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連続小説「東京恋物語」

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青年タクシードライバーが出会った女性は、なんと超有名な女優だった。偶然の出逢いが巻き起こす恋の行方は・・・。恋は心のオアシス。そして無敵!
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東京恋物語(あらすじ)

多くの人が夢と希望を抱いて集まる街・・・東京。ここでは、こんなドラマも展開されているのかもしれません。これから、連続ドラマとして「東京恋物語」をアップしたします。もちろん、ミヤウチヤスシのオリジナル小説です。まずは、以下のあらすじから・・・。 東京恋物語(あらすじ)三年前、都内の有名私立大学を卒業した小嶋祐太郎は、父親である正一郎が経営するメトロキャブに入社し、都内でタクシードライバーをしている。それは、会社の相談役である長谷川五郎が、祐太郎を次期社長にするために考えたキャ

東京恋物語 ①意外な乗客

「あの・・・、千鳥ヶ淵の桜を見に行きたいのですが」 東京駅八重洲口近くの路上で手を上げて、タクシーに乗り込んできた女性客は、マスク越しにそう言った。 ベージュのスプリングコートをスマートに着こなす清楚な若奥様・・・といったところか。はっきりと行き先を言わない怪しさはあったものの、妙なクレームを言い出す乗客には見えない。 「いいですよ、了解です。じゃ、ドアを閉めますがいいですか?」 タクシードライバーの小嶋祐太郎は、すでに小一時間ほどを空車で走行していたせいか、近場の目的地を告

東京恋物語 ②都心のカーチェイス

「お願い、あの白いベンツ・・・、振り切ってくれる?」 「ん~、なんだか分かりませんが、しっかり手すりにつかまって下さいよ」 奈々子からの依頼に祐太郎はそう言うと、助手席に置いていたドライビンググローブを、急いで両手に装着した。そして、ルームミラーで後続車がいないことを確かめると、急ブレーキを踏み、青山一丁目の交差点手前を左折レーンに入った。その後、交差点で信号のタイミンを見ながら、左折をすることで相手を振り切ろうとしたものの、白いベンツも同様に進路を変えて、後ろにピタッと張り

東京恋物語 ③突然のキス

爽やかな風とともに、桜の花びらが路面に舞う午後の青山通り。 赤坂郵便局を右折し、六本木交差点へ向かう白いベンツは、ゆっくりとスピードを落とし、左に見えるオフィスビルの玄関口で停まった。そこには、宮野浩介が経営するIT会社、エムケーフォースが入居している。 専属運転手の坂本憲次は、車を降りると手なれた動きで、後部座席のドアを開けた。そして間もなく、待っていたかのように、白いピンストライプが印象的な濃紺のスーツを着こなした細身の男性が、携帯電話を耳にあてながら現れた。宮野である。

東京恋物語 ④そして、迷宮の中へ

「え~、えっへん」 しばらくして、運転席に座る江籐の咳払いが聞こえた。 「あの~、お取り込み中すみませ~ん」 ようやく江籐の声が届いたのか、ふたりは、いまこの時間を名残惜しむように、唇を引き離し、お互いを見つめ合った。 「え~、それでは・・・、いざ出陣っと」 江籐はそう言うと、車をゆっくり始動させ、二番町へとハンドルを切った。 奈々子が入居するマンションは、麹町の日テレ通りから、一方通行を入った比較的細い通り沿いにある。とはいえ、高級マンションだけあって、玄関までの車寄せのア

東京恋物語 ⑤謎多き恋のゆくえ

都心から西へ、世田谷通りを川崎方面に進むと、閑静な住宅街の広がる中に狛江市役所がある。その入口にある門をくぐった先には、早朝にもかかわらず、すでに多くの機材や衣装、小道具を積んだトラック、そしてマイクロバスが、数台停車していた。 ロケ用に貸し切っている市役所の二階では、オフィスとしての撮影にむけて多くのスタッフが、慣れた手つきでデスク周りやロッカーなどを、持参した書類や小物、ポスターなどを使って、リアルな現場へと作り上げている。 「おはようございます」 奈々子が、撮影カメラを

東京恋物語 ⑥策士の作法

「奈々子はいったい、何を企んでいるんだ?」 二子玉川の自宅マンションから、国道二四六号線を渋谷に向かって走る白いベンツ。その後部座席には、ひとりつぶやく宮野の姿があった。 日曜日の早朝五時、あたりはまだ暗い。この先、三軒茶屋から首都高速に乗り、三郷ジャンクションから常磐道に入った後は、谷和原インターへと、車はスピードを上げて疾走していた。 宮野は最近になって、自分が主催する接待ゴルフについては、茨城県常総市にある名門ゴルフ場をよく使用している。というのも、このゴルフ場創設者は

