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エッセイ

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実体験や、思ったこと感じたことを徒然と。
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ビートルズで見送って【エッセイ】

ビートルズで見送って【エッセイ】

1640文字
声に出すと約6分

「この曲、わかる?」
和音を探りながら、父は言った。

ピアノを弾くところなんて、それまで見たこともなかった。
私のピアノの練習はおろか、発表会にも来たことのない人だった。
まさかピアノに関心があるとは思いもよらず、小学生の私は戸惑った。

「これが、イントロ。」
たどたどしくも力強い和音が部屋に響く。
ビートルズの「Let it be」という曲だった。

父は

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あなたはいないのに桜は咲くのです【エッセイ】

あなたはいないのに桜は咲くのです【エッセイ】

※人が亡くなった話がお辛い方は見ないことを推奨します※

(約730文字)

「ひと月前は」と思い返しながらの、ひと月だった。

「もう2月も終わりになりますね」
「あっという間に年度末です」

流れてくる月末の挨拶が

とても怖かった。

その日 その日

生きていてくれることを祈って

生きていてくれることが

毎日 奇跡だった。

もう1日

もう1日

終わりを感じながら

もう1日

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病室の朗読会

※家族の闘病や人が亡くなる話がお辛い方は見ないことを推奨します※

深夜の病室で、朗読会をしました。
お客さんは、作品内で思いを馳せている相手の「父」ひとり。

その時にはもう、目覚めて言葉を交わすことはできない状態でしたが、
だからこそ 読むことができました。

父の前で朗読などしたことのなかった私。
まして、文章を書いて人様に台本を読んでいただいているなど欠片も知らせていません。

けれど、ま

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 絵本と、絵本好きな人たちが私を支えてくれた8年間 【エッセイ風】

絵本と、絵本好きな人たちが私を支えてくれた8年間 【エッセイ風】

1810文字
声に出すと約7分

幼い頃の家の風景を思い出してみると、
「絵本」がいつもテーブルの上にあったように思う。

超が付くほど本好きの母が、幼い私にたくさんの絵本を読んでくれた。
そのお陰なのか、私にとって本というものはとても身近な存在だった。
年齢とともに児童書、ライトノベル、小説と読むものは変わっても、本はいつも生活のどこかに必ずあった。

子どもを授かったと分かった時、何より先に

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【エッセイ風】神様になったんだって

私には
特別な空間だった

毎年来ることもできない遠いその土地には
大好きな人たちがいた

「観光」という概念がなかった幼い時分には

なにやら珍しいものが見られたり

どうやら贅沢らしい物が食べられたりして

大人たちが言う「効能」だとかは
さっぱり分からない温泉で

広々したお風呂を子ども同士
遊びながら堪能した

旅館やパーキングにある
お土産屋さんが大好きだった

ギラギラしていない店内

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【エッセイ風】眠れぬ夜に物語がくれたもの

【エッセイ風】眠れぬ夜に物語がくれたもの

821文字
☆所要時間:5分以内
☆人数 :1人用

「満身創痍」

布団に倒れ込んだ私にピッタリな四字熟語。

重くのしかかるのは、重力だけではないようで。

帰宅した今も、連日の忙しさと緊張が全身にこびり付いて、私の身体は布団の柔らかさに埋もれられずにいた。

言葉にしたくはないが

「疲れた」

と無意識に発していた。

何を食べるかを考えるのも億劫で、このまま寝てしまおうと寝床へ倒れ込んだ

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