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生活すること

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生きるって何だろう?それは生活することなのではないだろうか────30才で伊東市にある海の街へ移住して感じたことを書いています。
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意味を付ける人

意味を付ける人

朝起きて、コーヒーを淹れて、観葉植物に葉水をして、洗濯機を回しながら、文章を書く。私の朝のルーティーンだ。脳みそが一番新鮮な朝一に文章を書くと、身体の調子がいい。文章の内容の調子はその日によるから、どこにも見せずに消すこともよくある。この文章ももしかしたら消すことになるかもしれない。それはまだ自分でも分からない。完成度はあまり重要ではなく、私は私の中から何が出てくるのかを楽しんでいる。そんなことを

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私の処方箋

私の処方箋

今の暮らしになってから1年半以上が過ぎた。ここでの日々は静かに、穏やかに流れていく。ありとあらゆる存在が私を支えてくれているおかげだろう。打ち寄せる波の音も、どこまでも続いていく地平線も、季節と共に色を変えていく山々も、朝陽と共に歌い始める鳥たちも、今日は天気がいいねとご近所さんと交わす会話も、おまけでもらった干物も、日常の中にある全ての出来事が私の支えとなっている。

以前の私の支えは音楽しかな

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創作とは何かと対話すること

創作とは何かと対話すること

私は一人でいることを全く苦に感じない。道端でご近所さんと世間話したり、干物屋のおじちゃんと話したりで充分満足できる。だから家族も友達もいない街へ移住できたのだろうけど。一人っ子なこともあり、一人の時間を過ごすサバイバル術みたいなものを幼少期のうちに会得したらしく、むしろ友達付き合いは苦手な方だった。ツアーミュージシャンになってからも旅の道中は一人だったし、どこかへ属したいという気持ちも全くない。一

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私のポンコツバッテリーの使い方

私のポンコツバッテリーの使い方

まるで水の底にいるかのような重たい身体を、地べたに横たえる。胸が締めつけられているせいで上手く呼吸ができず、脳に充分な酸素が行き渡らない。1秒先のことを考えるだけで精一杯。冷蔵庫の中にあった納豆や豆腐やレタスなどの調理しなくてもいいものを機械的に食べ、また地べたに横たわった。この傾いた世界を見るたびに私は、自分が躁鬱だったことを思い出す。

風景画展の準備のために大量のエネルギーを使い、バッテリー

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視点が変わった世界で見えるもの

視点が変わった世界で見えるもの

水がゴーゴーと音をたてて流れているのが聞こえる。さっきまで降っていた山の水が、川を伝い海の方へ降っていく音だ。昔は川だった上に道路を作ったらしく、私は川が通っている山を少し切り拓いた場所に暮らしている。山と海と川の3点セット。移住を決めた時はそこまで自然に囲まれて暮らしたいわけではなかったのだけど、この地へ来た瞬間にここで暮らしたいと直感で感じたということは、私は無意識に自然を欲していたのだろう。

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ゴールのない芸術作品を目指して

ゴールのない芸術作品を目指して

藤森愛として活動14年目を迎えた(昨年は間違えて12年目と言ってたみたい)。今でもこうして藤森愛という看板を出して活動できているのは、たくさんの支えがあるからなのだと年月を重ねるごとに強く、深く感じる。

芸術ごとを続けていくのは難しい。なんでもそうだろうけれど、特に芸術は生きていくために必要なものとしての優先順位は圧倒的に低い。生きていくためには絶対に必要だ!という人もいるかもしれないけれど、芸

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現実から解き放たれたフォルムと色彩

現実から解き放たれたフォルムと色彩

ポーラ美術館で初めてアンリ・マティスの「リュート」を見た時、正直その良さは分からなかった。パースを無視したダイナミックな線と、大胆に置かれた強烈な色彩に、私は戸惑いさえも覚えた。なんて自由すぎるのかと。自由すぎて脳が追いつかない。でも決して複雑なことはしておらず、むしろ簡略化されたその絵になぜか心が引っ張られる。美術館を見終わったあと、気になって調べたくらいだ。だけど当時の私は、その絵に引っ張られ

