マガジンのカバー画像

短編

21
初めて書いた短編小説
運営しているクリエイター

記事一覧

初恋は今も胸を奏でる

初恋は今も胸を奏でる

 
第四話 自然な形…… 
 
 当時は、竹槍 救護 縫製の指導、監視に交代で近くに駐屯している兵隊が配属されていた。
当然彼等も若き青年達な訳だか、必要最低限の接触以外は出来る状況下ではない。
だが、抑圧されているからこそ想いは募るのだ。それが自然な理なのだ。
昼休み水絵を囲み、笑い合う女学生の姿に、一人、二人と兵士たちも遠巻きに
水絵の歌声を聴きに集まるようなっていた。
そして、淡く切ない恋心

もっとみる
初恋は今も胸を奏でる

初恋は今も胸を奏でる

第三話 悩める乙女心

「お母さん、またもんぺ縮んだから、なんとかならない?」
「縮んだんじゃないよ、あんたが伸びたの! いい加減止まらないかね~」
「やめて! 伸びてないから!」
水絵は真っ赤になって怒った。
だいたい私が悪い訳じゃないし!と
ぷりぷりする娘を見ながら、母親は肩をすくめ、もんぺと格闘を始めた。
 つい最近身体測定があったのだが、水絵はその結果にかなりショックを受けていた。身長が3

もっとみる
初恋今も胸を奏でる

初恋今も胸を奏でる

 第二話 苛立つ乙女心
昭和20年4月~6月(当時東京は35区)
 大山水絵の家族は、東京都赤坂区の豊川稲荷の傍に住んでいたが、同年3月の東京大空襲で焼け出され親戚を頼り、家族5人で田舎に疎開をよぎなくされていた。
 都会育ちの水絵は田舎暮らしが馴染めないでいた。
弟ふたりは虫だ!釣りだ!と毎日が楽しくて仕方ないようだが、
一緒に遊ぶ年でもなく東京に帰りたいとそればかり思っていた。
 水絵は地元の

もっとみる
初恋は今も胸を奏でる

初恋は今も胸を奏でる

◆第一話

 六月。
今月で91才になる水絵にも初恋はあった。
たった一日だけの。
いえ! たった数十分の……
その初恋の人は、生涯忘れられない人になってしまった。
 懐かしむ物は何も無い。
すべて灰と化したのだ。
 六月……遣る瀬ない月が今年もくる。
 あの日の事は鮮やかに蘇り、
水絵の心を温めてくれる。
 でも、それと同時にもどかしさと苛立ちと涙を連れてくる月。
 水絵たちの世代は、戦中戦後が

もっとみる
泣いたって始まらないのに18

泣いたって始まらないのに18

 由美はお店を出ると、足早に駅へ向かった。
急いでいる訳ではないのに、足が勝手に動いてしまう。
鼓動がすれ違う人にも聞こえそうなほど高鳴っている。
 爽子の旬を見る目を……
そして旬の指先が爽子の頬に……
あぁ厭らしさなど微塵もない。
ふたりには日常のひとコマなんだね。
 でも、でも眩しくていたたまれなかった。
愛し合っているって凄いんだ。
わたしのまだ知らない世界。
わたしに訪れてくれるのか? 

もっとみる
泣いたって始まらないのに16

泣いたって始まらないのに16

「由美はさ、あいつの何が今も心に突き刺さっている?」
「何がって……全部」
「全部?別れたこと自体も?」

「今は……その時言われた言葉だよ」
「言葉ねぇ。その言葉ってどんな意味があったのかな?あいつの勝手な言い分としか思いえないんだよね。私たち勉強したって言ったでしょ?あれ真面目な話しなんだよ。ふたりで本、雑誌を読みまくり、調べまくり〜映画だって見たよ〜あらゆる方面から研究したんだ」
由美は思わ

もっとみる
泣いたって始まらないのに15

泣いたって始まらないのに15

「その前にさぁ、由美は今までのわたしの話しを聞いてどう思った?」
「わたしにとってふたりは、少し眩しい存在なんだよね。全てを判り合っている感じがさ。そりゃ全ては大袈裟だとは思うけど、そう思えちゃうの」
「うーん分かり合っているかぁ?
実は分かり合う事を楽しんでいる
のかな。わたしね、旬と出逢えて幸せだと思う。大切なものにどう向き合うかちゃんと考える人だから。わたしより真面目なんだよ。
言いづらい事

