奥谷洸平

詩人 日本語の文章を書きたくなりました。 詩、日常エッセイ 音楽以外のことをここでや…

奥谷洸平

詩人 日本語の文章を書きたくなりました。 詩、日常エッセイ 音楽以外のことをここでやります。 Kohei Okutani名義でミュージシャンをしています。 Instagram https://instagram.com/koheiokutani

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  • 詩集

    自身の詩をまとめました。

最近の記事

非文

言いたいことなど何もなかった 伝えたいことなど何もなかった ただうちに沸々と湧いてくるその何かを ひとりごととして吐き出して 吐き出し続けたら途端不安になって もはや掬い上げるものがなくなった でも掻き出しているうちに 胃は薄くなって破れていた 果たして痛みに耐えたのか、 動転して気づかなかったのかさえ定かではない そこから溢れて溜まった血液をまた大事に集めて 平気なふりをして文字を書いた 疲弊した心には、人の声など響かない 内にあるはずの声を、 自分にかけられた言葉で

    • 棲家

      その倉庫には いくせんもの材料たちがぐるぐるまわる いつかまた持ち出される時までは 絡み合い、共鳴しながら その均衡を保っている いくつか形を作られたものも 別段本質は変わっておらず その元素のままなのであるが 偶発的に生まれた意思が時に行く道を誤らせる しかしその道もまた生きて帰りし道であり どんなに逃げたつもりでも 私たちの体は釈迦の手の上 そっと掴まれてまた元の軌道に乗せられる 行くあてもなく彷徨う心も ぐるりと回る、その円を描く途中 始まりと終わりは同じところで

      • ハードボイルド

        くやしさがまた 体を巡る時 それは張り巡らされた赤い環状線の渋滞の 隙間を潜り抜けて 爪の裏側に行き着く また同時に頭にも到達したことに 気づくより早く 口へとはこばれる"かゆみ" それを解消するために噛み締めた歯が ぷつっと皮膚に小さい穴を開けて どっと流れ出る赤い血は 精製されたばかりの金属の味 溶けるほどの熱を持っているかと思えば 冬の日のドアノブのようにひんやりもして とらえどころがないものなのだが 少しばかりまざる苦みは 妙に現実味を帯びていて 煎れ立てのコー

        • 行き止まり

          追い詰められて、逃げ場がなくなったその刹那 隅に見つかる小さな穴から形を変えて抜け出す ダクトに吸い込まれる紫炎 あるいは渦になって流れ出る無形の川の水のように 自身の形を崩し、全てを放棄して ようやく逃げ出すことの出来た その先に歩むべき新たな路地がある その路地はまた異国の物品や その人生を想像できない人々で埋め尽くされ 一角を抜ける頃には価値観が揺り動かされ 一寸世界を知った気になっている ぶつかる肩に負けぬように 横切る人に見下されぬように 身を固く強張らせ なるべ

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          24本

        記事

          潜水

          一歩進んだら落ちてしまった ほんの一瞬のことで これまでのことも全て 失うような感覚と共に どういう風にものを考えていたのか すっかり分からなくなる 同じところをぐるぐる回り 生産性から切り離された心と身体で 何も守るものはないと分かっていても それでも底抜けに深い そして暗く 光がない 闇に沈んでいく夢を見て 恐怖と混乱と絶望のために 汗だくで目醒めて 助けを求めて縋ろうと思っても 隣には誰もいない そしてここがまだ暗闇の底で そしてここが現実であることがわかる

          罪人

          何かに優れた人間では無い 世の中に何が出来る訳でも 人に何かを出来る人間ではない 己の理由などあるわけもない ここで綺麗さっぱり消えてしまうことが出来れば それが全てを解決するのだが 世の中の構造がそれを邪魔し 愚者が愚者の手と足を絡み合わせて この地獄に縛り付けている しかし世界に期待などなく ましてや恨むことなどなく ただこの息の出来ないほどの重圧の中で 消えてしまう方が楽だと思うその気持ちごと 罪だと言われてしまうのならば 私は罪人なのだろう ただ願わくば、 誰か

          歓声満つ

          歓声満つ 話し声がかき消される中で 確かに伝わり また確かめ合うこのつながりに かつてしがみついていたものが 今は少し離れ、宙に浮き この酔いが覚める頃には この時を懐かしむより先に 日常の繁忙に飲み込まれていくのであるが それでも飲み、また飲み込まれ 夜の渦に足を踏み入れ まだ長い、夜明けまでの電灯がわりに また新たな杯を空けてゆく

          歓声満つ

          多面世界への通行

          梅雨の狭間に 季節外れの肌寒さ しかし木々や花々は後戻りができず ちぐはぐな印象を与えながらも 時間によって変化したその体を震えながら晒す 形だけを ただ形だけをください それでほとんどの場合問題なく 自分を保ち、人を騙して 心はそこになくても 私は私で成立するのだから どうせ皆中身など見ていない あるいはわかりやすく与えられたその一部 それを己の、あるいは他者の全てと錯覚し 二次元世界の窮屈さと安定の中に溶けゆく 奥行きもなければ重みもない 質感もなければ温度もない

