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みやまる・スポーツブックス・レビュー

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#野球

砂埃の向こうにある、野球をする幸せ:加藤弘士『砂まみれの名将 野村克也の1140日』

砂埃の向こうにある、野球をする幸せ:加藤弘士『砂まみれの名将 野村克也の1140日』

ノムラの空白期間

 この箇所を読んだ際、少しドキリとした。高校時代に『野村ノート』を読んで以来、”ノムラ本”を結構な冊数読んでいたが、たしかにシダックス時代については知らない部分が多い。そして結論から話すと、読了後「なんでこんなに面白いテーマの本が、いままでなかったんだろう」という感想を持った。名将の社会人野球での知られざる日々を、緻密に書き表していた一冊になっている。

 野村のシダックス監督

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相撲と野球のがっぷり四つ:赤瀬川隼『さすらいのビヤ樽球団』

相撲と野球のがっぷり四つ:赤瀬川隼『さすらいのビヤ樽球団』

「ビヤ樽体型」の選手たち

 フィリップ・ロスは『素晴らしいアメリカ野球』で、国技である野球の、架空のリーグの歴史を語ることで、アメリカという国が持つ精神性を小説に描いた。
 日本でも高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』や小林信彦『素晴らしい日本野球』、赤瀬川隼『球は転々宇宙間』などのフォロワー作品が生まれ、国技ではないものの、国技のように日本国民に愛されるスポーツ、野球を通じて、日本の精神性を表

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「カツカレー」のような、しあわせな組み合わせの一冊:塙宣之『極私的プロ野球偏愛論 野球と漫才のしあわせな関係』(聞き手:長谷川晶一)

「カツカレー」のような、しあわせな組み合わせの一冊:塙宣之『極私的プロ野球偏愛論 野球と漫才のしあわせな関係』(聞き手:長谷川晶一)

 この本が発売されるのを知った際、「こんな、俺が好きな要素だけで出来た本出るの!?」と思った。

 野球もお笑いも大好きな自分だし、著者も漫才の名手、ナイツ塙宣之と、野球ライターの大家、長谷川晶一である。好きなもの+好きなものという、言ってみれば「カツカレー」のような状態である。そして「カツカレー」と書いて、「千葉茂」を連想する(千葉が考案したという説があるのだ)野球好きにはぜひオススメしたい一冊

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孤独な野球人が語らなかった8年間の物語:鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたか』

孤独な野球人が語らなかった8年間の物語:鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたか』

 作中にも少し触れているくだりがあるが、中日新聞には創業家が二つ存在する。「新愛知」と「名古屋新聞」という二つの新聞社が1942年に統合されて誕生したため、新愛知の大島家、名古屋新聞の小山家がそれぞれ創業家となっているのである。
 新愛知は名古屋軍と大東京軍、名古屋新聞は名古屋金鯱軍と、かつてはそれぞれが球団を保持していた。

 この「ツーインワン」の構造はそのまま派閥争いとして残り、<歴代監督人

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「奇妙」で「精神的」な野球小説:G.プリンプトン『遠くから来た大リーガー シド・フィンチの奇妙な事件』

「奇妙」で「精神的」な野球小説:G.プリンプトン『遠くから来た大リーガー シド・フィンチの奇妙な事件』

 2021年シーズンの大谷翔平はまさに「未知」の選手だった。投手として9勝、打者として138安打・46本塁打という投打双方で「ごく一握りの選手にしかできない成績」をマークしてしまった。これだけ複雑に進化した現代野球に於いて、ベーブ・ルースのような二刀流の選手が姿を見せることを誰が予想できただろうか。
 20年前に筋骨隆々のマッチョマンたちを細身のイチローがしなやかに勝負したのを見て「最先端」と感じ

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ありそうでなかった野球と鉄道の関係性を紐解く一冊:田中正恭『プロ野球と鉄道 新幹線開業で大きく変わったプロ野球』

ありそうでなかった野球と鉄道の関係性を紐解く一冊:田中正恭『プロ野球と鉄道 新幹線開業で大きく変わったプロ野球』

 3番“でひす”(リチャード・デービス)、4番“ぶうま”(ブーマー・ウェルズ)、5番“みのだ”(簑田浩二)。86年末に発売されたファミコンの野球ゲーム『ファミリースタジアム』(いわゆる初代『ファミスタ』)には、阪急、近鉄、南海の近畿圏の鉄道会社の球団の連合チーム、レイルウェイズが収録されていた。西武が隆盛を極めていたころだが、上記のクリンナップトリオに加え、ここに“まつなか”(松永浩美)や“やまだ

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「コンプレックス」の国のスーパースターがもしも:ピーター・レフコート『二遊間の恋ーー大リーグ・ドレフュス事件』

「コンプレックス」の国のスーパースターがもしも:ピーター・レフコート『二遊間の恋ーー大リーグ・ドレフュス事件』

 アメリカ合衆国は「complex」の国と聞いた事がある。人種、宗教、思想などが複雑に「複合」している国であり、一方で、そうしたあらゆるものが大陸からの“借り物”であり、そこに「劣等感」を抱いている国という意味だという。だからこそ、合衆国の国技たるアメフトや野球といったスポーツに熱中し、その頂点に立つものはアメリカンドリームを得た者として賞賛を浴びる。
 『素晴らしいアメリカ野球』、『ユニバーサ

