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むるめ辞典–日々−

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むるめ辞典

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■白兎

[読]はくと

白い兎

[例文]
最近、転職活動をしていて、面接でうまく答えられない質問があった。

頭の中が雪の日のうさぎのように真っ白になって何も考えることが出来ない。

嫌な汗もかく。精神衛生上よくない。うまくごまかせたのかしらん。

1995年に碧いうさぎを歌っていたのは酒井法子だった。

この年は阪神淡路大震災があり、地下鉄サリン事件があった。

悲痛な時代のラジオでよくこの

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■綱引

[読]つなひき

綱を引く

[例文]

会社に求めているものと、自分に求められるものとのあいだには、かなりのズレがあるかもしれない。だから話し合いがもたれ、調整していかなければならない。

それは綱引きのように力ずくで競うものではなくて理論と気配りによってもたらされる世界である、と思っていた。

でも実際には引っ張り返さないとズルズルと体ごと持っていかれるような厳しい世界になっていてみ

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雑文を書いていたら力のある漢字の並び(熟語)を見つけました。

いろいろ書き出してみたら楽しくて、ところどころに故・和田誠さんの著書 「ことばのこばこ」を思い起こすところがあります。

面白い絵本ですから心に残るものがあったみたいです。

■風化

[読]ふうか

風と化す

[例文]

恥ずかしい思い出も風と化しました。

■光線

[読]こうせん

光の線

[例文]

敷かれたレールには乗り

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■分岐点

[読]ぶんきてん

分岐する点

[例文]
世の中にはいろんな点がありますね。

分岐点ていうのは一体どんな点でしょうか。

私は井戸の底に差し込む太陽の光みたいな点じゃないかと思います。

24時間のうちの何秒間かだけ差し込む光線みたいに、人生のうちのほんの一瞬の光の点です。

それで私は今まさに分岐点に立っているのですが、その背景は絶望と不安です。

でも勇気を持って道を選びます。

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■緑葉

[読]りょくよう

緑の葉

[例文]
雨は降っていないのに、靴の中が湿っぽい7月の梅雨の朝に、若くて力強い木が夏に手を伸ばすみたいに緑葉の枝を伸ばしている。

その勢いは公園を囲む柵を簡単に乗り越えて、近いうちに体ごと地面に投げ出してしまいそうに見える。まるで湿度の高さにもんどりうっているようにも見えて、もうちょっとの我慢だよと一人ごちる。

それにしても成長というのは、みていて本当に

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■退屈

[読]たいくつ

退く屈

[例文]
リビングの飾り棚に置くものがなくて空間が詰まらない。もっとあれこれ飾れば目も楽しいし心も躍るかなと思い立つ。

次第に賑やかな装飾で棚は埋まったけど本当に欲しいものはみつけられないでいる。

仕事の予定が詰まらなくて無理にいろいろと電話したりするけど、話すべきことを思いつけないまま受話器を握っている。

身体が硬まってくる。でも職場だと気分転換にスト

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■泥酔

[読]でいすい

泥が酔う

[例文]

いっぱい飲んで

かっぱらいにあった

酔っ払いは

カッパの群れにあった

その群れを突破すると

オカッパのおんなのこ

おっぱいのところに

すっぱいパイの描かれたTシャツ

おんなのこのお母さんがやってきて

パッパとその手を

ひっぱっていった

パパはさっぱりしていて

やっぱり

つっぱりだった

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■地獄

[読]じごく

地の獄

[例文]
やかましいほど賑やかな女性用の化粧室は薄い壁を隔てた給湯室の隣にあった。

給湯室のコーヒーメーカーは昼過ぎにはいつも空っぽで私がコーヒーを淹れている。弁当箱を洗うのに混まない時間だったし、午後のやる気スイッチをゆっくり押す時間に設定していたのだ。

コーヒーが沸くのを待っていると、いろんなひとの悪口が薄い壁の向こうから、悪魔のように単調な口調で聴こえ

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■蠱惑

[読]こわく

蠱う惑

[例文]
背の低い黒髪のショートカットの女の子と付き合うことになった。クセがついた髪の毛をいつも気にしている娘だった。

彼女はある日、鼻の脇にあるホクロが特徴的な友達をうちに連れて来た。リビングのソファに座って二人はヒソヒソと内緒話を始めた。私が何か話しかけても二人は顔を見合わせて笑うだけだった。

私は彼女たちの方に足を投げ出して椅子に座り、その様子をじっと

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■貢士

[読]こうし

貢の士

[例文]
体育会系のしきたりだとか、年功序列の政治的世界に浸った人達と一緒にいるのがいやさで入ったつもりのアパレル業界なのに、大企業で、そんな連中とそっくりなのが出世したりしている。

これまで個人で顧客を作っていく高単価のメーカーから転職してきた私にとって、驚くほど無駄にしか思えないことに、みんなが気を配っている。

とうとう年貢の納めどきがきた気がした。これ

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■別離

[読]べつり

別つ離

[例文]
気がつけば隣にいて何でも気兼ねなく話せる上に心の深いところから敬意の湧き立つような友人がいた。

磁石に引き付けられる鉄片のように引き付けられて出会い、見えない糸で繋がれたまま別れたような友人だった。

普段はできないことも、その人が近くにいれば乗り越えられる気がして実際に乗り越えた。

野をこえ山こえ海こえて見つけた1000人よりも私に力をくれた。

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■電話

[読]でんわ

携帯電話がなかったころの話

[例文]
あたりの闇にもしっとりと潤いを与える雨の夜に初めてできた恋人と電話をしていた。

付き合ったばかりの私たちには話すことがたくさんあった。何が好きなのか、誰と仲が良いか、今ほしいものは何か、目の前に何があるか、今日は何を食べたかとか。とにかく話題はなんでもよかった。私たちは毎晩のように長電話した。

彼女はサックスを欲しがっていた。

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■失敗

[読]しっぱい

失う敗

[例文]
私の受験は終わった。その夜カーテンは閉ざされて、雨夜のようにしっとりとした部屋は闇に濡れて薄暗かった。

美しいものはまるで無くなってしまい、あたりの気配は鋼鉄のように冷たくなっていた。小さな音でスピーカーから流れる父のクラシック音楽が氷のように部屋の冷たさを増していた。

これまで私が詰め込んできた知識と時間は無意味に死んでいきこの場で弔われている

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■背中

[読]せなか

背の中

[例文]
柔らかいシャーベットがスプーンにひとすくいされたように山はえぐられていて、そこから海までの間には日に焼かれたセメントと灰色のくたびれた鉄工場が横たわるように並んでいた。

広大な鉄鋼施設の中には運動広場や娯楽施設もあったが、海と陸の境目にあるすみっこの魚市場がいつも賑わいを見せていた。

潮で錆びた頼りない簡易テーブルの上に発泡スチロールを並べて、鯒や

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