強く握らない。引っ張らない。優しく添える。ー多動性・衝動性の強い子への伝え方ー
お久しぶりです。特別支援学級担任13年目のMr.チキンです。本当に久しぶりに執筆します。皆さんお元気でしたか?
温かくなりました。私の住んでいる地域も、ようやく雪が解け始めました。そうなると、加速度的に卒業式に近づいていきます。寂しいような、嬉しいような季節の始まりです。
さて、今日は多動性・衝動性の強い子に対しての指示の出し方についてです。マニアックな話になりますが、お付き合いいただけたらと思います。
飛び出す子の手を、ギュッと握る人たちの想い
特別支援教育に携わっていると、このような場面は珍しいものではありません。多動性・衝動性に関しては、激しい動きによって本人もしくは周囲が危険な状態になることがあります。この際の教員としては
Aさんの行為を止めなくてはいけない
Aさんに危険であることを伝えたい
といった想いがあるかもしれません。
危険性に関しては、間違いなく避けなくてはいけません。
ですから、場面によっては私も手や腕を強く握って制止することがあります。
でも、それと同時に、
ということを、教員になってからずっと考えてきました。
”手を握る”という行為のもつメッセージ
なぜ、”他の方法”を考えるか。それは”手を握る”という行為にも、教員からのメッセージがあると考えるからです。
多動性・衝動性の強い子の安全を”確実に”守るには、ずっと手を握っている必要があります。多動性・衝動性はいつ起きるか予測が難しいからです。
”握られる”ということを嫌がる子は多いです。感覚過敏を伴う子は、特に手首をつかまれることなどを嫌がります。
そして、”握られる”ことに慣れた子は、”握る人”がいなくなったときにとても困ってしまいます。”握られる”ということは常に
という支援者のメッセージを受け取るだけで、考えなくても良い行為だからです。手が離れた瞬間に、全てを自分で判断することになり、多動性・衝動性が増すということは多いです。
多動性・衝動性の強いAさんとの出会い
衝動性の強いAさんを担当したときのことです。知的な遅れもあるAさんは、なかなか指示が伝わりません。廊下に出ると必ず走って逃げていました。
どこにでも飛び出してしまうAさんへの対応に苦しんでいた私は、
この記事の先輩教員の話を思い出しました。
手を握るということは、”拒否する”という子どもの学びを阻害している。
私は試しに次の日、Aさんに手を差し出して
と聞いてみました。
Aさんはしばらく考えて、私の手を自ら取りました。
そして、走らずに廊下を歩き始めたのです。
子どもが”自分で選択する”ということの大切さを感じた瞬間でした。
口頭指示はオノマトペで。
それでもAさんは好きなものがあると走り出してしまいます。
そこで、学校行事部長(校務分掌で、運動会や卒業式などの行事を取り仕切る係)をしていたときに、校長から言われたことを思い出しました。
そこで、日常会話は行うことのできるAさんでしたが、ひょっとすると指示を出される時には私の言葉では伝わっていないのかもしれないという仮説を立てました。
上の記事でも紹介した通り、幼児期の子どもに対して、オノマトペで伝えることは有効であるということを活用することにしました。
止まって!⇒「ピタッ」
座って!⇒「ストン(腰を触って下にさすりながら)」
立つよ!⇒「スクッ」
ジャンプして!⇒「ピョンッ」
(ジャンパーの)チャック閉めて!⇒「ジーするよ」
このように、オノマトペで伝えてみると、Aさんは次第にこちらの指示を受け入れてくれるようになりました。
こうして、Aさんは少しずつ落ち着いて生活することができるようになってきました。オノマトペ指示によって、自分の生活動作を自分でこなすことができるということが自信につながったようです。
添えた手、指先で伝える
次の課題は”移動”です。廊下移動をしていると、廊下の掲示物や来客用の黒板など、いつもとは違う風景に出くわします。その都度Aさんはそちらの方へ駆け出してしまっていました。以前の私は、手を握り、引っ張ってAさんに指示を出していました。しかし、希望を受け入れてもらえなかったAさんは、膝から崩れ落ちて気持ちを切り替えることができなくなってしまうのでした。
そこで、”指で会話する”という実験をしてみました。
(手をつなぎながら立ち止まるAさん。ポスターを見ている。)
私:(Aさんの手のひらを指でツンツン)行く?
A:(手を強く握って首を振る。)イヤだ。
私:(手を二回優しく握りながら)もう少し居たいの?
A:(強く握った手を緩めながら)ウン
私:じゃぁ、ちょっとだけ待つね。
(少し待つ)
私:(Aさんの手のひらを指でツンツンする)行く?
A:ウン
この、指で会話を補助するのはとても良質なコミュニケーションでした。
移動の際に、あらかじめ私の指でAさんに曲がる方向を指示することも有効でした。私は左側に立つと決めて
指を教員側にツンツンする:左に曲がるよ
指をAさん側に寄せる:右に曲がるよ
指を二回後ろにツンツンする:止まるよ
指を二回前にツンツンする:ちょっと遅れているよ
というように早めに伝えるだけで、Aさんは見通しをもって判断することができました。
最終的にAさんは整列しながら移動をすることができるようになったのです。
卒業後のAさんと関わるのは誰だろう
今回の支援によるAさんにとっての成果はなんだろう。と考えます。
「大人の言うことを聞くようになったこと」でしょうか。
「走らないことによって危険性を回避できるようになったこと」でしょうか。
それらも一つの成長かもしれませんが、私は
Aさんが自分で選択したことを実行できた(自分から手を握ること、進む・戻るなどを教師に手を引っ張られずにできるようになったこと)
コミュニケーションの中で、行動を抑制できた
この二点だと考えます。
Aさんは、この時はまだ小学生でした。力も弱く、大人がいくらでも力で抑制できます。
でも、成長していくとどうでしょう。Aさんのお父さんは背が高く、力の強い方でした。Aさんもそうなるかもしれません。
Aさんが力強くなるのに反比例して、Aさんの父・母は老いていくでしょう。
福祉の力を借りるかもしれません。その頃に、Aさんを力で屈服させることは難しいでしょう。
卒業後のAさん。その傍に寄り添う人が、Aさんと良好な関係を築くことができれば良いなと考えながら支援を考えたことを思い出すのです。
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