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黄金期を作った“寝業師”の面倒見の良さとは:髙橋安幸『根本陸夫伝 プロ野球のすべてを知っていた男』

黄金期を作った“寝業師”の面倒見の良さとは:髙橋安幸『根本陸夫伝 プロ野球のすべてを知っていた男』

 所沢の僕の実家の近くに根本陸夫邸があった。根本は99年に亡くなっているし、他の家族が住んでいる気配も無かったので大した接点とは言えないが、それでもずっと掛かっていた「根本陸夫」の表札を見ると背筋がシャンとした。西武ファンとして、野球ファンとしては、名前を見るだけで凄みが伝わる人物であった。

 本著は旧制中学から近鉄まで長らくバッテリーを組んだ関根潤三はもちろんのこと、工藤公康、大久保博元、

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最新の「人材論」をわかりやすく:お股ニキ『なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか』

最新の「人材論」をわかりやすく:お股ニキ『なぜ日本人メジャーリーガーにはパ出身者が多いのか』

 タイトルを見て「確かにその通りだけど、そういやどうしてだ?」と思った。このタイトルには昨今の「パ高セ低」の謎を探る、といった意味合いも込められているように感じ、手に取った。西武ファンかつパリーグ贔屓の自分が、ちょっと自慢に思ってるこの現状の、根拠を確認できる良い本だろうと思った。
 お股ニキの本を読むのは初めてではない。千賀滉大を始めとする球団関係者をも唸らせた『セイバーメトリクスの落とし穴』(

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横浜ファンのみならず、野球ファンの胸を掴む男たちの長いドラマ:村瀬秀信『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』

横浜ファンのみならず、野球ファンの胸を掴む男たちの長いドラマ:村瀬秀信『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』

 年間143試合もやっていると、連敗やイージーミスなどを見て「俺は何でこんなチームを贔屓にしてるんだろう」なんてことを思う試合がある。そしてNPB12球団の中でそんな「煮え湯」を飲まされているのが、大洋・横浜・DeNAファンだろう。今でこそCSや日本シリーズに駒を進めるようになってきてはいるが、長らくAクラスはおろか、5位すら遠い暗黒が球団を包んでいた。

 文庫にして431ページと、重厚な球団史

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知られざる「ミケランジェロ」の真実:団野村『伊良部秀輝』

知られざる「ミケランジェロ」の真実:団野村『伊良部秀輝』

(初出:旧ブログ2019/8/19)

伊良部秀輝はどうしても野茂英雄と比べられ、野茂が「陽」だったのに対し、伊良部は「陰」というか「ヒール」役だった。ヤンキース移籍時のゴタゴタやツバ吐きなどのイメージが強く、「イラブよりノモ」という世間の流れは幼稚園児だった自分でもなんとなく覚えている。

帰国後も飲食店でのトラブルもあり(実際は伊良部は不起訴かつ被害者なのだが)、2011年の夏に自殺した際

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熱く、真っ直ぐな野球賛歌/平野陽明「ライオンズ、1958。」

熱く、真っ直ぐな野球賛歌/平野陽明「ライオンズ、1958。」



(初出:旧ブログ2019/01/17)

 我々埼玉西武ファンは福岡ライオンズに対して複雑な感情を持っている。近年まで野武士軍団の栄光も、黒い霧の暗部も全てひっくるめて蓋をしてきたことに対する引っかかっりと、福岡から埼玉に居を移してくれたからこそ、我々の元に若獅子たちがやってきてくれたという、「仇花」的な思いを感じている。特にここ最近ソフトバンクが埼玉西武をボコボコにしているのを見ると、「ご先

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ファームチーム、かく戦えり。/田口壮『プロ野球・二軍の謎』

ファームチーム、かく戦えり。/田口壮『プロ野球・二軍の謎』



(初出:旧ブログ2018/10/11)

 タイトルを読んで、「あ、これ面白そう」と思って買った本。著者はイチローと名コンビを組んだあの田口。章立てはこんな感じ。

はじめに
第一章:プロ野球の二軍はなにをしているのか
→リーグ構成、支配下枠などの基本データの紹介
第二章:日本の二軍とアメリカのマイナー
→日米でどこが違うかを野球文化含めた様々な視点で比較
第三章:二軍の試合が100倍楽しくな

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プロ野球大事典

プロ野球大事典



(初出:旧ブログ2016/11/15)

 10年近く前に読んだ本を再読。 591ページあるので読むのは楽じゃないけど、人に話したくなる小ネタがいっぱい。正確なルールやプロ野球史を紹介する真面目な辞書ではく、球界の名言・珍言・伝説・逸話・噂話・都市伝説を「あ」から辞書形式で紹介している一冊。なかには「ホンマでっか?」というような話も少なくないし、ちょっと著者の好み(長嶋茂雄を褒めすぎ?)や思想

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