杜江 馬龍

エッセイ・短編小説などを書いています 「もりえ ばりゅう」と読みます 北海道襟裳出…

杜江 馬龍

エッセイ・短編小説などを書いています 「もりえ ばりゅう」と読みます 北海道襟裳出身、東京都在住 2023年9月頃からnoteに投稿しています 1951年生まれ

マガジン

  • 連載小説 私たちは敵ではない(1話~16話)

    人間と動物(狸)の関わりを通じて、希薄になった現在の人間関係に警告を鳴らす物語です。

  • 連載小説 負けない(1話~9話)

    兄の説得で結婚した女性の内面を抉り出した作品です。

  • 連載小説 リセット(1話~12話)

    結婚生活に失敗した一人の男を中心に、失意から立ちあがる模様を描きました。

  • 連載小説 還らざるOB(1話~11話)

    ある会社の同じ部署の仲間が「仲間会」を結成し、唯我独尊の連中が、飲み会と旅行を通じて人生の深さを感じ合う連載です。

  • 連載短編小説 大衆酒場(1話~3話)

    東京都内のガード下の大衆酒場(めしや)を舞台に、昭和の時代の人間模様を描きました。

記事一覧

【連載】私たちは敵ではない(16完)

 あくる年の秋も深まった時季、お袋は、体調を崩した。  裏庭の狸の夫婦は、心配と見えて、毎日夕方、実家に訪れて来た。  私の仕事も、会社の需要が増えて忙しくなり…

杜江 馬龍
27分前
5

【連載】私たちは敵ではない(15)

 その別れは突然やってきた。  我が家の裏庭の狸の家では、雌の子狸がそろそろ独立する時期になっていた。親元から旅立ち、自分で餌を探し、生きていくのだ。  その年…

杜江 馬龍
1日前
18

【連載】私たちは敵ではない(14)

 お袋は朝が早いので、夜は早めに床に付く。  両瞼が閉じだしたら既にスリープモードである。  裏庭の狸御殿から狸一家が遊びに来る時刻には、すでにお袋は寝ていること…

杜江 馬龍
2日前
25

【連載】私たちは敵ではない(13)

 犬を飼っているお宅のご主人は、最近、会社を定年で辞めて毎日犬を連れて散歩していた。  それも多いときで一日六回も散歩するのだ。いい加減飽きがこないものか。  昔…

杜江 馬龍
2日前
23

【連載】私たちは敵ではない(12)

 台風が去ったある日、今度の土曜日に妹家族が一泊で家族で遊びに来ると、電話があった。  妹家族三人が泊まるスペースはない。  また皆で話し合った。  狸一家は家の…

杜江 馬龍
3日前
20

【連載】私たちは敵ではない(11)

 その年の秋、大型台風によって、私の住んでいる一帯は、甚大な被害を受けてしまった。  風雨が窓を打ち付ける音に混じって、玄関のドアをドンドン叩く音がした。電灯を…

杜江 馬龍
5日前
22

【連載】私たちは敵ではない(10)

 お袋の言うことには、近所に犬を数頭飼っているお宅があり、最近会社を定年で退職した主人が犬を連れて、一日に六回も散歩に出ているとのこと。  狸と犬はいわば天敵の…

杜江 馬龍
6日前
28

【連載】私たちは敵ではない(9)

 面接から二日後、私に連絡が入った。  面接に行った会社からだった。  来週から来てほしいとの内容だった。私は、すぐ承諾した。  勤務時間は朝の九時から夕方の五時…

杜江 馬龍
7日前
31

【連載】私たちは敵ではない(8)

 年が明け、春風が吹く季節になったある日、  妹から連絡があった。 「兄貴にいい仕事があるらしいんだけど、どうする?」 「どういう仕事だい」 「なんでも、事務の仕…

杜江 馬龍
8日前
24

【連載】私たちは敵ではない(7)

