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都内に在住する塾講師(23) 小説書いてます 好きな作家→三島由紀夫/永井荷風/村上春…

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都内に在住する塾講師(23) 小説書いてます 好きな作家→三島由紀夫/永井荷風/村上春樹/萩原朔太郎 美術 絵画 舞台 建築

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【詩】夢情歌

悩ましき夢の追憶。ほろ苦き闇に暗鬼の影ぞ忍び寄る、あまりりすの仄めき静こころなし。 街灯の倦怠、車燈の鮮やかなる宵月のはためき。淫る乙女の口惜しき接吻の夢の香よ、薫香のしたためる甘美な袖ぞ、狂い泣くその戯れの夜。 乱るる吉利支丹の悪の喧騒ぞ、口惜しき、苦き老齢の果実ぞ頽廃せる… 狂おしき、口惜しき、苦き追憶の夢ぞ咽び泣く。慟哭の乙女ぞ、乱れたその袖の香に何を夢見たか。 悽愴の号哭の、退廃せる末世の終焉。 硝子に映像せるネオンの陰鬱に、乱れた寝具の月光の囁く… 阿蘭

    • 【短編小説】梅の憂鬱③

      僕は部屋へ戻り、何をするということもなくぼんやりとしていた。部屋に夕闇が垂れ込めていたが、僕は電灯をつけることもしなかった。僕は夕闇の中でじっとしていた。しばらくすると、たきが晩御飯を知らせに来た。僕はそれに従って食堂へと向かった。 食堂のテーブルには、颯爽とした白い食器の上に西洋料理が並んでいた。それはスープやサラダやオムレツ、ビフテキの類だった。だが僕はどれも手につかなかった。下女らが食事を慇懃に勧めたが、僕はスープを一口か二口飲んだっきり、カトラリーにも手をつけることが

      • 【短編小説】梅の憂鬱②

        「無知を幸福とお考えあそばしているのですか」 たきは言った。 しかし、僕は何も答えなかった。僕らはその後何を打ち明けるというのでもなく、ただぼんやりと夕刻の庭園を見つめていた。 夕暮れの中で松の葉がしきりに舞っていた。僕は思い出したようにそれを認めた。 「松の葉…」 僕は呟く。僕は一層その松の葉を見つめる。 「松、まつ、待つ… そう、待つ。僕はこんな夕焼けを待っていたんだ。まるで世界の終わりみたいな、悲しい、懐かしい夕焼けだ」 僕は呟く。 「僕はこの光景を何度も見ている。僕が

        • ヴァイオリン コンサート

          ヴァイオリンの音律は孤高のものである。気高く、気品がありながら凛子とした情趣、音律が屹立する優雅! あゝエレガンス、そう、優雅がある。人を寄せ付けない孤独な響きがある。悲劇的な哀調も韻律するが、庭辺から差し込むうららかな陽のような落ち着いた優雅もある。典雅… そう典雅な音色である。クラシカルに響き渡る音律… 崇高に軽快に悲劇的に鳴り渡る。その音色の屹立を聴くと、僕はその音色に取り憑かれたものだ。 あの気高きエレガンスは他の楽器にはついぞ認められないものだ! それにあの高貴

        【詩】夢情歌

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          【短編小説】夢幻仏

          牡丹の花が二、三弁、べんべんと落ちた。 僕は袈裟を纏ったまま、人差し指を真っ直ぐに鼻の前に立て、広漠とした白い空白の中で息を吹いた。 雨が降る。 僕は空白から出る。 僕は黄泉の暗がりに身を凝らす。輪廻の鎖を断ち切って、僕はここまで来た。僕は目を覚ます。 気がつけば、僕は畳の上に立ち尽くしている。薄暗いお堂の畳の上に僕は立ち尽くしている。 辺りに芳香の匂いが立ち込め、仏壇は錆びれている。掛け軸は乱れ、幡は汚れている。 僕は目前の襖を見つめる。僕はその襖を開け放つ。僕は畳

          【短編小説】夢幻仏

          【短編小説】梅の憂鬱

          僕は家に帰ると、玄関で靴を脱いで座敷の部屋へと向かう。冷たい廊下を抜け切ると、座敷の襖と屏風は開け放たれていた。庭先には松と紅梅が咲き乱れていた。僕は鞄を置いて、適当なところへ座る。手前の庭園は夕刻の日を浴びて沈黙していた。 僕は畳の上へ寝そべり、顔だけは庭園へ向けて、憂鬱っぽく梅の梢と花とを眺めた。梅の花が早春の夕焼けの中でしきりに散っていた。花弁は枯山水の床へと折り畳まれていた。花弁はまるで死のようだった。僕は憂鬱だった。僕は梅を眺めながら人生を考えていた。 「あら、隆様

          【短編小説】梅の憂鬱

          夜の道の上

          僕は荒涼とした街の上を走っている。憂鬱な街灯の明かりが点綴している。広い幹線道路の上を走る車は僕の車以外に見当たらない。暗い夜道が大地を覆っている。天文台が遥か遠くにその陰を落としている。星の光芒が夜空に広がっている。 次第に街灯は減っていく。道路脇の樹木も次第に息を潜めていく。大地に夜の息遣いが聞こえる。こんな荒漠とした大地の上で僕はただ果てしない道路の上を走っている。 人生とは何だろう? 僕は一体どこへいくのだろう? 僕の胸の中に郷愁が浮かんでくる。当てのない道を進

          夜の道の上

          アメリカ人歌手 Morgan Wallenを知っているだろうか?

