アルバム往復書簡

服部のり子:音楽ライター。洋楽を中心に執筆し、FM大阪/INTER FMの番組『My …

アルバム往復書簡

服部のり子:音楽ライター。洋楽を中心に執筆し、FM大阪/INTER FMの番組『My Jam』などで構成を担当。鈴木宏和:ロックを中心にウェブや雑誌、フリーペーパーなどで執筆。JAL国際線機内オーディオ洋楽番組の企画/選曲を担当。

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往復書簡について

鈴木さんと私は、ともに音楽ライターですが、得意とするジャンルが異なっています。鈴木さんは主にロック、私はポップスやクラシカルクロスオーヴァーの記事を書いたり、イ…

#92 レイヴェイ『Bewitched:The Goddess Edition』

レイヴェイ『Bewitched:The Goddess Edition』  初めて聴いた時、1曲目『Dreamer』の冒頭のハーモニーにうっとりとなり、時間を引き戻された感覚に陥った。レイヴェイ自…

#91 ベンソン・ブーン『ファイアワークス&ローラーブレーズ』

ベンソン・ブーン『ファイアワークス&ローラーブレーズ』  モーガン・ウォーレンの「ラスト・ナイト」、ザック・ブライアン(feat. ケイシー・マスグレイヴス)の「アイ…

#90 ヘイリー・ロレン『ドリームズ・ロスト・アンド・ファウンド』

ヘイリー・ロレン『ドリームズ・ロスト・アンド・ファウンド』  何を歌うか。ヘイリー・ロレンは、その選択肢が幅広く、今回も意外性を含めて選曲がいい。1曲目は、ジャ…

#89 ヴァンパイア・ウィークエンド『オンリー・ゴッド・ワズ・アバヴ・アス』

ヴァンパイア・ウィークエンド『オンリー・ゴッド・ワズ・アバヴ・アス』  季節性の鬱というものがあるらしい。僕が実際にそうのか、単にそういう性質というか、心の傾…

#88 ダイアン・バーチ『フライング・オン・エイブラハム』

ダイアン・バーチ『Flying On Abraham』  そんな経緯もあって、ダイアン・バーチは、私の中で依怙贔屓しているアーティストのひとりだけれど、その感情を超えて、アルバ…

#87 ノア・カーン『スティック・シーズン』

ノア・カーン『スティック・シーズン』  オリジナルはもう2年前にリリースされていたのだが、当初は鳴かず飛ばず。時間をかけて火がつく過程で再発され、昨年からの大ヒ…

#86 ビヨンセ『カウボーイ・カーター』

ビヨンセ『カウボーイ・カーター』  先行シングル『Texas Hold’em』の段階で、ビヨンセとカントリーという組み合わせに賛否両論が巻き起こった。たとえば、カントリー専…

#85 ザ・フー『ライヴ・アット・シェイ・スタジアム 1982』

ザ・フー『ライヴ・アット・シェイ・スタジアム 1982』  映像作品のみで発表されていた、ザ・フーの1982年のライヴ音源が、デビュー60周年を記念して(?)オーディオ作…

#84 ジェイコブ・コリアー『ジェシーVol.4』

ジェイコブ・コリアー『ジェシーVol.4』  4部作の始まりは、偶発だった。あまりにジャンルも多岐にわたる曲がいいっぱい出来たことから、本人曰くこの「逃避行」が始まっ…

#83 リアム・ギャラガー&ジョン・スクワイア『リアム・ギャラガー&ジョン・スクワイア』

リアム・ギャラガー&ジョン・スクワイア『リアム・ギャラガー&ジョン・スクワイア』  個人的にリアム・ギャラガーとクリス・マーティン(コールドプレイ)は、タイプこ…

#82 ノラ・ジョーンズ『ヴィジョンズ』

ノラ・ジョーンズ『ヴィジョンズ』  オリジナル作品としては約4年ぶりになるが、この間ノラ・ジョーンズは、ポッドキャストでさまざまな人たちと共演し、セッションの一…

#81 テディ・スウィムズ『I've Tried Everything But Therapy (Part 1)』

テディ・スウィムズ『I've Tried Everything But Therapy (Part 1)』  っていうか、ヴィジュアルを見て退散してしまうのだけは、やめてくださいね。ちなみに、ポスト・マ…

#80 ジェイソン・デルーロ『Nu King』

ジェイソン・デルーロ『Nu King』  9年ぶりとなる新作を知るきっかけは、前述したようにマイケル・ブーブレとの『Spicy Margarita』だった。いきなりマイケルの人気楽曲…

#79 グリーン・デイ『セーヴィアーズ』

グリーン・デイ『セーヴィアーズ』  2023年にスポティファイでもっとも再生されたアルバムは、1位がバッド・バニー『ウン・ベラーノ・シン・ティ』、2位がテイラー・ス…

#78 エルミーン『Marking My Time』

エルミーン『Marking My Time』  人柄がにじみ出ているような優しい声。ベイビーフェイスを若くしたような甘さもあって、その魅力といかつく見える写真のギャップに興味…