 年が明けて、私は会社の上司に郷里に帰ることを相談した。  一旦は留保してくれたが私の意思が固いことに反論は難しいと判断し、退職願いを受理してくれた。  住んで…

杜江 馬龍
8日前
23

【連載】私たちは敵ではない(6)

 その夜、妹から私に連絡があった。  実家での出来事を事細かに、電話で話してくれた。  私はショックを受けた。  お袋のことを、何も解っていなかった。  深い反省…

杜江 馬龍
11日前
19

1972年の札幌冬季五輪スキー・ジャンプ70メートル級で、日本人初の金メダリストとなった笠谷幸生さんが23日、虚血性心疾患のため死去した 80歳
—産経電子版から―
ノーマルヒルのフロストレール工事に携わった者として、大変お世話になりました 謹んでお悔やみ申し上げます(合掌)

杜江 馬龍
12日前
25

【連載】私たちは敵ではない(5)

・・・・朝が来た。  妹は、階下の物音で目が覚めた。横で息子はまだぐっすり寝ている。  着替えてから階下に下りた。すると、お袋が前掛けをして、朝ご飯の仕込をしてい…

杜江 馬龍
13日前
19

【連載】私たちは敵ではない(4)

 妹と息子はありあわせの食材を冷蔵庫から見つけ、ご飯を炊いて食べた。  妹は旦那に今日は実家に泊まる旨連絡を入れた。旦那は明日お袋を連れて病院に行ったらどうかと…

杜江 馬龍
2週間前
20

【連載】私たちは敵ではない(3)

 ある金曜日の午後、携帯電話が鳴った。思いがけずお袋からだった。  お袋は田舎で独り住いだ。親父はすでに他界している。暫く忙しさにかこつけて連絡もしていなかった…

杜江 馬龍
2週間前
29

【連載】私たちは敵ではない(2)

 次の日から仕事で汗を流した。会社の総務に席を置く私は、朝からバタバタと走り回った。  朝礼の準備やら蛍光管の球切れ対応やらと、小さい会社なので庶務的な仕事のほ…

杜江 馬龍
2週間前
29
【連載】私たちは敵ではない(16完)

【連載】私たちは敵ではない(16完)

 あくる年の秋も深まった時季、お袋は、体調を崩した。

 裏庭の狸の夫婦は、心配と見えて、毎日夕方、実家に訪れて来た。
 私の仕事も、会社の需要が増えて忙しくなり、帰りが遅くなることが多くなったので、狸夫婦がお袋の面倒を看てくれて大いに助かった。
 狸夫婦はお袋に、早く良くなって欲しいと念じた。
 また、もうすぐ冬がやってくるので、冬ごもりの準備に入らなければならなかった。
 そういうことは、お袋

もっとみる
【連載】私たちは敵ではない(15)

【連載】私たちは敵ではない(15)

 その別れは突然やってきた。

 我が家の裏庭の狸の家では、雌の子狸がそろそろ独立する時期になっていた。親元から旅立ち、自分で餌を探し、生きていくのだ。

 その年の晩秋、子狸が出立の朝が来た。
 夕べは皆で送別会を盛大に催した。お袋は別れたくないと駄々を捏ねた。

 子狸はお袋に「おばあさん、立派な家族を引き連れて遊びに来るからね」といって、お袋に抱きつき、肩を震わせていた。
 お母さん狸は「

もっとみる
【連載】私たちは敵ではない(14)

【連載】私たちは敵ではない(14)

 お袋は朝が早いので、夜は早めに床に付く。
 両瞼が閉じだしたら既にスリープモードである。
 裏庭の狸御殿から狸一家が遊びに来る時刻には、すでにお袋は寝ていることが多いのだ。もっぱら狸の話し相手は私に相場が決まっている。狸と様々なことを話し合う。

 例えば、生物はどうして、人間や狸や馬や牛や他の動物、また小さな虫などに差別化されてこの世に生まれてくるのかとか、同じ人間に生まれてきても裕福な家庭に

もっとみる
【連載】私たちは敵ではない(13)

