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綿毛に包まれた種たちは
土のぬくもりを知っているから、
風のなかへ飛び込むのだろう。
*
だれに受けとられなくてもいい、
わたしは差しだす。
どこに届かなくてもいい、
わたしは差しだす。
踏みつけられてもかまわない、
わたしは差しだす。
痛みを差しだすことが唯一
伝える手段なのだから。
声もなく 足音もたてずに
わたしは差しだす。
光に守られた綿毛はひとつの星雲。
日々の重さを綿毛にのせて
ティンカーベル、勇気を抱いて。
*
これを何と名づけようか。
ぬぐっても ぬぐっても
ぬぐいきれない熱が頬の上にあって
わたしから降りてくれないのだ、
妖精のつま先が乗っているみたいに。
ティンカーベル、勇気を抱いて。
かしこいあなたは
かしこいままで生きていてよい。
きょうの肌を溶かして素肌のわたしになる。
つい先ほど肌だったものが、今やとろけて
指先を金色にあたためる。
この熱は、わた
自由にしていいよ、と
だれかに告げてみたかった。
わたしは
わたしに恵まれて
生きている。
*
ただいま、と部屋へ呟いたら
耳をほどいていく儀式。
白いイヤホンを抜き取ります。
マスクの紐もそっと外します。
メガネも外してあげると尚よい。
冷えきった耳は先の方から赤らんで
聴くことを少し休みたがっているよう。
自由にしていいよ、と
だれかに告げてみたかった。
冬の樹は枝々に氷を咲かせて
だからこんなにも あなたはきれいなのだと🌃
*
左腕のあちこちに散ったほくろを
からだへ教えるように指で数えた。
ひとたび宇宙に飲まれたら
このほくろだけが光りはじめて
わたしは暗闇に溶けて流れていくのか。
その川は遠い街を彩るだろうか。
わたしがここにいることを
だれも知らない。
幼いわたしは、体育館の隅の
ネットにくるまり、息を潜めて
だれにも見つからない時間を惜しんだ。
いまは歩道
あの夏、わたしたちは何を燃やしていたのか🎆
*
八月の空はゆっくりと暮れていくから
からだの熱を持て余したまま歩き出す。
体温を薄く溶いたような夏の闇は
しっとりと首筋を取り巻いた。
一本のろうそくを囲めば、
ちいさな花火大会がはじまる。
それぞれの手が自在に描く光の曲線。
照らし出される横顔は、古いフィルム映画のよう。
懐かしい暗闇に あなたを見つけた鮮烈な一瞬。
あなたがわたしに燃え
春の記憶を呼びよせても、どこか遠い🌸
答えのないパズルのような日々に😌
"あなたの水平線のようなまなざしが
打ちよせて、雑踏のさなか
わたしを遠く振りかえらせる。"
"わたしの「信じる」は
わたし自身のために握っている。
ならば、あなたに渡ったという
そのあたたかな感情はなんだろう。"
詩「花首」文月悠光
*「婦人之友」2020年4月号ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を