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ドイツ詩を訳してみる

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#翻訳

ひよこのるる訳詩目録

2018年11月以来発表してきたぼくの訳詩約70編の、作者別の目録です。もし気に入った作品を見つけたら、同じ作者や時代の他の作品も読んでみていただけたらとてもうれしいです。

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作曲家・ミュージシャン別の索引も用意しております。

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以下、作者の生年順に並べています。

Marcus Valerius Martialis/マルクス・ウァレリウス・マルティアリス(ローマ)
c.40-c.

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ハイネ「うるわしく美しい五月」(ドイツ詩を訳してみる 31)

Heinrich Heine (1797-1856), Im wunderschönen Monat Mai (1823)

うるわしく美しい五月
つぼみがいっせいに開くころ
ぼくの心のなかでは
恋が花開いた。

うるわしく美しい五月
鳥たちが一斉に歌うころ
ぼくはあの子に打ち明けた
あこがれと焦がれる思いを。

(喜多尾道冬の訳を参考にした。)

Im wunderschönen Monat M

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アイヒェンドルフ「壊れた指輪」(ドイツ詩を訳してみる 30)

Joseph von Eichendorff(1788-1857), Das zerbrochene Ringlein (c.1810)

すずしい谷間で
水車がまわる、
水車小屋に住んでいた
愛しいひとはもういない。

一生の愛を誓って
ぼくに指輪をくれたのに、
愛の誓いは破られて
ぼくの指輪は裂けた。

ぼくは歌びとになって
広い世界を旅したい、
家から家へ巡って
ぼくの歌を歌いたい。

ぼく

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格を気にするひと(訳者あとがき2)

格を気にするひと(訳者あとがき2)

このところ翻訳する中で、格を気にさせすぎない日本語にする、ということを気にしていることがある。

学校で習う英文法では

〈主格〉  I  私が
〈所有格〉  my  私の
〈目的格〉  me  私を/私に

というのがある。ドイツ語やフランス語にもだいたい同じようなものがある。日本語文法では「ガ格」「ヲ格」「ニ格」などと呼ばれていて、これも似たようなものだ。

しかし、ぼくらは普段それほど格を意

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ひよこのるる訳詩目録 作曲家・ミュージシャン別索引

noteで70編以上の詩を翻訳する中で、それらに関係のある音楽もたくさん紹介してきました。クラシックの歌曲や合唱曲が多いですが、シャンソンやロックもあります。いろいろな詩を楽しんでいただく一つのきっかけとして、それらを作曲家・ミュージシャン別に並べてみました。

おなじみの人や作品の中に、聞いたこともないような人や作品が交ざっていることでしょう。またすべてが傑作というわけではないでしょう。しかしそ

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リュッケルト「きみはぼくの魂、きみはぼくの心……」(ドイツ詩を訳してみる 26)

Friedrich Rückert, Liebesfrühling (1821) III

きみはぼくの魂、きみはぼくの心、
きみはぼくの歓び、きみはぼくの痛み、
きみはぼくが生きるぼくの世界、
きみはぼくが昇るぼくの空、
ああ きみはぼくが葬り去った
ぼくの悲しみが永遠に眠るぼくの墓!
きみは安らぎ、きみは癒し、
きみは天からぼくへの贈り物。
きみの愛ゆえにぼくはぼくを大切に思える、
きみの眼差

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シュトルム「街」(ドイツ詩を訳してみる 25)

Theodor Storm, Die Stadt (1852)

灰色の浜辺 灰色の海辺
そのはずれにその街はある。
霧が屋根に重くのしかかり
静けさの向こうから
単調な海鳴りが聞こえる。

ささやく森もなく 五月に
鳴きしきる鳥もいない。
ただ秋の夜に 渡りの雁が
鋭い声を上げて通り過ぎ
浜辺の草がなびくのみ。

それでもお前が心から愛おしい、
灰色の海辺の街よ。
若き日の魔力がずっとお前に

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ハイネ「アスラ」(ドイツ詩を訳してみる 24)

