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No.11 ノンフィクション小説「ブロークンライフ!!」

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翌朝、僕は、ビジネスホテル『南屋』のロビーに、6:15に着いて待っていた。幸い、木崎支店長が宿泊している『南屋』は、僕の家から歩いて5分圏内だったため、余裕を持って到着する事が出来た。

(よし。待ち合わせ時間の前に着いた。木崎支店長、どんな方だろう?)

思いを巡らせながら、待っている。やがて、6:30になった。木崎支店長は、現れない。

(おかしいな。。ここで間違いないはずだけど。電話してみるか。)

木崎支店長の番号は、事前にもらっていたので、知っている。

「あ、おはようございます。田中です。」

「おはよう。今お前、どこにいるんだ?」

「『南屋』のロビーにおります!」

「どこの『南屋』だ?」

「え?」

背中を、嫌な汗が流れた。まさか…

「もしかして、『南屋』って、複数あるんですか?」

「3つあるんだよ。仕方ないから、お前の所まで行ってやるから、ちょっと待ってろ。」

「はい、すみません!」

ホテルの前に立って待っていると、シルバーの車が目の前に止まった。窓が開くと、

「田中か?」

と聞かれた。木崎支店長だ。

「はい!すみませんでした。よく確認しなくて。」

ドアを開け、乗り込みながら言う。

「ハハハ。まあ、気にしないで大丈夫だよ。改めて、おはよう。」

「あ、おはようございます!田中です。今日から宜しくお願いします!」

いきなり、ホテルを間違える所から始まって、気まずい想いをしながらだったが、車はすぐに第一のお客様先に着いた。事前にお客様の企業名はもらっていたので、ネットで情報は調べておいた。

木崎支店長は既にハノイに赴任している為、1週間しか時間が取れないので仕方がないのだが、中々の強行軍だった。朝7:00〜18:00前後まで、びっしりとスケジュールが入っている。そして、訪問先のエリアも様々だ。ホーチミン市を中心に、北にビンズン省、東にドンナイ省、その更に先にバリアブンタウ省、南にロンアン省だ。火〜金曜まで、エリアに分けてスケジュールが組まれている。時間が限られている為、面談時間は長くても20〜30分と短いのだが、移動時間が長い。SOCIAL VIETNAMの提供するサービスの性質上、お客様は、工場が多く、各省にある工業団地に訪問する事が多いからだ。ビンズン省、バリアブンタウ省の工業団地などは、場所によっては2時間を超える場合もある。

今回は、引き継ぎ訪問の為、僕がこれから営業する、人材研修、人材紹介、ITを実際に営業している様子は見られなかった。その為、移動時間の合間に、木崎支店長が手を休ませている隙を見計らって、あれこれと質問をしたため、木崎支店長も、一日が終わる頃には、グッタリという感じだった。

引き継ぎ訪問も、三日目が終わる頃には、

「お疲れさん…。じゃあ、明日も、6:30にホテルのロビーでな…。」

普段、パワフルな木崎支店長が、消え入りそうな声で、呟くように言う。

「はい!今日もありがとうございました!明日も宜しくお願いします。」

(木崎支店長、日に日にやつれていくようだな…申し訳ない。。)

引き継ぎ同行の最終日も、遠方を周り、夕方に、最後のアポイントである、ホーチミン市内のお客様先に訪問した。引き継ぎの挨拶を終え、その後は社長と木崎支店長で、会食に行く約束をしていた所、先方の社長が僕も誘って下さった。

会食先は、ドンコイ通りにある、イタリアンレストランだった。お二人共、行きつけのお店だそう。ビールで乾杯をして、前菜から、メインを1品、2品と頼んで行く。木崎支店長と、社長は、年齢も同じで、赴任時期もほぼ同じらしく、その頃からの付き合いだそうだ。

「私達の会社を設立するのも、本当に大変だったんですよ。木崎支店長には、本当にお世話になって、何度も一緒に飲みに行かせてもらいました。だからハノイに行かれてしまったのは、とても寂しいんですけどね。」

「僕もそうですよ。ぜひ、ハノイにいらした時には、声を掛けて下さいね!ハノイの美味しいお店を見つけておきますから!」

(木崎支店長、ホーチミンに長くいらして、お客様からの信頼も厚いんだな。ペーペーの僕が引き継がせて頂くのもおこがましいけど、気を引き締めて、精一杯頑張らないと!)

会食からの帰り際、木崎支店長がボソリと呟く。

「人材研修は難しいよ。俺も、5年経って、今でこそはお客様からご契約を頂けるようになったけど、始めは全くだったからなぁ。」

酔いもあったせいか、ポロっと本音が漏れた感じだった。

(営業経験の長い木崎支店長でも、そんなに難しかったんだな。)

「でもお前は、一生懸命なのが良い所だから、とにかくお客さんと付き合って、飲みに行って、可愛がられるのが良いんじゃないか?」

「はい!僕もそう思います!木崎支店長のような営業力も、威厳も無いので、お客さんと仲良くなる事を心掛けて頑張ります!」

「おう!期待してるぞ!」

こうして、4日間の引き継ぎの全行程を終えて、木崎支店長は、ハノイに戻って行った。来週からは、一人での営業活動が始まる。正直不安の方が大きかったが、持ち前のポジティブシンキングで、「何とかなるだろう!」と思い直し、来週への気持ちを新たにした。

明日に続く…

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