もっとみる
泣いたって始まらないのに14

泣いたって始まらないのに14

 由美は言葉を選びながら、
「ふたりは何年付き合っているんだっけ」
「もう五年になるね~ まぁ色々ありますよ、ってかさぁ。 核心つきなよ、わたしたちの仲なんだから」
爽子は由美の空になったグラスにお酒を作りながら言った。
「じゃぁ質問。爽子は旬君が初めての人って言ってたよね。旬君の方は?」
「ひとり、ふたりは経験あるって言ってたかな? わたしだって旬の前にキスぐらいした人はいたけどね。でもねぇ、恋

もっとみる
泣いたって始まらないのに13

泣いたって始まらないのに13

 はるが料理を運んで来た。
「入りますね」
「はーい待ってました!」
爽子は襖を開けて、料理を受け取りながら、
「唐揚げ! おでん! 肉じゃが! ピーマンとナスの味噌炒め! ブロッコリーのお浸し! 生姜のかき揚げ! 凄い凄い! はるさん判ってらっしゃる~〆は生姜としめじの炊き込みご飯お願いしまーす。」
「了解。飲み物はどうする? 同じもので良かったら、これ差し入れ」
差し出されたお盆には、焼酎のボ

もっとみる
泣いたって始まらないのに12

泣いたって始まらないのに12

 爽子はカウンター越しに注文すると、少し声のトーンを落とし、
「昨日由美何かありましたか?
今はだいぶん目の腫れ引いてるんだけど、朝は酷かったんですよ。
今から話してくれるとは言ってるけど、何か知っていたら教えてもらえると有り難いです」
はるは、昨夜の事をかい摘んで話した。
「大和の奴、駄目だなぁ、あいつは……でっ、かさぶたが剥がれたんだ」
一瞬爽の言葉が気にはな為ったが、ふたりで話すなら心配ない

もっとみる
泣いたって始まらないのに11

泣いたって始まらないのに11

 由美は寒くて寒くて目が覚めた。
どのくらいそこに居たのだろうか。
 のろのろと立ち上がり、服を脱ぐぎ、熱いシャワーを頭から浴びた。
身体中をこれでもかこれでもかと洗い始めた。
止めたくても止まらない。
皮膚を剥ぎ取る事ができたら、
あの感触は消えるだろうか。
いや、いっそ秋之の記憶が消えてしまえば……
 前に映画で見た、消したい記憶だけ消せる記憶屋。
「消せるものなら消して……お願い!」
そう呟

もっとみる
泣いたって始まらないのに10

泣いたって始まらないのに10

 池袋に到着し電車を降りた二人は、人波をやり過ごすようにホームの端に寄った。
「河田君は何口? 私は東口」
「僕は西口なんです。あっ!でも送らせてくだい」
 由美は車内での息苦しさが蘇えり、
「大丈夫だから、このくらいの時間は何でもないし。じゃぁここで。お疲れ様! 大学の方頑張って!」
由美は軽く手を振りながら、どんどん階段をを降りて行った。
 大和は一瞬呆気にとられたが、すぐに由美を追いかけた。

もっとみる
泣いたって始まらないのに9

泣いたって始まらないのに9

 ふたりは当たり障りのない話しをていたが、大和が三杯目を飲み終えたところで、由美は携帯を手に取り、
「あら、もう11時過ぎてるよ。
帰ろう! 帰ろう!河田君! おトイレ大丈夫?」
言った後由美は思わず口を押さえた。
「あっ! ごめん。ビール飲んでたからつい……」
大和は一瞬首をかしげるが、
「あぁー行ってきまーす」
とゲラゲラ笑いながら出て行った。  
 由美も苦笑しながら会計を済ませに部屋を出た

もっとみる
泣いたって始まらないのに8

泣いたって始まらないのに8

「ねぇ、ちょっと飲もうかぁ?」
由美は気まずい雰囲気を変えようと少し戯けた調子で誘った。
「いいですねぇ、ちょっとでいいんですか? 笹山さんは?」
大和は、由美がアルコールに強い事を事務所の人間から聞いて知っていたのだ。
由美は一瞬驚いたが、
「私強いんで、ペースについて来られるかな?」
と胸を叩いて見せた。
大和はその仕草が可愛くて、思わず目を細めて笑ってしまった。
 そんな大和の様子には気がつ

もっとみる