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もと鳥取市歴史博物館学芸員・やまびこ博士こと佐々木孝文による城跡や近代文化史に関する論考等を、不定期に掲載していきます。
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2015年7月の記事一覧

地域への視線・地域からの視線 ―近世地誌編纂者の世界像―

(鳥取市歴史博物館平成14年度秋季展覧会の図録『江戸時代、「諸国」繚乱』所載のものをベースに修正。図録所載のものには図版・脚注が付されているが省略。どっちかというと省略したもののの方が面白いので、関心のある向きは是非図録の方をご覧ください。下記で販売されています。http://www.tbz.or.jp/yamabikokan/index-34054.php

はじめに ここでは、寛政三奇人の一

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岳亭丘山研究はしがき(基礎史料紹介)

 (2002年頃のメモを再編集。もともとは1997年頃の研究カードを打ち込み直したもののようだ。ウェブサイトで少し触れたら浮世絵研究者から共同研究の声がかかった。当時本業が忙しすぎたのでスルーしてしまったのは惜しかったかも)

 近世の文化人として見た場合、岳亭丘山の活動には、際立った特色というものがない。

 あえて言うなら絵師としての仕事にある程度特筆するものがあるが、それにしても魚屋北渓門下

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鳥取市本町四丁目稲荷大明神社資料について

(鳥取地域史研究 (4), 2002)

 本町四丁目の稲荷大明神社は、旧城下町各所に見られる稲荷の小祠の一つである。鳥取城下町にも江戸時代に多数の稲荷が勧請され、現在もその多くが残存しているが、鳥取大火・鳥取大震災という二度の近代の災害などのため資料の多くは失われている。本町の稲荷は当初からの棟札等が残存している僅少な例である。
 これは、鳥取大火に際して小谷嘉資氏が危険を顧みず搬出したことと、

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ノスタルジック・95 ―Windows95登場前夜―

(1995年頃執筆。ミニコミか何かに公表してたと思うけどなんだか思い出せず。懐かしいというより古臭いというか、作ったきり忘れてた20年物の梅酒みたいになってますが、若さが発酵していい感じに笑えるのでタイトルを変えて再掲載。なお、今出川とは同志社大学今出川校地のこと)

 こんにちは、今出川のパソコン人柱です。今月も、何の得もないレビュー記事を書くために、結構苦心してみました。題して、「実用に耐える

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日本語ワードプロセッサの追憶 2.1994年の夏休み

 (引き続き、2011年ころの未定稿。若干のソフトウェアレヴューつき)

 ワープロ専用機程度の紙出力ができるMac用のワープロソフトが欲しい、というのが、1994年の夏休みの私の欲求のひとつだった。

 なにしろ、普及機種とはいえ、MacintoishであるPerforma520は、貧乏大学院生には分不相応な買い物だったから、投げ出すわけにはいかない。しかし、標準添付のクラリスワークス2.0やS

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日本語ワードプロセッサの追憶 1.世紀末の唄

(メディア発表済原稿がデータで残ってないので、データ化できるまでしばらく未発表原稿が続きます。このシリーズは、電子処理で人文系の原稿を書き始めたころから2005年頃までの「日本語ワープロ」に関わるエッセイです。未完ですが1話単位でも読めるので埋め草としてアップします。なお、執筆は2011年頃。)

 私は、文科系人間である。それも、骨の髄からの文科系である。

 したがってパーソナル・コンピュータ

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鳥取城跡籾蔵跡の変遷

(『鳥取城跡籾蔵跡第20次調査 : 鳥取県立鳥取西高等学校改築計画に係る埋蔵文化財発掘調査報告書』2011.3所載の論考をちょっとだけ加筆修正)

 

鳥取城跡籾蔵跡は、史跡鳥取城跡南ノ御門跡の背後、三ノ丸跡に隣接し、現在は鳥取県立鳥取西高等学校の第2グラウンド等として利用されている。

 『因幡志』等、近世地誌類の記述によれば、水道谷一帯には、鳥取城下町成立以前から集落が形成されており、「沢市

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実親卿秘記

(20世紀末に、担当していた友人に機会を貰って『SFオンライン』用に書いた短編小説です。〆切オーバー&字数オーバーのため結局採用されませんでした。一応多少の評価はいただいて長編執筆を勧められましたが、そっちを書けずそのままになっています。ちょっと気恥ずかしいのですが、モチーフが研究テーマとも被るので公開)

  太一ノ章 「手をだしな」

 太一は、ぶっきらぼうにそう言った。照れ隠しだった。

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『「坊っちゃん」の時代』―「真剣勝負」のもたらしたもの―

(2011.9 「谷口ジロー原画展」パンフレット原稿。オリジナルには漫画画像が掲載されていますが、これはテキストのみ)

『「坊っちゃん」の時代』という作品 谷口ジロー・関川夏央の『「坊ちゃん」の時代』は、夏目漱石や森鴎外ら文士たちを中心に据え、明治という時代に漫画という武器で切り込んでいった野心作である。「明治の文豪もの」という、困難なモチーフに果敢に挑んだこの『「坊ちゃん」の時代』は、2001

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賀露神社所蔵『吉備大神遊碁御影』に描かれた場面
ー阿倍仲麻呂の幽霊姿を通してみるー

賀露神社所蔵『吉備大神遊碁御影』に描かれた場面 ー阿倍仲麻呂の幽霊姿を通してみるー

(鳥取県立博物館展覧会図録『はじまりの物語』【2008.10・完売】に寄稿。縦書現行なので数字表記が漢数字中心になっています)

一.紙本彩色『吉備大神遊碁御影』について 鳥取市の賀露神社に、『吉備大神遊碁御影』と題する、一幅の不思議な画幅が所蔵されている。この画幅についての記録は残っておらず、落款はあるがやや雑に押されているため判読が困難である。本稿執筆のため、筆者も短時間ながら閲覧の機会を得た

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概説 鳥取城の近代史

概説 鳥取城の近代史

(『鳥取城資料集 近代編』 鳥取市教育委員会、2013.3所載)

はじめに近世城郭の歴史は、明治維新で終わりではない。

鳥取城のように、現存する近世城郭の保存整備を実施する場合には、文化財の性格や現状を的確に把握するためには、近代史の研究が不可欠であり、また、地域社会における近世城郭の意味づけを考える上でも重要な意味を持っている。

にもかかわらず、森山英一『明治維新 廃城一覧』(注1)を端緒

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鳥取の権現祭 ―池田仲博の十二葉から―

(『鳥取文芸』33号、2011掲載)

             佐々木 孝文

 鳥取の権現祭については、すでに中村忠文氏をはじめ、多くの先学による著述がある。鳥取東照宮の成立の経緯や権現祭の歴史、祭礼行列を特徴付ける麒麟獅子舞などについてはより詳しくそちらで触れられおり、詳細はそちらをご覧いただくに如かないので、本稿では、本筋から少し離れて、近代の権現祭、特に祭礼行列をめぐるエピソードを紹介す

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