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小説・うちの犬のきもち(17)・旅行
庭のバラの花は、なんという種類か知らないけれど、薄いピンクで、外側の花びらは白く、一枚一枚の花びらの形が丸くて、たくさん花びらがあって、花ぜんたいも丸っこい。もっさり咲いて(というのは情緒を知らないママンの言葉)、近所の人が声をかけていく。
「きれいなバラですね」散歩中のおじいさんがバラを見て立ち止まり、庭の手入れをしているうちのおばあちゃんの姿に言う。
「ありがとうございます」
「写真撮っても良
小説・うちの犬のきもち(13)・努力
旅行好きのおばあちゃんが、隣の駅の始発電車に乗りたいからと、早朝、パパンとママンと車で隣の駅まで送ることになった。駅でおばあちゃんを見送った後、パパンとママンとぼくは大きな公園まで車で行ってみることにした。
大きな公園は、早朝だからか、ほとんど人がいない。
今日は晴れる予報だけれど、空気はまだ湿っている。暖かくなりそうな予感がする。
桜は半分くらい葉が出ていて、地面には桜の花びらがじゅうたんみた
小説・うちの犬のきもち(7)・いつもの休日
二月なのに生暖かい日で、テレビのニュースでは例年にない暖かさの各地の映像が流れていた。流氷は無くなり、桜が見頃になった。
お昼ご飯の後、近所の梅が見頃だからと、パパンの提案で、みんなで車で十分くらいのところの公園に行くことになった。めずらしくママンが運転した。ママンは例の休日出勤が続いていて、疲れているのに週一日の休みにはりきってしまうのだ。そういうのって、ちょっと周りの人を疲れさせるし、たいて
小説・うちの犬のきもち(6)・写真とは
ピンポーン。
ワンワンワォーン、ワンワォーン。
居間のインターフォンの音が鳴ると、ぼくは、自分で言うのもなんだけど、大きな美声を出せる。人間だったら美しいメゾソプラノかな。気持ちのよく通る響く声。
なのに、たいていは、おばあちゃんに無視されるか、ずいぶん低い声で「しーちゃん、静かに」とか言われるのだ。
今みたいに午前中の少し早めのピンポーンは、おとなりの田中さんか、その日の朝の散歩中に会っ
小説・うちの犬のきもち(5)ぜったいの決意
ぺっ、と吐き出した。
おやつのわんちゅーるに包まれていたのは、小さく刻まれた、すっごくマズい薬だった。
食べるもんか、ぜったい食べないぞ。ぼくは誓った。
「たべなさい」おばあちゃんは無理矢理ぼくの口に薬を入れてようとした。
ぼくはぎゅっと口を閉じた。「うー」と低い声を出した。力を集めて噛もうとしたらおばあちゃんは手を引っ込めた。おおきなため息をついて、ぼくの首のあたりを撫でた。両手でなでた。それか
小説・うちの犬のきもち(4)・人間のご都合主義を考える
ぼくが思うに、人間というのは、ご都合主義なのだ。欲しいものを分かってくれないし、フキゲンの理由も自分のよいように解釈する。
ぼくが生後二ヶ月のとき、ぼくはまだブリーダーさんのところにいた。パパンとママンはぼくを家族にすることに話がついていて、その日は約束の二時間も前に着いてしまって、あまりに早くては失礼だからと、近くのデニーズでモーニングを食べて時間を潰した。ママンは『室内犬の飼い方』という本を
小説・うちの犬のきもち(3)・休日の不満
ぼくは超絶フキゲン。
だって休日だと言うのに、ママンは出勤した。
前日から不穏な、つまり、ママンが休日出勤しそうな雰囲気を感じ取って、ぼくはママンに休日出勤をやめるよう、ママンにぴったりくっついて、ねえママン、明日は休みだから、こうやってなでなでしもらえるよね、しーちゃんはそうだと信じているよ、と伝え続けた。明日はママンのお散歩だからしーちゃんの行きたいところに気のすむまで行けるんだよね。お散歩
小説・うちの犬のきもち(2)ママンのしあわせのとき
ぼくと散歩に出かけようと準備をするママン。ぼくはもういつでも準備オッケー。リードをつけてもらうだけですぐ出かけられます。なのにママンという人には準備に時間がかかる。上着を羽織ったり、靴下を履いたり、帽子を被ったり、お散歩バッグにバッグに水の入ったペットボトルや、ビニール袋や、トイレットペーパーを用意する。
ぼくは鼻の頭をママンの膝の裏にくっつける。
ママンは振り返ってにっこり笑う。
「ちょっと待