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戦わない勇気

戦わない勇気

ギターとキャリーバッグを担いで、バスへと乗り込んだ。運転手さんにゆっくりでいいですよ~と言われる。久しぶりの大荷物に私は手こずっていた。こんなに重たかったっけ。今回の荷物はまだ少ない方で、これよりもっと重い荷物を担ぎながら全国を飛び回っていたなんて信じられない。あの頃は重さなんかよりも、世界が広がっていくワクワク感の方がまさっていたのだろう。伊東駅でお土産を買うと店員さんに、たくさんありがとうござ

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言葉になる前の音に耳を傾けながら

言葉になる前の音に耳を傾けながら

カーカーカーというカラスの鳴き声で目が覚めた。時計を見ると朝6時前。ここ最近は目覚ましの音ではなく、朝日と共に鳴き始めるカラスの声で起きることが多い。お前はニワトリか!二度寝しようと思っても、スヌーズみたいに何回も繰り返すもんだから目が覚めてしまう。でも、目覚ましの音でびっくりして起きた時のような不快感はない。自然界の音だからかな。伊東に来てからは、自然の音に耳を傾けることが多くなった。特に文章を

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天国に生まれた私たちは

天国に生まれた私たちは

家にいながら好きな時間にドラマや映画を楽しめる。本を読まなくてもYouTubeで誰かが分かりやすく解説してくれている。お店に行かなくてもネットで注文すれば次の日には欲しいものが届く。どんなに遠い世界の果てでも写真や動画で見ることができる。お店の口コミを調べればハズレを引くリスクを下げられる。100円均一でだいたいの生活用品は揃えられる。500円払えばおいしい牛丼を食べられる。スマホを開けばすぐに誰

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小さな街の小さな物語たち

小さな街の小さな物語たち

もうすぐ冬も終わりだなあと思いながら、ふとスーパーで目に入った大根。そういえば、今シーズンは煮物を作っていない。出汁の染み込んだあの味を想像した途端に食べたくなり、半分に切られた大根を買った。煮物は出来上がるまでに少し時間がかかる。調味料を適当に鍋の中へとぶち込み、ダラダラとYouTubeを見ながら待つ。このダラダラとしている時間が最高に無駄で楽しい。スーパーの惣菜コーナーで大根の煮物を買ってしま

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現代社会での自分なりの幸福論について考えてみる

現代社会での自分なりの幸福論について考えてみる

観葉植物たちが無事に冬を越えられるかを心配している。ベンジャミンは部屋が寒すぎたのか、半分ほど葉を落としてしまった。パキラは冬眠させているからあまり変わっていない。他の植物たちは冬の日差しでもニョキニョキと成長し、新芽を生やしたものもある。植物を通してたくさんのことを学んだ。水をあげるタイミング、日差しとの距離、土に混ぜる肥料の種類、植え替えの時期など、それぞれの植物に合わせて環境を用意する必要が

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一度目の春に添えられるいただきもの

一度目の春に添えられるいただきもの

部屋の中で河津桜が咲いている。新井の土産物店で買い物をしたおまけでいただいたものだ。昨年も河津町でもらって部屋が桜まみれだったため、またこの季節がやってきたんだなあと。まだ暖房が必要なくらい寒い日もあるのに、桜が咲いているのは不思議な感じだ。もうじき花びらは落ちて葉桜となり、一度目の春が終わる。そして4月頃にまた別の桜が咲き始める。伊豆は春を二度も楽しめる場所なのだ。

買い物へ出かけようと家の外

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創作することは体の機能の一部

創作することは体の機能の一部

新しい机を買った。机自体を斜めにすることができるため、姿勢が前かがみにならない。先日、腱鞘炎になってしまったため何かを改善しなければと思い、まずは姿勢を直してみることにした。だから作業部屋には、大きな机が2つ並んでいる。1つは音楽やWEB系の作業をするため、今回買った斜めの机は絵を描くためだ。

ふと、高校生の頃の自分を思い出した。絵も描きたいし、音楽もやりたい。けれども進路は一つに絞らなければな

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