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ドイツ詩を訳してみる

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#ドイツ語

ひよこのるる訳詩目録

2018年11月以来発表してきたぼくの訳詩約70編の、作者別の目録です。もし気に入った作品を見つけたら、同じ作者や時代の他の作品も読んでみていただけたらとてもうれしいです。

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作曲家・ミュージシャン別の索引も用意しております。

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以下、作者の生年順に並べています。

Marcus Valerius Martialis/マルクス・ウァレリウス・マルティアリス(ローマ)
c.40-c.

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ゲーテ「野ばら」(ドイツ詩を訳してみる 32)

Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832), Heidenröslein (1771)

子供が見つけた
野に咲くばら、
まばゆい盛りの
野ばらに駆け寄り
うっとり見つめた。
ばら ばら まっか
野に咲くばら。

「おまえを摘んでやる
 野に咲くばら」
「あんたを刺してやる
 忘れられなくしてやる
 摘まれるのはいや」
ばら ばら まっか
野に咲くばら。

子供が

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ハイネ「うるわしく美しい五月」(ドイツ詩を訳してみる 31)

Heinrich Heine (1797-1856), Im wunderschönen Monat Mai (1823)

うるわしく美しい五月
つぼみがいっせいに開くころ
ぼくの心のなかでは
恋が花開いた。

うるわしく美しい五月
鳥たちが一斉に歌うころ
ぼくはあの子に打ち明けた
あこがれと焦がれる思いを。

(喜多尾道冬の訳を参考にした。)

Im wunderschönen Monat M

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格を気にするひと(訳者あとがき2)

格を気にするひと(訳者あとがき2)

このところ翻訳する中で、格を気にさせすぎない日本語にする、ということを気にしていることがある。

学校で習う英文法では

〈主格〉  I  私が
〈所有格〉  my  私の
〈目的格〉  me  私を/私に

というのがある。ドイツ語やフランス語にもだいたい同じようなものがある。日本語文法では「ガ格」「ヲ格」「ニ格」などと呼ばれていて、これも似たようなものだ。

しかし、ぼくらは普段それほど格を意

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ハイネ「ある若者が娘に恋をして…」(ドイツ詩を訳してみる 28)

Heinrich Heine, Ein Jüngling liebt ein Mädchen (1822)

ある若者が娘に恋をして、
娘は別の男を好きになり、
その男はまた別の女に恋をして
二人は夫婦になりました。

娘は腹を立てるあまり
道端でたまたま出くわした
行きずりの男と結婚したので、
若者は参ってしまいましたとさ。

これは昔むかしの物語、
けれど今なお古びない。
そしていざ我が身にふ

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リュッケルト「きみはぼくの魂、きみはぼくの心……」(ドイツ詩を訳してみる 26)

Friedrich Rückert, Liebesfrühling (1821) III

きみはぼくの魂、きみはぼくの心、
きみはぼくの歓び、きみはぼくの痛み、
きみはぼくが生きるぼくの世界、
きみはぼくが昇るぼくの空、
ああ きみはぼくが葬り去った
ぼくの悲しみが永遠に眠るぼくの墓!
きみは安らぎ、きみは癒し、
きみは天からぼくへの贈り物。
きみの愛ゆえにぼくはぼくを大切に思える、
きみの眼差

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シュトルム「街」(ドイツ詩を訳してみる 25)

Theodor Storm, Die Stadt (1852)

灰色の浜辺 灰色の海辺
そのはずれにその街はある。
霧が屋根に重くのしかかり
静けさの向こうから
単調な海鳴りが聞こえる。

ささやく森もなく 五月に
鳴きしきる鳥もいない。
ただ秋の夜に 渡りの雁が
鋭い声を上げて通り過ぎ
浜辺の草がなびくのみ。

それでもお前が心から愛おしい、
灰色の海辺の街よ。
若き日の魔力がずっとお前に

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ハイネ「アスラ」(ドイツ詩を訳してみる 24)

Heinrich Heine, Der Asra (1851)

日ごと 麗しいスルタンの娘は
夕方になると 噴水の
白い水がさざめくそばに来て
行きつ戻りつしていた。

日ごと とある年若い奴隷が
夕方になると 噴水の
白い水がさざめくそばに来て
日増しに青ざめていった。

ある日の夕方 王女はかれに
歩み寄り 早口で尋ねた。
「あなたの名前を教えて。
出身はどちら? 種族はどちら?」

奴隷は

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リルケ「秋の日」(ドイツ詩を訳してみる 23)

Rainer Maria Rilke, Herbsttag (1902)

主よ、実に良い夏でした。今こそ
あなたの影を日時計の上に落とし
草原に風を放ってください。

最後の果実らには 満ちよと命じ
あと二日だけうららかな日を恵み
一気に熟させ たわわな葡萄の房に
最後の甘い汁を注ぎ込むのです。

いま家のない者は 永遠に建てないまま、
いま孤独な者は 永く孤独なままだろう
夜も眠れず 本を読み

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ブレンターノ「夕べのセレナーデ」(ドイツ詩を訳してみる 13)

Clemens Brentano, Abendständchen (1802)

ほら また悲しげに笛が鳴っている
冷たい噴水もざわめいている。
金色の音たちが降りてくる
しずかに! 耳を澄ませよう。

つつましい願い 穏やかな望みが
世にも甘やかに心に語りかける。
わたしを包む夜のかなたから
音たちの光がわたしを見つめる。

Hör', es klagt die Flöte wieder,
Un

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アイヒェンドルフ「薄明」(ドイツ詩を訳してみる 12)

Joseph von Eichendorff, Zwielicht (1815)

(西野茂雄・志田麓の訳を参考にした。)

シューマンの『リーダークライス』Op. 39 の10曲目として有名です。

最終行は、同じシューマンの『森の情景』の「予言の鳥」の自筆稿でもモットーとして引用されています。

グリューフィウス「祖国の涙」(ドイツ詩を訳してみる 11)

Andreas Gryphius, Thränen des Vaterlandes / Anno 1636 (1643)

「1636年」という副題がついている。三十年戦争(1618-1648)のまっただ中に書かれた詩。

われらは今や完全に いや完全以上に破壊された。
無分別な諸民族の群れや 荒れ狂うラッパや
血みどろの剣や 轟く大砲のせいで
汗と熱意と蓄えが 底をついてしまった。

塔は燃え上

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プラーテン「ブゼント川の墓」(ドイツ詩100選を訳してみる 7)

これまでにnoteで訳した詩の中で、唯一満足のいく出来にならなかったのがこの詩でした。

仕方なくしばらく寝かせていたのですが、一つアイデアが浮かんだので再挑戦してみました。

3ヶ月前に訳したときの違和感は、形式的に厳格な詩を意味だけ写していることの物足りなさでした。すべての行で厳密に「強弱」を8回繰り返し、脚韻も後ろから2番めの母音から完璧に踏んでいます(Doppelreim、二重韻)。これを

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アイヒェンドルフ「あこがれ」(ドイツ詩100選を訳してみる 9)

「月夜」(Mondnacht)に続いてアイヒェンドルフの詩の翻訳第2弾。想像の中のイタリアを歌っている詩だという。

Sehnsucht

Es schienen so golden die Sterne,
Am Fenster ich einsam stand
Und hörte aus weiter Ferne
Ein Posthorn im stillen Land.
Das Herz mi

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