【連載】私たちは敵ではない(13)

 犬を飼っているお宅のご主人は、最近、会社を定年で辞めて毎日犬を連れて散歩していた。
 それも多いときで一日六回も散歩するのだ。いい加減飽きがこないものか。
 昔から知っているご主人であったので、道端で会うときは、挨拶するのだが、捕まったら長い。
 三十分でも一時間でも話すので、適当な区切りを見つけて切り上げないと、そのあとの私の予定が狂ってしまうのだ。

 柴犬二匹と秋田犬二匹それに土佐犬二匹飼

もっとみる
【連載】私たちは敵ではない(12)

【連載】私たちは敵ではない(12)

 台風が去ったある日、今度の土曜日に妹家族が一泊で家族で遊びに来ると、電話があった。
 妹家族三人が泊まるスペースはない。
 また皆で話し合った。
 狸一家は家の裏庭に円形古墳のような住居を建て、そこで暮すことを希望した。私もお袋もその提案に同意した。

 早速、準備に取り掛かった。土曜日までにはまだ三日ある。大急ぎで資材の調達やら工具の買い付けやら、裏庭の整備に一日中費やした。なぜか狸一家は大工

もっとみる
【連載】私たちは敵ではない(11)

【連載】私たちは敵ではない(11)

 その年の秋、大型台風によって、私の住んでいる一帯は、甚大な被害を受けてしまった。
 風雨が窓を打ち付ける音に混じって、玄関のドアをドンドン叩く音がした。電灯を付けようとしたら停電で付かない。懐中電灯を探し時計を見ると午前三時を過ぎていた。

 急ぎ玄関の扉を開けるとそこには狸一家が雨にぬれ寒そうに立っていた。いつもは三匹であるが、二匹しかいない。
 とりあえず家の中に入れ、ストーブのそばで冷えた

もっとみる
【連載】私たちは敵ではない(10)

【連載】私たちは敵ではない(10)

 お袋の言うことには、近所に犬を数頭飼っているお宅があり、最近会社を定年で退職した主人が犬を連れて、一日に六回も散歩に出ているとのこと。
 狸と犬はいわば天敵の間柄。
 狸一家が夜、家に遊びに来るときに限って、犬と出くわし、狸一家は犬達に追い掛け回されるらしい。そこで、そのうるさい犬どもを何とか狸一家に悪さしないようにするためにはどうしたらいいか、今夜、家で相談するからお前も同席して欲しいとのこと

もっとみる
【連載】私たちは敵ではない(9)

【連載】私たちは敵ではない(9)

 面接から二日後、私に連絡が入った。
 面接に行った会社からだった。
 来週から来てほしいとの内容だった。私は、すぐ承諾した。
 勤務時間は朝の九時から夕方の五時まで、土曜と日曜と祝祭日は休みである。

 次週の月曜日に自家用車で初出勤した。就業開始時間の三十分前にその会社に着いた。
 営業所長と総務部長、営業部長、製造部長と部長と名のつく方々は既に出社して机に向かっていた。
 私は、早速挨拶廻り

もっとみる
【連載】私たちは敵ではない(8)

【連載】私たちは敵ではない(8)

 年が明け、春風が吹く季節になったある日、
 妹から連絡があった。
「兄貴にいい仕事があるらしいんだけど、どうする?」
「どういう仕事だい」
「なんでも、事務の仕事らしいよ」
「通勤時間は車で三十分足らずの所だとか」
「三十分なら丁度いいかもな」
「いいでしょう、兄貴」
「誰の紹介なの?」
「旦那が知り合いから、誰かいないかと、聞かれたらしいよ」
「う―ん?」
「急なんだけれど、明日面接に行かな

もっとみる
【連載】私たちは敵ではない(7)

【連載】私たちは敵ではない(7)