往復書簡について

往復書簡について

鈴木さんと私は、ともに音楽ライターですが、得意とするジャンルが異なっています。鈴木さんは主にロック、私はポップスやクラシカルクロスオーヴァーの記事を書いたり、インタビューをしています。その違いを生かす企画として、この「アルバム往復書簡」を始めることにしました。私がロックの新譜を聴いてどう思うか。反対に鈴木さんがクラシカルクロスオーヴァーの新譜を聴いてどう感じるか。それがそのジャンルやそのアーティス

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#92 レイヴェイ『Bewitched:The Goddess Edition』

#92 レイヴェイ『Bewitched:The Goddess Edition』

レイヴェイ『Bewitched:The Goddess Edition』

 初めて聴いた時、1曲目『Dreamer』の冒頭のハーモニーにうっとりとなり、時間を引き戻された感覚に陥った。レイヴェイ自身の多重録音によるものだけれど、40年代に活躍したヴォーカルグループ、パイド・パイパーズの『Dream』がワッと浮かんできたからだ。
 収録曲は、ほとんどが彼女のオリジナル楽曲で、例外の2曲は、彼女が愛

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 #91 ベンソン・ブーン『ファイアワークス&ローラーブレーズ』

#91 ベンソン・ブーン『ファイアワークス&ローラーブレーズ』

ベンソン・ブーン『ファイアワークス&ローラーブレーズ』

 モーガン・ウォーレンの「ラスト・ナイト」、ザック・ブライアン(feat. ケイシー・マスグレイヴス)の「アイ・リメンバー・エヴリシング」、テディ・スウィムズ「ルーズ・コントロール」、ノア・カーン「スティック・シーズン」など新しい、そして幸福な出会いがあり、ここでも報告してきたが、このところズッパマリ状態なのが米シンガー・ソングライター、ベ

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#90 ヘイリー・ロレン『ドリームズ・ロスト・アンド・ファウンド』

#90 ヘイリー・ロレン『ドリームズ・ロスト・アンド・ファウンド』

ヘイリー・ロレン『ドリームズ・ロスト・アンド・ファウンド』

 何を歌うか。ヘイリー・ロレンは、その選択肢が幅広く、今回も意外性を含めて選曲がいい。1曲目は、ジャズの有名なスタンダードナンバー『For All We Know』だけれど、そのあとレナード・コーエンの『Dance Me To The End Of Love』やジョニ・ミッチェルの『All I Want』を歌う。しかもアレンジ、とりわけ

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#89  ヴァンパイア・ウィークエンド『オンリー・ゴッド・ワズ・アバヴ・アス』

#89 ヴァンパイア・ウィークエンド『オンリー・ゴッド・ワズ・アバヴ・アス』


ヴァンパイア・ウィークエンド『オンリー・ゴッド・ワズ・アバヴ・アス』

 季節性の鬱というものがあるらしい。僕が実際にそうのか、単にそういう性質というか、心の傾向があるということなのかは、よくわからないが、秋冬はどうも気分が沈みがちになってしまう。そして今ぐらいの季節になると、靄が晴れたかのようにスッキリしてくるのだ。
 そんな時期に必ず聴きたくなる音楽のひとつが、ヴァンパイア・ウィークエンド。

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#88  ダイアン・バーチ『フライング・オン・エイブラハム』

#88 ダイアン・バーチ『フライング・オン・エイブラハム』

ダイアン・バーチ『Flying On Abraham』

 そんな経緯もあって、ダイアン・バーチは、私の中で依怙贔屓しているアーティストのひとりだけれど、その感情を超えて、アルバム全体から醸し出される70年代シンガー・ソングライターの匂いが大好き。生楽器の演奏があって、キャロル・キングを彷彿させるアルト・ヴォイスで歌う。そこにジャズやソウル、ポップ、カントリーなどがごく自然に絡み合っている上質な音

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#87  ノア・カーン『スティック・シーズン』

#87 ノア・カーン『スティック・シーズン』

ノア・カーン『スティック・シーズン』

 オリジナルはもう2年前にリリースされていたのだが、当初は鳴かず飛ばず。時間をかけて火がつく過程で再発され、昨年からの大ヒットを受けて再々発という状況なので、新作紹介としたい。
 カントリーはちょっと苦手なはずだったのに、モーガン・ウォーレン、ザック・ブライアンときて、最近の僕はノア・カーンばかり聴いている。彼がメンタル・ヘルス的な問題を抱えているところに、

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#86 ビヨンセ『カウボーイ・カーター』

#86 ビヨンセ『カウボーイ・カーター』

ビヨンセ『カウボーイ・カーター』

 先行シングル『Texas Hold’em』の段階で、ビヨンセとカントリーという組み合わせに賛否両論が巻き起こった。たとえば、カントリー専門のラジオ局がオンエアーを拒否したり。でも、アルバムを聴くと、その論争さえも狙いだったんじゃないかと思えてくる。論争の背景にあるのは人種の分断。カントリーや讃美歌は白人系、R&Bやゴスペルは黒人系の音楽という意識がとりわけ保守