東京恋物語 ⑦導かれし恋と試練

六本木ヒルズにあるFMラジオ局。夕方の番組にゲストで生出演していた奈々子は、その仕事を終えると、一階のエントランス前に待機していた事務所のワゴン車に乗って、二番町の自宅へと向かっていた。 そして、奈々子を乗せたワゴン車は、六本木通りを溜池へと走っている。 「ごめんなさい、ちょっと行き先を虎ノ門に変更して下さい」 腕時計の時間が午後六時半を示しているのを確かめると、奈々子は運転手にそう告げた。一か月ほど前から、奈々子は週に一、二度のペースで、虎ノ門にある総合病院を訪問するように

東京恋物語 ⑧ふたりの船出

東京の街を彩っていた桜は、すでに葉桜へと変わり、季節は四月も半ばを過ぎようとしていた。 あの夜以降、なぜか奈々子からの連絡はなかった。もう一度会いたいという気持ちは強かったが、あくまでも祐太郎としては、忙しい奈々子にペースを合わせながら付き合ってゆくべきだと、何度も自分に言い聞かせていた。 そして今も相変わらず、タクシードライバーという仕事を、ただ淡々とこなしてゆく日々が続いている。 平日の深夜、午前一時過ぎの新宿歌舞伎町。そのメインストリートである区役所通りには、多くの若い

東京恋物語 ⑨ふたりの計画

四月の中旬に奈々子と会い、これからのミッションともいえる行動計画を練った、甘美でもあり男としての覚悟を決めた日から、すでに二週間ほどが過ぎていた。そんな四月も末にさしかかった平日の午後、いつも通りの日常を過ごしていた祐太郎は、自分の乗務する車を回送表示にして、西早稲田にある本社パーキングビルの六階に停めた。そして、遅い昼食をとるために、休憩室へと入って行った。 休憩室の奥にあるテレビには、午後一時からはじまる番組を前に、お決まりのように多くのCMが流れている。 「すみません、

東京恋物語 ⑩動き出す運命の歯車

祐太郎と奈々子が、尾行していた緑色のタクシーを首都高の入口で見事にフェイントをかけて見送った頃、時を同じくして宮野を乗せた白いベンツが、赤坂から青山一丁目を右折し、外苑東通りを新宿へ向かっていた。 「そうですか・・・、見失いましたか」 後部座席に座る宮野が、携帯電話の相手に向けて残念そうな口調で言った。 「まあ、仕方ないですね。ご連絡ありがとうございました」 宮野は、そう言うと電話を切った。 「週刊誌の記者からですか?」 運転席から、坂本が宮野にたずねた。 「ええ、以前に坂本

東京恋物語 ⑪ささやかな生活

昨日、白いベンツの追跡をバスタ新宿で振り切り、その後、奈々子を自分のワンルームマンションに送り届けた祐太郎は、そのままタクシードライバーとして最後となる業務を続け、午前四時半に終了した。これからは、半年間の休職に入り、学生時代から住む大久保の小さな部屋で、短い間だが奈々子と暮らすことになる。 祐太郎は、午前六時に最後の営業精算報告を終えた後、その三十分後には自宅ワンルームマンションの部屋の前に立っていた。そして、入口ドアにある呼鈴ボタンを押そうとしたが、すぐにその手を止めて、

東京恋物語 ⑫いざ!ホストへの道

大久保の小さなワンルームマンションで奈々子と過ごし始めた数日後、祐太郎は、宮野が展開する裏ビジネスのヒントを得るため、事前に奈々子から聞いていたホストクラブへと向かって、歌舞伎町の中を歩いていた。 この数日間、祐太郎はインターネットでホストクラブの情報記事や動画を見ながら、その実態を頭に叩き込んでいた。特に、シャンパンコールの様子は、ホストクラブならではの盛り上がりを感じる。しかし、どうして女性はホストにハマるのか・・・、それが一番の謎として残っていた。 「確か、このビルの三

東京恋物語 ⑬ホストの流儀

午後六時半。 祐太郎は、ホストクラブ・ゼウスのカウンターにある機械にタイムカード差し込むと、内勤のトシヤから、今日もトイレ掃除から仕事を始めるように指示された。 「ユウ、昨日と全然イメージ変わったじゃん。それじゃあ、初回の女の子が来たら、ユウには多めに接客のチャンスあげるから、飲み見直しで指名入るように頑張れよ」 内勤といっても、つけ回し担当であるトシヤは、そう言うと、祐太郎の背中を軽く叩いた。その言葉に軽く会釈をして、はにかんだ表情をした祐太郎は、店のカウンター内にある、総