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初恋は今も胸を奏でる
第三話 悩める乙女心
「お母さん、またもんぺ縮んだから、なんとかならない?」
「縮んだんじゃないよ、あんたが伸びたの! いい加減止まらないかね~」
「やめて! 伸びてないから!」
水絵は真っ赤になって怒った。
だいたい私が悪い訳じゃないし!と
ぷりぷりする娘を見ながら、母親は肩をすくめ、もんぺと格闘を始めた。
つい最近身体測定があったのだが、水絵はその結果にかなりショックを受けていた。身長が3
初恋は今も胸を奏でる
◆第一話
六月。
今月で91才になる水絵にも初恋はあった。
たった一日だけの。
いえ! たった数十分の……
その初恋の人は、生涯忘れられない人になってしまった。
懐かしむ物は何も無い。
すべて灰と化したのだ。
六月……遣る瀬ない月が今年もくる。
あの日の事は鮮やかに蘇り、
水絵の心を温めてくれる。
でも、それと同時にもどかしさと苛立ちと涙を連れてくる月。
水絵たちの世代は、戦中戦後が
泣いたって始まらないのに8
「ねぇ、ちょっと飲もうかぁ?」
由美は気まずい雰囲気を変えようと少し戯けた調子で誘った。
「いいですねぇ、ちょっとでいいんですか? 笹山さんは?」
大和は、由美がアルコールに強い事を事務所の人間から聞いて知っていたのだ。
由美は一瞬驚いたが、
「私強いんで、ペースについて来られるかな?」
と胸を叩いて見せた。
大和はその仕草が可愛くて、思わず目を細めて笑ってしまった。
そんな大和の様子には気がつ