          多面世界への通行

          とぐろを巻いている

          何者になりたかったわけでもない かつて希望は求めずともあった だが知らぬ間に血眼になって、 這いつくばって探さねばならぬものになった そうして荒野の中で、 砂金の一粒を探し求めるような心境で、 生きる糧を探すのだ この先で落ちることがわかっている吊り橋の上を 生きた心地もせずに歩かねばならぬ そうすると もう死んでいるのも生きているのもわからぬ 終わりが見えている道を 永遠などないものを 必死に必死に意味を見出し 自らの尻を自らで血飛沫が上がるほど叩き ある時は涙で喉の渇

          とぐろを巻いている

          扇風機

          からからからから からからからからか 扇風機がまわる からからからからか ただその空気が滞ることだけが 唯一の空間の証明となるような 部屋がもつ温度を混ぜ返し 窓から入った木の葉が舞い上がる いやそれはただの埃で あるいはその風を認識出来るのだと 誇示したい己の虚栄心から生まれた幻覚で 吹かれていることに気がつかずに ある時はおもてに足を踏み出して あぁ、やはり外の空気は美味いなと この上ない自由を感じ しかしそこでも 風に吹かれて歩みが早まったり あるいは気づかぬ

          前夜祭

          そう、そうしていればいいのだ 考えなくてもいい 必要とされることさえしていれば そこそこの見返りは与えてやる 押し付けられた罪悪感と 何ものにもなれない無力感と 今見えるのは、 現実味のない虚構につくられた夢か 底なしの絶望か 僕に連なってきたこの血が 決して高貴であったことはないこの血が それでもそれを拒むのだ 幼い頃、林の中で会話をした精霊たちが 今僕に 「進め」 と何度も語りかける 土が震えている 数千年、僕らの祖先の血と肉を食らい続けてきたこの大地が 「目を覚ま

          明滅する光 ただ真っ直ぐに 遠くから地球の表層をなぞって 入り込む隙間をみつけだし 拡散して降り注ぐ 色とりどりのその光は 時にばらけてはまた混ざり 溶けて透き通ったかと思えば 自らの熱で少しずつまた焦げてゆく 僕を呼ぶ声がする それずっと遠くからあったようだけれども 多くまぶしすぎる光がそれを追い越して 僕の視力を奪ってしまったものだから それに気を取られて大騒ぎしていて その声に気づかなかった 目を閉じれば驚くほど明瞭に声が聞こえて あぁ何だこんなに近くにいたんだね

          かたる 4

          本当にいつも考えすぎなんじゃないかな? 間違ったことは言ってないけど 考えすぎるということは決してないんだよな 答えがない問題ばかりなんだから はっきり言ってあなたが考えないといけないのは、 来月の生活費のことなんじゃないの なに、偉大な芸術家はえてして金に困っていたものさ 時給1000円やそこらの仕事より価値あることをしないとね 僕の人生が終わる時に、誇って口にするのが、 安い賃金で必死に働いてましたじゃつまらないだろ? 見えない檻の中にいた気はしていたが 細々生き

          かたる 4

          かたる 3

          昼下がりに詩を書くなんてね いったいどうしちゃったの? あんなに嫌っていた時間帯なのに わからないけど、 あまり変なルールを増やさないようにしないと って思って そうしてる間に気づけば息もできなくなってるからさ 制限の中にこそ芸術が、 なんて偉そうに言ってたのにね そういうところ可愛いと思うよ すぐに意見を変えるということもまた 僕のモットーにしてるからさ レースのカーテンを通って いくぶんかやわらかくなったひかり それはまだ僕の瞳には強すぎるものの なんとかこうして

          かたる 3

          かたる 2

          別にポーズで構わないでしょ と君はいう そんなことは分かってるけど と僕は不満げに答える 誰よりもまるで自分のことを分かっていないのに この世の事は自分だけが知っているかのように 人が右と言えば左、黒と言えば白、 ほつれたサビキ釣りの糸のような精神で ああだこうだと偉そうに語ってきた やわらかくて弱々しい心は強い外殻をもとめる 言論と思想と、少しばかり人より斜めからものを見られる唯一の特技でもって カンカン、カンカンと大工が金槌を打つように爽やかに あるいはカタカタカタカ

          かたる 2

          かたる

          例えば思いのひとつまみ 口に出してみる あるいはこうして 紙の上に書き留めてみる (紙の上に書くという行為自体、もはや比喩表現になってしまった) どこからか放たれて 落下しながら消えゆく光 さながら夏の夜の花火 ほんの一瞬を輝かせるため たったそれほどしかないことなのです それでもこの魂を削り削って 現実世界のものであるため 今日も言葉を紡ぎます どうにも上手い人たちは 削り終わった塊も 元の形のままなのだけれど 僕らのようなものたちは もうそれが魂と呼べる代物ではなく