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橋本治『生きる歓び』
橋本治『生きる歓び』
以下、引用。
「私は、恋をしていたことがあったんだ」と、志津江は大きくうなずくように思って、塩漬けの桜の花のついている方のあんぱんを、口許に運んだ。
その塩漬けの桜の花びらは甘くてからくて、それはそのまま、ほとんどそれ以前の自分の人生を嚥み下してしまうようなものだった。
「私は恋をしていて、それだからこそ、今までの人生は、すべて夢になってしまってもいいのだ」と思って、志津江は
橋口亮輔「二十才の微熱」(1993)
自主ゼミの四年生が卒論で橋口亮輔さんの「ぐるりのこと」を分析していることもあり、ふと思い立って「二十才の微熱」を二十年ぶりに観た。
オランダに住む四十代で社会人の今の私は、当時、東京の西の端で二十代の大学生であった私が、この作品を見た後、寄る辺のない、不安定で、それなのになぜか誰かにそっと寄り添われてもいるような感覚を抱いたことを懐かしく思い出すのだ。
そして、今の私は、当時の私がそのふわふわと
Book Cover Challenge Day 5:姫野カオルコ『ツ、イ、ラ、ク』。
「たくましくしなやかに生きる女性が登場する物語」をテーマに7冊の本を紹介しています。
今日は、姫野カオルコさんの『ツ、イ、ラ、ク』です。
それにしても、なんといかがわしいタイトル、なんと卑猥な感じの表紙でしょうか!
そんな我が愚かな先入観によって、長らく手に取らなかったのが、この小説です。
ところが、ふと表紙を開き、冒頭の数ページを読み進めただけで、私は自分の置かれている現実がたちまち背後に
Book Cover Challenge Day 4:本谷有希子『あの子の考えることは変』
「たくましくしなやかに生きる女性が登場する物語」をテーマに7冊の本を紹介しています。
今日は、本谷有希子さんの『あの子の考えることは変』。 ブックカバーチャレンジは、あれこれ解説を加えてはいけないルールだと知らず、昨日まで長々と書いてきたので、今日は簡潔に。と言っても、長くなるだろうけれど。 「あの子の考えることは変」と、家族や周囲の人たちがため息をつきながら自分のことを話すのを聞きながら生きてき
Book Cover Challenge Day3:橋本治『浄瑠璃を読もう』
「たくましくしなやかに生きる女性が登場する物語」をテーマに7冊の本を紹介しています。
今日は、橋本治の『浄瑠璃を読もう』です。昨年亡くなった小説家の橋本治さんが書かれた、人形浄瑠璃の解説書です。これがもう素晴らしく面白くて!
私は大学生の頃にたまたま公演を見たのがきっかけでハマって以来、大阪の文楽劇場に足を運んだり、本公演に飽き足らず、素浄瑠璃を聞きにいくほど、浄瑠璃が好きです。
でも、なぜ好きな
Book Cover Challenge Day 2:中島京子『女中譚』
「たくましくしなやかに生きる女性が登場する物語」をテーマに7冊の本を紹介しています。
中島京子さんの小説には魅力的な女性がたくさん登場する。は、林芙美子の『女中の手紙』、吉屋信子『たまの話』、永井荷風の『女中のはなし』の物語に登場する女中たちの、原作では語られていない側面に光を当てて描かれた短編集で、原作と合わせて読んでも、単独で読んでも一気に物語世界に引き込まれる魅力的な作品である。
私は、女中
Book Cover Challenge Day 1:南房総の物語
海女の鈴木直美さんにお声かけいただいたブックカバーチャレンジ。
せっかくなので、鈴木さんに因んだテーマで7冊の本をご紹介しようと思います。すなわち、「たくましくしなやかに生きる女性が登場する物語」。
1日目は、海女の鈴木さんご自身が主人公として登場する物語です。明治大学南房総ゼミの学生が、実際にインタビューをして話を伺い、イルカのようにしなやかで美しい鈴木さんの人生を小説にしました。
鈴木さんの物
貴重だけれども、予断を許さない隣人たち
19時から23時。
当初は2時間の予定だったのだが、予想通りというべきか、4時間経っても、ちっともそんな感じはしないのだった。
今晩は「女傑」と私が勝手に呼んでいる飲み仲間たちとオンラインで酒を酌み交わした。彼らの多くは、虎ノ門にあるblancというビストロでたまたま隣り合わせたりして知り合った人々である。
「女傑」というからには、性自認として「女」であり、他者から見て「傑士」である人物たち
Transparent
An awesome drama series!
“Transparent”というアメリカのドラマにどっぷりハマっている。
“Transparent”とは「透明な」とか「率直な」、「素直な」という形容詞であるが、このドラマの場合、その言葉に”trans”な”parent”、つまり「トランスジェンダーの親」という意味が懸けられている。
それがどういうことなのかは、ぜひドラマを観て確認していただきたい
Vinho Verde
冷蔵庫に残された最後の南房総野菜や卵で、ネギ味噌や、卵と絹さやと木耳の炒め物などを作る。むむ!これは、ポルトガルのヴィーニョ・ヴェルデにぴったりの料理ではないだろうか。
「今日は昼間も飲んでいましたが、夜もボトルを抜栓してもよいでしょうか?」
頭の中に住まわせているミニチュアの神様にお伺いを立てると、
「いいよ!」
と即答してくださった。
南房総食材の最後の晩餐である。
明日からどうやって生きてい