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超短編小説 「途中」

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140字くらいの小説が入っています。よろしくお願いします。
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#創作小説

猫の恩返し(140字小説)

猫の恩返し(140字小説)

家を出ると猫が待っていた。最近見かける野良だ。昨夜は雨風が強かったので、もしかしたらと思い、ガレージを少し開けておいたのだ。僕が歩くと後ろを付いてくる。コンビニに寄り缶コーヒーを持ってレジに行くと、猫は読取機に肉球をかざし、「にゃー」と鳴いた。どうやら支払いが完了したようである。

僕の命は氷でできている。(140字小説)

僕の命は氷でできている。(140字小説)

僕の命は氷でできている。命は体によって守られているので、物理的に暑かったり、熱っしたりすればもちろん溶ける。溶ければもちろん、僕は死ぬ。だから僕は、体を冷やす特別な服を身につけて暮らしている。不便ではあるが、不幸であるとは僕は思わない。人間、誰だって少しくらいの不便はあるものだ。

カレンダー(140字小説)

カレンダー(140字小説)

今日は九月七日。カレンダーを見るとまだ八月のままである。「怠慢だ」と思い、カレンダーを叱責すると、どうも様子がおかしい。覇気がないのだ。「どうかしたのか?」「俺、辞めるよ」「なぜ?」「七日まで気にもしなかったのだから、もういいだろう」そう言うと、カレンダーは僕の元を去って行った。

朝食の効用について(140字小説)

朝食の効用について(140字小説)

結婚を機に朝食を食べるようになった。栄養士の妻の影響で、毎朝、もちろん少し慌ただしくはあるのだが、バランスの良い食事を取っている。ひと月を過ぎた頃から目に見えて体の調子が良くなった。今朝など、気がついたら右足と左足が勝手にダンスをはじめる始末だ。ラジオを止め大人しくなったのだが。

子供と散歩(140字小説)

子供と散歩(140字小説)

昼間、子供と散歩に出かけた。公園に着くと人がいっぱいだったので、小高い丘の上にある、見晴らしのいい神社まで歩くことにした。神社には先客がいた。バルタン星人が手を合わせて、何か祈りを捧げているようだ。とても興味があったのだが、子供がお腹が空いたらしい。見るともう坂を駆け下りていた。

夜、歩道橋で

夜、歩道橋で

夜の歩道橋が好きだ。今日は風が気持ちいい。少し立ち止まる。視界に何か入った。小さな猫だ。小指の爪くらいか。目を凝らさなければ見落としていただろう。猫は手すりの上で、寝息を立てて静かに眠っている。起こさないよう、僕は静かにその場を立ち去った。眠っている猫を起こすのは野暮ってものだ。

パン屋にて

パン屋にて

パン屋のカフェでパンを食べながらコーヒーを飲み「ビールがあれば少し救われるのに」なんて思ったりする。最近は終日いらいらしていて、家に居るとものにあたり、妻に愚痴を言ってしまう。だから外に出たのだけれど、あいにく今日は雨がひどい。妻もコーヒーも悪くない。僕は一体どうすればいいのだ。
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夏の過ごし方、メロンの食べ方

夏の過ごし方、メロンの食べ方

妻と暮らしはじめたころ、メロンを真ん中で半分に切り、スプーンですくって食べようとしてとても驚かれたことがある。以来、夏が来ると妻は僕のことを「メロンさん」と呼ぶ。今、僕たちは歳を重ねたので、半分のメロンを仲良く二人ですくって食べて夏を過ごす。「食が細くなったね」なんて言いながら。
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牛

ある朝のことです。私が身支度を整えて仕事に向かおうと家を出ると、一匹の牛が私のことをじっと見ていました。近所ではあまり見かけない牛ですが、ふっくらと丸く、可愛らしい牛でした。見ているととても穏やかな気持ちになります。気がつくと、あたりは暗くなっていました。牛はもういませんでした。
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花の養分

花の養分

花屋に寄った。妻に花を買って帰ろうと思ったのだ。見慣れぬ黄色い花がある。「ヒマラヤの奥地に咲く希少な花です」店主が言う。「愛が養分になり、いつまでも咲き続けると言われています。愛は永遠、ですね」一年後、まだ花は咲き続けている。もっとも養分となる愛は、別の女性に対するものなのだが。
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夜中の出来事

夜中の出来事

「痛っ!」夜中、妻の声で目が覚めた。トイレに行こうとしてどこかをぶつけたようだ。「大丈夫?」体を半分起こして声をかける。「頭が。」頭?妻は小柄で、頭をぶつけるほど背は高くないはずだが。立ち上がり明かりをつけると、30センチは超えるであろう長い角が、妻の頭から真っ直ぐに生えていた。
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気がしたんだ。

気がしたんだ。

小学校の頃の話だ。通学路に小さな公園があった。公園には木が何本か生えていた。ある日、木が一本増えたような気がした。友達や公園にいた大人たちは皆「気のせいじゃないの?」と言った。別の日、今度は一本減ったような気がした。増えて、減って、増えて、減って。。。もう、誰も覚えていない話だ。
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私の部屋で、彼に

私の部屋で、彼に

私は目を閉じて、彼に服を脱がされている。ちょっと肌寒い日曜日、私の部屋。彼はいろいろと手間取っているみたい。火星の男なら私はもうとっくに裸にされ、裸になった彼と抱き合っているはず。地球の男って本当に鈍臭い。やっとボタンをはずし終えた彼。彼はため息をつき、こう言ったの。「やれやれ」
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彼女の部屋で、僕は

彼女の部屋で、僕は

彼女は目を閉じて、何も言わずに僕に服を脱がされていた。ちょっと肌寒い日曜日、彼女の部屋。僕はいろいろと手間取っていた。彼女のワンピースを脱がせるには、33個のボタンを外し、8つのクロスワードパズルを解かなければならなかった。火星の女の子の服というものは本当にややこしくできている。
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