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「金鳥蚊取り線香は世界に貢献」

「僕の昭和スケッチ」イラストエッセイ199枚目/番外編 

<「蚊取り線香/上山英一郎氏」 © 2023 画/もりおゆう 水彩/ガッシュ 禁無断転載>

「日本の力になれる事をしたい」
古今東西こんな大風呂敷を広げるのは、大抵は山師か、詐欺師です。
政治家などは、その最たるものです。

しかし、上山英一郎にとってこれは真正の信念でした。

「金鳥」の創始者/上山英一郎

余り取り上げられませんが、上山氏は金鳥蚊取り線香を作った人物です。

上山は和歌山出身/1862年生まれ〜1943年没。
彼は、慶應義塾に学び、福沢諭吉の薫陶を受け、「日本の力になれる事をしたい」と言う信念のもと、世に出ます。
そして、明治23年除虫菊の成分を仏壇線香の材料に混ぜて、世界初の蚊取り線香「金鳥蚊」(棒状蚊取り線香)を開発。その僅か5年後に現在のような「うず巻き型蚊取り線香」の販売にこぎつけます。これは、伴侶の「ゆき」さんの発案で、彼女は庭でとぐろを巻いている蛇を見てうずまき型を思いついたと言います、、、

*この蛇のとぐろエピソードは本当なのかは謎です(笑)
けれど、うずまき型にした所が実はこの蚊取り線香の大きな飛躍点だったと僕は思います。当初の様な仏壇のお線香のような棒状のものでは数十分しか持たず、現実的には使えません。これをうずまき型にすることで一晩中効果の持続する実用的なものに変えたのです。この直線から曲線への発想の転換は、まさにコロンブスの卵と言うかコペルニクス的転回です。

ともあれ、この金鳥蚊取り線香には昭和に育った私達も散々お世話になりましたね。

二つで1組になっているあの線香を外す時のちょっとした緊張感! うまく外せるかどうか、と!(笑)

こうして、蚊取り線香の香りは蚊帳と並んで日本の夏の風物詩になりました。

感染症

周知の通り蚊は日本脳炎*、マラリア、デング熱など様々な感染症を媒介する害虫です。太平洋戦争で南方に行った日本軍兵士の6割が、実は銃撃戦ではなく餓死と感染症(マラリア)によるものでした。

現在、日本では電気式の蚊取りが主流ですが、熱帯/亜熱帯の国々では、今でもこのうず巻き型蚊取り線香は人々を感染症から守っています。火をつけるだけで蚊を防いでくれるのだから発展途上国では貴重なものなのです。

*ちなみに、日本脳炎は発症すると死亡率は15%と高く、特に子どもや老人では死亡の危険性が大きくなる。命を取り留めても脳に障害を残すことが多い病気として恐れられた。マラリアの恐ろしさも周知の通りです。

上山の信念

「日本の人々の力になれる仕事がしたい」
彼は、蚊取り線香の開発のみならず、害虫駆除に役立つ除虫菊の重要性を確信し、各地を単身講演して回り除虫菊栽培の普及にも努めます。これによって農家の生活を助け、除虫菊は日本の輸出産業の一つとなり、日本経済にも当時大きな貢献を果たしました。


たかだか蚊取り事業と笑うなかれ、です。

上山英一郎とゆきさんは、今時の政治家や総理大臣などより間違いなく私達の暮らしに貢献した人物なのです。


*日本脳炎を媒介する蚊=コガタアカイエカ.
*上山は明治、大正、昭和と生きた事業家なので、今日は「僕の昭和スケッチ」の番外編としてお送りしました.

<©2023もりおゆう この絵と文章は著作権によって守られています>
(©2023 Yu Morio This picture and text are protected by copyright.)

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