          君はアメリカ人の歌手であるMorgan Wallen(モーガン ウォレン)を知っているだろうか? きっと知っている人は少ないはずだ。僕もついこの間までこの歌手のことを知らなかったし、彼の名前も聞いたことがなかったんだから。 彼はアメリカで活躍する29歳の若い歌手なんだ。僕はある日iTunesのアメリカ内ランキングからMorganの音楽を見出したんだ。(僕はiTunesのサブスクリプションに月額580円をきちんと払って登録していて、iTunes内にある国別ランキングを見るのを

          アメリカ人歌手 Morgan Wallenを知っているだろうか?

          いつかの海

          海原は色彩を失っていた。 それは限りない灰色の世界だった。霧雲で海と空の境界は喪失し、空と海とが灰色の寂寥めいた調和をなしていた。 恐ろしくなった。身体が身震いするほどの恐ろしさだった。 見つめているだけでその海の中の寂寥へ引きずり出されそうだった。 それは死のような寂寥であった。 荒れた大海が茫漠とその身を広げて揺蕩う。 ふとした拍子に飲み込まれてしまうんじゃないかと思った。 全身にいっぱいの水を孕んで含んで膨張している。 海の腹がなんども膨らんで膨張する。まるで

          いつかの海

          青春の翳り

          僕も周りから見れば青春の輝きを放っているのだろう。 けれど僕自身に内在する青春はどうだ? 僕が僕であるが故の青春はどうだ? 酷いもんだ。いつわろうとしてもいつわれまい。 君は隠せないんだよ。君は馬鹿正直なんだよ。 君の青春の翳りは嫌が応にも滲み出てしまうんだ。君は自分の口でもって自分の青春を貶めてしまうんだ。 君はそこから逃れられないよ。 君は「普通」ではないんだ。君は「異端者」なんだ。 君はそれを引き受けなくてはいけないよ。

          青春の翳り

          僕と青空 (散文(3))

          何かを得るごとに僕の何かはすり減って行く。 なんとなくわかっていた。何かが擦り切れていってる。失っていっている。 でもそんなことはどうでもよくなっていて、惜しくもなく悲しくもなく、淡々と僕は日々を協調の上に過ごしていく。 薄ら笑みを浮かべながら、自己は偽りの社会の中に混流していく。 徐々に沈んでいく。沈没していく。 静寂が纏わり付いて真の姿は隠されていく。 群青色の青空を吸い込んで僕は落ちていく。

          僕と青空 (散文(3))

          コンパクトシティ化について

          コンパクトシティ化は賛同できない。結局それは固有の文化を喪失させるものではないのか? 連綿と続いてきた土着本来の姿、本来の集落。 効率と安全性を求めれば、コンパクトシティは理に適っている。しかし、文化を考えれば、それは非常に危うい性質と空虚さを抱えている。 安全性をどこまで確保するべきか?という問題は非常に厄介である。安全であればあるほどそれは善であるという、安全至上主義は現代の世界を支配している。安全性はどこまで確保するべきか?という問い自体がタブーである非倫理的である

          コンパクトシティ化について

          桜の追憶 (散文⑵)

          私は公園に入るやいなや、その桜を認めると、そのあまりの美しさに思わずためらった。 夕陽の琥珀色の明るみの中に乱れ立った桜の木々は、その花で空を一面に覆い、豊穣な桜の花が梢に美しく結実していた。 花々の反映を受けた桜の木々は、優美な空気の中で静かに微笑していた。それらの花びらが風に吹かれてそよぐ様があまりに叙情的で、私の胸を一層染めた。 今年の桜はほんとうに見事だった。ほんとうに桜は美しく咲き乱れているきりだった。 明日には大雨が降りしきって、明後日にはこの桜も落ちて緑

          桜の追憶 (散文⑵)

          映画『憂国』 批評

          彼の世界観は一本の日本刀のようなものだ。その物語は彼の信条と美意識とに貫かれている。凛然とした威厳を持ち、誰にも犯すことのできない崇高さと気高さがある。彼の創造する物語はどれも高尚なものだ。人間の理想と宿命と官能と生と死とが交錯する。それは彼独自の倫理体系だ。彼独自の倫理は彼自身において完成されている。 儀礼の中で死を完遂する凛然とした態度。儀礼の中にこそ生きる人間の態度。人間よりも儀礼が上にある。優越している。いかなる人間存在であってもその儀礼の中に己の生と死とを貫かねば

          映画『憂国』 批評

          官能について

          どんな資本家だろうと、どんな優れた起業家だろうと、結局ひとりの美の前では、その官能と美とに服従する運命にあるのだ。 彼らが表社会において発露させている崇高さと威厳は、たちまち官能の前ではつき崩れる。 どんな偉大な経営者だろうと、どんな才知優れた研究者であろうと、どんな敏腕な政治家であろうと、官能の前では光栄も引き摺り下ろされ、権威も失墜せられ、圧倒的な無力さに帰せしめられる。人は皆、この点において同じである。 人としての節操なんてあったもんじゃない!男としての威厳

          官能について

          彼女の笑顔 (散文⑴)

          彼女が頬にたたえるのは、いつも決まってあの穏やかな、少女のような幼い屈託のない笑顔であるのに、いっときのその眼差しは、彼女の宿命のようなもの、深い悲哀のようなもの、どこか退廃したものを私に感ぜさせた。 そのほんの人刹那の眼差しは、すぐにあの花のような笑顔をどこかに置き去りにしてしまう。 ある宿命に満ちた頽廃のような眼差し。 彼女自身も気づかぬ彼女の暗い内側がその時露呈されるのを僕はじっと息を凝らすように観察していた。彼女の内に定められた運命の現前とでも形容され

          彼女の笑顔 (散文⑴)