紛れもなく自分自身でもある。 すると、固有名を変えるとは、もう一度言葉のカオスに輪郭線を引き直すことである

          固有名と属性 5(平野啓一郎試論)

          固有名と属性 4(平野啓一郎試論)

          【警告】 小説作品における物語の重要な部分に触れています。未読の方は十分に御注意下さい。 このテキストは『平野啓一郎論』の第四章です。 最初から読みたいという方はクリエイターページのマガジンをご覧下さい。 遺伝子『私とは何か』には、不可解なところがもう一つある。 平野は、このエッセイの最終章で「あえて触れてこなかった問題が一つある」として、遺伝要因の影響について語っている。 彼は、遺伝の影響に触れなかったために「フラストレーションを感じていた読者もいるかもしれない」という

          固有名と属性 4(平野啓一郎試論)