vol.38 古市憲寿「平成くん、さようなら」を読んで

数年ぶりに現代小説を読んだ。この本、妻が間違って注文して放り投げていたもの。新たな元号が決まった中、なんとなくこのタイトルに惹かれてしまった、。近代文学ばかり読んでいる僕には、やたらカタカナの固有名詞をちりばめた「現代」の描写に、戸惑いと新鮮味を感じた。また、テレビの中の著者は、小説を書くイメージが僕の中にはなかったので、芥川賞ノミネートのニュースに少し驚いた。

この小説、安楽死をテーマにしたも

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妖怪繚乱の島、台湾(倉本知明)

「倉本知明の台湾通信」第2回
『妖怪台湾:三百年島嶼奇幻誌 妖鬼神遊巻』
著:何敬尭  画:張季雅 2017年1月出版

いま、台湾では妖怪が熱い。母親に化けた虎が幼い姉妹を騙して食い殺そうとする「虎姑婆(フゥグゥポー)」に、人間の姉妹を娶った蛇の化身「蛇郎君(シェランジュン)」、あるいは地中深くに暮らして地震を引き起こす「地牛(ディニウ)」など、日本では馴染みのない妖怪たちが、九州ほどの大きさし

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26歳女子、胃潰瘍になる

2019年3月24日、吉田修一さんの小説「怒り」を読み終わった。

 もともと新聞小説として連載されていたもので、職場の同僚が強く影響を受けたということで図書館で借りてきた。映画化もされているので有名だが、殺人犯の疑いをかけられる3人の男とその周辺の人々の群像劇で、「人は人を信じられるか」という重厚なテーマの作品となっている。その重みは、読み終わって1時間、私の胃や内臓に消化しきれない感覚として残

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アルベール・カミュ

アルベール・カミュ(1913-1960)はフランスの作家。新聞記者の傍ら、小説『異邦人』(1942)を発表して、大きな注目を受けることになる。その後も、戯曲『カリギュラ』(1945)、小説『ペスト』(1947)などを発表する。エッセイ『反抗的人間』(1952)では、共産主義に内在する全体主義的傾向を暗示して、サルトルとの論争に発展する。1957年にノーベル文学賞。1960年に自動車事故で急死した。

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インスタ映えとは息を吸って吐くような驚きだ

本に囲まれて寝落ちする-。そんな触れ込みのゲストハウスに泊まった。2段ベッドの壁面が本棚になっており、ロビーのソファでくつろぎながら好きな本を読める。それだけといえばそれだけなのだが、とにもかくにも雰囲気がおしゃれだ。

 不思議なことに、この宿にいる人は日本人でも外国人でもみんなおしゃれな人たちに見える。おおむね20~30代の若者で、スウェットなどくつろいだ部屋着を着ている人もいるけどそれすらも

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『クリュセの魚』を読む⑤ 否定形の正史

彰人が決断したのは選択しないことである。それは語りの現在時からにおいて、歴史の正しさを否定的なしかたで肯定している。しかしその語りの時間は母の孤独を語ることで未来の時間に開かれている。

④ 天皇(制)の明日に

†選ばないこと

栖花と麻理沙はお互いがそれぞれの存在の可否を賭けたダブルバインド状況によって危機に陥っていた。それは危機的状況にあって出来事を選択できない生の悲劇である。ここで母と娘は

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感謝してくれるあなたが欲しいんですか?

ゲストハウスに寝泊まりするのには、体力と、ある程度の運動能力が必要だ。

 ここでいうゲストハウスというのは「簡単な仕切りのある2段ベッドなどに寝泊まりする形式の宿。外国人の宿泊客に人気」というスタイルである。私がいま宿泊しているのは日本海側のとある町の施設で、そこは下のベッドの住人の利便性あるスペースを確保するために、2段目の住人がはしごを頼りに”クライミング”する高さは2㍍近くある。

 はし

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『クリュセの魚』を読む④ 天皇(制)の明日に

クリュセの魚を天皇小説概念の現代的フェーズを示す小説として読む。恋愛といい、家族という小説の主題は、それを図として、地としての天皇制が存在している。大衆を扇動しテロ行為をおこなう栖花は、尊皇攘夷を完遂した「天皇」である。象徴天皇制の危機に応じて現れたこのような天皇像は、三島由紀夫が提起した「文化概念としての天皇」と同期している。しかし天皇制の主題と重ね合わされる形で、栖花は母である麻理沙とダブルバ

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【読書録】イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』(河出文庫・2003)

旅の途中で見聞した様々な都市の様態について、マルコ・ポーロがフビライに報告を行うという設定の小説。登場する都市はいずれも架空のもので、時代も一定していない。一つ一つの章は短く、またそれぞれに完結しているため、どこから読んでも特に支障はない。(解説によると、各章の配列には厳密な規則性があるとのことだが。)

 それぞれに奇妙な特徴を持つ、架空の都市について解説を行うという形式を取って、思弁的、哲学的

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26歳女子、円形脱毛症になる

2019年1月某日。2週間ぶりに行きつけのバーに行った。客は私(26)1人だった。「ちょうど、●さんのことを思い出していましたよ」。マスター(36)は笑顔でいつも私が頼むお酒をつくってくれた。私の先輩の話になった。どうやら最近「ローマの休日」を観たらしいが、オードリー・ヘップバーンと恋に落ちるのは新聞記者という設定のようだ。「観たことはないですけど、王女様との恋のお話ですよね」「そうそう。それで、

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