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#85 ザ・フー『ライヴ・アット・シェイ・スタジアム 1982』

#85 ザ・フー『ライヴ・アット・シェイ・スタジアム 1982』

ザ・フー『ライヴ・アット・シェイ・スタジアム 1982』

 映像作品のみで発表されていた、ザ・フーの1982年のライヴ音源が、デビュー60周年を記念して(?)オーディオ作品として初リリースされた。
 ザ・フーのライヴ・アルバムと言えば、ロック・ファンには言わずと知れた『ライヴ・アット・リーズ』という1970年の傑作があるわけで、しかもドラマーがキース・ムーンなわけで、それを聴けばいい、聴こうよ、

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#84 ジェイコブ・コリアー『ジェシーVol.4』

#84 ジェイコブ・コリアー『ジェシーVol.4』

ジェイコブ・コリアー『ジェシーVol.4』

 4部作の始まりは、偶発だった。あまりにジャンルも多岐にわたる曲がいいっぱい出来たことから、本人曰くこの「逃避行」が始まったそうだ。
 宅録で全ての楽器をひとりで弾くことがジェイコブ・コリアーの原点だ。その音楽人生は、人気と評価を得るなかで、世界へと飛び出した。そのツアーで録音を重ねた各国の観客の声、彼は、それを「オーディエンス・クワイア」と呼んでいる

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#83  リアム・ギャラガー&ジョン・スクワイア『リアム・ギャラガー&ジョン・スクワイア』

#83 リアム・ギャラガー&ジョン・スクワイア『リアム・ギャラガー&ジョン・スクワイア』

リアム・ギャラガー&ジョン・スクワイア『リアム・ギャラガー&ジョン・スクワイア』

 個人的にリアム・ギャラガーとクリス・マーティン(コールドプレイ)は、タイプこそ全然違うものの、90年代のイギリスが生んだロック史の宝のようなヴォーカリストだと思っている。だから、共演などにも自然と注目することになるのだけど、ついに来た。
 UKはマンチェスターの兄弟分とでも言うべき、ストーン・ローゼズのジョン・ス

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#82 ノラ・ジョーンズ『ヴィジョンズ』

#82 ノラ・ジョーンズ『ヴィジョンズ』

ノラ・ジョーンズ『ヴィジョンズ』

 オリジナル作品としては約4年ぶりになるが、この間ノラ・ジョーンズは、ポッドキャストでさまざまな人たちと共演し、セッションの一部を動画でも公開してきた。以前ここでも少し触れたけれど、その形式ばらず、自由に演奏を楽しみながらも音楽に対して真摯で、クリエイティヴなセッションに心惹かれた。その雰囲気をまさにまとったこの新作は、プロデューサーのリオン・マイケルズと2人だ

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#81  テディ・スウィムズ『I've Tried Everything But Therapy (Part 1)』

#81 テディ・スウィムズ『I've Tried Everything But Therapy (Part 1)』

テディ・スウィムズ『I've Tried Everything But Therapy (Part 1)』

 っていうか、ヴィジュアルを見て退散してしまうのだけは、やめてくださいね。ちなみに、ポスト・マローンの別名などではありません。
 テディ・スウィムズ。米アトランタ出身の31歳。いい歌を歌うんですよ、この遅咲きのニューカマーが。どうか先入観にとらわれず、たとえば以前ここでご紹介したアーティス

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#80 ジェイソン・デルーロ『Nu King』

#80 ジェイソン・デルーロ『Nu King』

ジェイソン・デルーロ『Nu King』

 9年ぶりとなる新作を知るきっかけは、前述したようにマイケル・ブーブレとの『Spicy Margarita』だった。いきなりマイケルの人気楽曲『Sway』から曲が始まって、ジェイソンの歌もラテン調と洒脱で、しかもタイトルが『スパイシー・マルガリータ』なんて。2人には”ポップ”という共通点はあるものの、ジャズとR&Bの融合は意外にも難しいと言い、彼らも当初は

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#79  グリーン・デイ『セーヴィアーズ』

#79 グリーン・デイ『セーヴィアーズ』

グリーン・デイ『セーヴィアーズ』

 2023年にスポティファイでもっとも再生されたアルバムは、1位がバッド・バニー『ウン・ベラーノ・シン・ティ』、2位がテイラー・スウィフト『ミッド・ナイト』、3位がシザ『SOS』。もっとも再生されたアーティストの1位がテイラー・スウィフト、2位がバッド・バニー、3位がザ・ウィークエンドだった。
 まあそうだろうなあとか、なんだかなあとか、とにかくもうロックは違う

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#78 エルミーン『Marking My Time』

#78 エルミーン『Marking My Time』

エルミーン『Marking My Time』

 人柄がにじみ出ているような優しい声。ベイビーフェイスを若くしたような甘さもあって、その魅力といかつく見える写真のギャップに興味を持ったのがエルミーンとの出会いだった。情報は少ないけれど、調べてみると、スーダン出身の両親とUKオックスフォードで育ったという。ロンドンなどの都会に比べて、アフリカ系の子供は少数派の環境のなか、おとなしい性格のエルミーンは

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