 年が明けて、私は会社の上司に郷里に帰ることを相談した。
 一旦は留保してくれたが私の意思が固いことに反論は難しいと判断し、退職願いを受理してくれた。

 住んでいるマンションを他人に貸すため、駅前の不動産屋に行き入居募集の手続きをお願いした。
 荷物は粗方処分したので、実家に持っていくものは、身の回りのものだけにした。ただ、本など意外と重いものは残った。

 区役所で移転手続きを済ませ、羽田空港

もっとみる
【連載】私たちは敵ではない(6)

【連載】私たちは敵ではない(6)

 その夜、妹から私に連絡があった。
 実家での出来事を事細かに、電話で話してくれた。

 私はショックを受けた。
 お袋のことを、何も解っていなかった。
 深い反省とともに遣り切れなさを感じた。
 何とかしなければならない。
 私は独身である。いままで所帯を持ちたいと思うことは、無かったと言ったら嘘になる。
 それにしても、わざわざ都会にまで出て、仕事をする意味はあるのかと、ふと思った。

 昔の

もっとみる

1972年の札幌冬季五輪スキー・ジャンプ70メートル級で、日本人初の金メダリストとなった笠谷幸生さんが23日、虚血性心疾患のため死去した 80歳
—産経電子版から―
ノーマルヒルのフロストレール工事に携わった者として、大変お世話になりました 謹んでお悔やみ申し上げます(合掌)

【連載】私たちは敵ではない(5)

【連載】私たちは敵ではない(5)

・・・・朝が来た。
 妹は、階下の物音で目が覚めた。横で息子はまだぐっすり寝ている。
 着替えてから階下に下りた。すると、お袋が前掛けをして、朝ご飯の仕込をしていた。
「おはよう」と妹が朝の挨拶をお袋にした。お袋は、
「おはようございます」と、なぜかよそよそしい。
 
「お母さん、昨日兄貴から連絡を貰って、息子と二人で様子を見に来たよ。お母さん大丈夫なの」
「・・・・・・」
「あなた本当にお母さん

もっとみる
【連載】私たちは敵ではない(4)

【連載】私たちは敵ではない(4)

 妹と息子はありあわせの食材を冷蔵庫から見つけ、ご飯を炊いて食べた。
 妹は旦那に今日は実家に泊まる旨連絡を入れた。旦那は明日お袋を連れて病院に行ったらどうかと提案してくれたが、明日の状態を診てから判断することにした。

 遠く離れている兄に電話で助けを求め、帰ってくるなり布団を敷いて寝てしまったお袋の異常な行動に、妹もどうしたものかと悩むのであった。

 その夜のこと
 階下でなにやら騒がしい物

もっとみる
【連載】私たちは敵ではない(3)

【連載】私たちは敵ではない(3)

 ある金曜日の午後、携帯電話が鳴った。思いがけずお袋からだった。
 お袋は田舎で独り住いだ。親父はすでに他界している。暫く忙しさにかこつけて連絡もしていなかった。
 電話の向こうでお袋の声がする。聞き取りにくい。「・・・助けてくれ」と言っているような言葉であったが、そこで電話が切れた。以前、妹が緊急時用のため、お年寄り用の携帯電話機をお袋に持たせてくれていた。
 早速妹に電話した。
 お袋の只なら

もっとみる
【連載】私たちは敵ではない(2)

【連載】私たちは敵ではない(2)

 次の日から仕事で汗を流した。会社の総務に席を置く私は、朝からバタバタと走り回った。
 朝礼の準備やら蛍光管の球切れ対応やらと、小さい会社なので庶務的な仕事のほうが多い。休み明けの月曜日は特に何かと多忙である。

 自分の机に向かいパソコンを操作し始めた。そこに一人の営業業務の人間から、「パソコンが起動しないから見て欲しい」との依頼が舞い込んできた。
 早速エレベータで上部階へ行き、動作確認をした

もっとみる