記事一覧
vol.7 豊かさとは
義母の介護の話しを聴かせてもらえた後、お客様は私達が出店する全てのイベントへ足を運んでくれるようになった。
出会った時と同じく、自分からは全くお話をされないお客様。
毎回、私が一人で喋り続けるのだが、あの日の出来事からお客様に一つだけ変化があった。
私の話しに対し、笑ったり相槌を打ったりと表情で応えてくれるようになったのだ。
しかも、来店される度にお買い物をしてくださり、こちらが薦めるままにお買い
vol.7 祖母と私
祖母は私が産まれる以前から盲目だった。
視覚障害の等級で言うと1級で、母が産まれた時点では微かに見えていたそうだが、だんだんと見えなくなってしまったそうだ。
若い頃、稲穂の先が目に突き刺さり、角膜を傷つけたことが原因だったと聞いた。
今では治せる怪我も、抗生物質が無かったその時代…
不運な事故は、祖母の運命を大きく変えてしまったのではないだろうか…
私には歳の近い姉と妹がおり、ありがちな話しだが
vol.7 きっかけ
百貨店の1階中央にあるイベントスペースでの開催は、初めは困難に思えた。
しかし、回を追うごとに右肩上がりに売上を作ることができ、そのうちに安定してきた。
レジ担当スタッフは、私達が精算に訪れると怯えたような表情を見せた。
理由は、1階での取り扱い商品が小物やバック、コスメ商品が主で、単価が一桁違ったからだ。
金額を伝え、レジを打ち込む姿を後ろから眺めていると、毎度桁を間違えて確定ボタンを押そうとす
vol.6 〜最終章〜 宝物
年末の展示会でお会いした後、翌年の夏が過ぎてもクロスのペンダントを購入いただいたお客様とはお会い出来ていなかった。
秋に入り、お客様と出会えた百貨店でホテルでの展示会を行うこととなった。
声を掛けない限り、店内のイベントには一度もお越しいただけないお客様。
私はこの機会にお会い出来ればと思い、早速ご案内の電話を入れることにした。
ルルル…ルルル…ルルル…
初めてお客様へ連絡を入れた時のことを思
vol.6 視点の違い
4月に入った
震災の影響で東北地方の百貨店が営業出来ず、同時に私達の会社も展示会やイベントが無くなり、仕事が激減していた。
そんな中、都心に近い百貨店で一社で行う大掛かりなホテル展示会は継続される事となった。
この頃、計画停電は無くなったものの節電対策は続いており、街中には変わらず陰鬱なムードが漂っていた。
私はこの開催から沖縄で思いついたことを実行しようと決めていた。
沖縄でのイベント最終日に
vol.6 お気に入り
展示会が始まった。
有難いことに連日大勢のお客様で賑わい、私達スタッフはトイレに行く暇さえないほど忙しく、会場内に入り浸り接客に精を出していた。
クロスのペンダントを購入いただいたお客様は約束の時間きっかりに来場された。
正確に言うと来場されたようだった。
会場には受付係も配備されるようになり、お約束の顧客様の来場時には、売り場責任者の私に伝達が来るようになっていた。
が、その時間帯、予約以外の
vol.6 好き嫌い
年末恒例の大プロジェクトも板についてきた頃…
その日は在社をしており、数週間後に行われるその展示会の準備をしていた。
招待客のリストを眺めていて、先日クロスのペンダントを購入いただいたお客様にもお越しいただけないかとふと思った。
〝新規顧客と親密度を高めるには展示会は絶好のチャンス!思い立ったら吉日‼︎〟
そう思った私は、想いを寄せる人に電話をするような気持ちになり、適度な緊張と高揚感に胸を躍ら
vol.6 コーディネート
1階のイベントスペース、周りはお菓子やハンドバッグ、靴などの雑貨店が立ち並ぶ、言わば、百貨店のメインステージで展示会を行なった時のことだった。
その場所では、これまでジュエリーの中でも訴求品と呼ばれる数万円の低単価商品を販売するイベントを行っていた。
織り込みチラシに格安のジュエリーを魅力的に掲載し集客をかける。
女性の購買欲を掻き立てるその広告は、その場所にぴったりと当てはまっているようで、お客
vol.5 〜最終章〜 思いよ届け
お客様とそんな会話を交わした直後の出来事だった。
その日来店したお客様と男性は、いつもと様子が違っている。物々しい空気を漂わせながらの登場だった。
「私がお金をおろしている間、しっかり見ててって言ったでしょう?」
お客様が叱責するように男性に言った。
男性は肩を落とし、うなだれて下を向いた。あまりの剣幕に、
「どうなさったんですか?」
私が眉毛を八の字にして尋ねると、
「ハンドバッグがな
vol.5 洞察力を磨け
お客様は、その後も変わることなく来店してくれた。
相変わらずの憎まれ口もそのままだ。
一つだけ変わったことは…
私の仕事に対する考え方だろうか。
プロフェッショナルの仕事ぶりを目の当たりにしたあの日以来、私はこれまで以上に来店客を観察し、自分の動き方を推し量るようになった。
あの事件は私に、
〝商売とは、人間そのものを知ることなんだよ〟
と、教えてくれたような気がしたからだ。
一方、お客様はと言
vol.5 仕事の流儀
お客様は、脚長不等と言う両足の長さが違う障害を抱えておられ、シルバーカーなしでは歩けないようだった。
座る時はそこまでないようだったが、立つ時がとても大変そうに見えた。
ある時、丸テーブルから立ち上がろうと平らな部分に両手をついたお客様。
〝ガタンッ〟
その時、簡易的な丸テーブルが載った重量に耐え切れなかったのか、お客様の方へと傾いた。
放たれた重力と共によろめきそうになったお客様。私は慌ててそ
vol.5 名前を呼ばない
次の展示会でのこと
その展示会では、私達はエレベーターから真っ直ぐ道なりの、所謂、客主導線に沿って宝飾ケースを構えていた。
ふと、エレベーターの脇の方から視線を感じ、私はそちらに目を向けた。
あっ…
そこには先日のお客様が立っていた。
お客様はシルバーカーに覆い被さるように両肘をつき、大きな瞳でこちらを見ている。エレベーター前まではこちらから30メートルほど距離がある為、正確に言うと目元は見