Heinrich Heine, Der Asra (1851)

日ごと 麗しいスルタンの娘は
夕方になると 噴水の
白い水がさざめくそばに来て
行きつ戻りつしていた。

日ごと とある年若い奴隷が
夕方になると 噴水の
白い水がさざめくそばに来て
日増しに青ざめていった。

ある日の夕方 王女はかれに
歩み寄り 早口で尋ねた。
「あなたの名前を教えて。
出身はどちら? 種族はどちら?」

奴隷は

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リルケ「秋の日」(ドイツ詩を訳してみる 23)

Rainer Maria Rilke, Herbsttag (1902)

主よ、実に良い夏でした。今こそ
あなたの影を日時計の上に落とし
草原に風を放ってください。

最後の果実らには 満ちよと命じ
あと二日だけうららかな日を恵み
一気に熟させ たわわな葡萄の房に
最後の甘い汁を注ぎ込むのです。

いま家のない者は 永遠に建てないまま、
いま孤独な者は 永く孤独なままだろう
夜も眠れず 本を読み

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リルケ「豹」(ドイツ詩を訳してみる 22)

Rainer Maria Rilke, Der Panther (1902)

『新詩集』(Neue Gedichte, 1907) 所収。「パリ植物園にて」という副題がついています。

その目は柵の行き来に倦み果て
もはや何物をも捉えない。
あたかも目の前に千の柵があり
千の柵の先に世界はないかのよう。

力強くもしなやかな足取りが
のっそりと小さな円を描く。
あたかも弱った大きな意志の周りを

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ノヴァーリス「もはや数字と図形が…」(ドイツ詩を訳してみる 21)

Novalis, Wenn nicht mehr Zahlen und Figuren (1800)

もはや数字と図形が
すべての生物の鍵ではなくなったら、
歌う者や口づけする者が
博識な学者よりも賢くなったら、
世界が自由な生命へと戻り
世界が世界へと還ったら、
そして 光と影が再び結ばれて
真の明るさとなって輝き、
人々がおとぎ話や詩の中に
世界の本当の歴史を認めるようになったら、
そのとき

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幸福でいることを誓い合おう(訳者あとがき)

幸福でいることを誓い合おう(訳者あとがき)

いつも運任せで翻訳している。
気になった詩に体当たりしてみて、日本語が浮かんでくるのを待つ。
それらしい形になったら出来上がり。ならなければお蔵入りになる。
一編仕上げるたびに、ぼくに訳せる作品はもう全部訳してしまったという感覚に陥る。
感性のどこかに引っかかる作品が見つかるまでこの無力感は続く。

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かつて学生合唱団に所属していたとき、ぼくは演奏会が面白くなかった。
演奏後にはたくさん拍手

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ゲオルゲ「高まりゆく年の中で、庭の香りは……」(ドイツ詩を訳してみる 19)

Stefan George, Es lacht in dem steigenden jahr dir (1895)

高まりゆく年の中で、庭の香りは
なおもほのかにあなたに笑いかけ、
風にたなびくあなたの髪に
木蔦と九蓋草を編み込む。

風にそよぐ種子は なおも黄金のようだ、
おそらく前ほど高く豊かではないけれど。
薔薇の花は なおも愛らしく挨拶してくれる、
その輝きもいくらか色あせてしまったけれ

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ゲオルゲ「死に果てたという園に来て 見よ……」(ドイツ詩を訳してみる 16)

Stefan George, Komm in den totgesagten park und schau (1895)

死に果てたという園に来て 見よ、
遠くの水辺はにこやかに輝き
真っ白な雲からは思いがけなく青がのぞき
池や 色づいた小道を明るく照らしている。

あの深い黄色や 柔らかい灰色を
白樺やつげの木から摘み取れ、風は暖かい、
遅咲きの薔薇はまだしおれきってはいない、
選りすぐり 口

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