中井スピカ

塔短歌会所属。短歌冊子Lilyメンバー。2022年、第33回歌壇賞。 noteに掲載お…

中井スピカ

塔短歌会所属。短歌冊子Lilyメンバー。2022年、第33回歌壇賞。 noteに掲載お知らせや歌集評、旅のエッセイなどを綴っています。 2023年7月に、第一歌集『ネクタリン』を刊行しました。

マガジン

  • 歌集評・一首評・その他書評

    歌集評や同人誌などの一首評、小説の書評です。

  • Lots of other things -その他もろもろ-

    他のマガジンに分類できない「その他もろもろ」です。 ときどき出現します。

  • 作品掲載お知らせ・『ネクタリン』や短歌冊子Lilyお知らせ

    短歌、その他作品掲載のお知らせや、歌集『ネクタリン』、参加している短歌冊子「Lily」のお知らせです。

  • 旅の記憶(エッセイ)

    これまでの一人海外旅のエッセイです。実際の旅の順とは関係なく、基本的に一話読み切り。今は2005年のオーストラリア一周の旅を時系列で書いています。(古い情報も含まれますので実際に旅に出られる際は最新情報をご確認いただければ幸いです)

  • 「少年ジャンプ+」× note原作大賞応募作品(小説)

    noteで開催されていたコンテスト、「少年ジャンプ+」× note原作大賞に応募した小説です。冒頭3話とあらすじを掲載しています。

記事一覧

【書評】『自由研究には向かない殺人』『優等生は探偵に向かない』ホリー・ジャクソン(小説)

(作品の内容を含みますので、少しでもネタバレしたくない方は  ぜひ作品を読んでからお越しください) 真実を知ることは痛みを伴う。 時に大きな代償を払うことになる。…

歌集批評会を終えて

真夏のような暑さとなった4/29に、大阪にて歌集『ネクタリン』批評会を開催していただきました。 パネリストの皆さまをはじめ、各地からお越しいただいた皆さま、会をご準…

中井スピカ
10日前
6

【お知らせ】歌集『ネクタリン』が第30回日本歌人クラブ新人賞をいただきました

この度、歌集『ネクタリン』が、第30回日本歌人クラブ新人賞をいただくことになりました。 大変光栄に思っております。 選考委員の皆さま、関係者の皆さま、誠にありがとう…

中井スピカ
3週間前
8

【書評】『風を待つ日の』野田かおり歌集

肌寒き春の空気を逃しつつレターパックに課題を詰める コロナ禍の定時制高校。休校が続いている。 教員をしている主体が生徒たちの家へ課題を郵送するところだろう。 春の…

中井スピカ
4週間前
4

【書評】『初恋』染野太朗歌集

悲しみはひかりのやうに降りをれど会いたし夏を生きるあなたに この歌集を最初に読んでからしばらくが経った。 そう、しばらくが経ったのだが、この歌集に溢れる恋心と夏…

中井スピカ
1か月前
3

【お知らせ】4/28 歌集『ネクタリン』批評会まで1ヵ月となりました(終了しました)

2024年4月28日(日)に、大阪にて歌集『ネクタリン』の批評会を開催いたします。 当日まで1ヵ月となり、パネリストの皆さまがどんなディスカッションをしてくださるのか、…

中井スピカ
1か月前
3

【一首評】第35回歌壇賞受賞作・次席・候補作品より

『歌壇』(本阿弥書店)にて2024年2月号~4月号までの3ヵ月間、作品評を担当させていただきました。 最終回はちょうど歌壇賞の発表号にあたり、受賞作や次席、候補作品から…

中井スピカ
1か月前
6

【掲載のお知らせ】『歌壇』2024年4月号 作品評「戻れない世界を生きる」

『歌壇』(本阿弥書店)にて 2024年2月号~4月号までの3ヵ月間、作品評を担当しています。 3/14発売の4月号では『歌壇』2月号掲載の作品から 巻頭作品をはじめ幾つかの連作…

中井スピカ
1か月前
3

【書評】『日々に木々ときどき風が吹いてきて』川上まなみ歌集

まず街の静かなことを書いてゆく日記始めの夜やわらかく 歌集の巻頭歌。日記始めであると共に、歌集のオープニングでもある。 「夜がやわらかい」という捉え方が作者自身…

中井スピカ
2か月前
13

【旅の記憶】光り輝く3人組(Sydney 3)

私が旅の最初にお世話になったのは、シドニーの北、セントラルコーストと呼ばれるエリアにある一軒家であった。 そこに週単位でリーズナブルに宿泊できるB&Bのような場所が…

中井スピカ
2か月前

【公開記事】感熱紙だった夏(うた新聞2022年4月号)(エッセイ)

浪人時代、なのでもう二十五年以上前の夏になる。 通うと決めた予備校もドロップアウトしかかって、私は講義をさぼり小さな本屋をぶらぶらしていた。 毎日同じ白紙のページ…

中井スピカ
2か月前
3

【掲載のお知らせ】『歌壇』2024年3月号 作品評「丁寧に暮らす」

『歌壇』(本阿弥書店)にて 2024年2月号~4月号までの3ヵ月間、作品評を担当しています。 2/14発売の3月号では『歌壇』1月号掲載の作品から 巻頭作品をはじめ幾つかの連作…

中井スピカ
2か月前
1

【書評】『cineres』真中朋久歌集

来し方も行く末もあるはおそろしく泡だちて寄せる水を見てゐつ 過去も未来もあることが怖いという。 主体は何に怯えているのだろうか。 過去がたくさんあるということは、…

中井スピカ
3か月前
4

【公開記事】真剣に遊ぶ(特集「みんなで短歌かるた」)(一首評)

結社誌「塔」2022年1月号に「みんなで短歌かるた」という特集が組まれ その中に「真剣に遊ぶ」と題した文章(一首評+エッセイ)を掲載していただきました。 今回は、その…

中井スピカ
3か月前
4

【掲載のお知らせ】角川『短歌』2024年2月号「野に咲く花のやうに」3首選

角川『短歌』2024年2月号「野に咲く花のやうに」欄の 3首選を担当いたしました。 冬から初春の植物が登場する歌の中から 河野裕子さん、笠木拓さん、北山あさひさんの歌を…

中井スピカ
3か月前
3

【書評?】『街とその不確かな壁』村上春樹(小説)

(作品の内容を含みますので、少しでもネタバレしたくない方は ぜひ作品を読んでからお越しください) まず君に伝えておいた方がいいだろうと思うのは、 僕が今、村上春樹の…

中井スピカ
3か月前
4
【書評】『自由研究には向かない殺人』『優等生は探偵に向かない』ホリー・ジャクソン(小説)

【書評】『自由研究には向かない殺人』『優等生は探偵に向かない』ホリー・ジャクソン(小説)

(作品の内容を含みますので、少しでもネタバレしたくない方は
 ぜひ作品を読んでからお越しください)

真実を知ることは痛みを伴う。
時に大きな代償を払うことになる。

本書の主人公、高校生のピップ(ピッパ・フィッツ=アモービ)は、自分の住む町、
イギリスはリトル・キルトンで起きたある事件に疑いを持ち、調べ始める。
彼女は正義感が強く元気いっぱいで恐れ知らず、と言うかかなりむこうみずで
怪しいと思っ

もっとみる
歌集批評会を終えて

歌集批評会を終えて

真夏のような暑さとなった4/29に、大阪にて歌集『ネクタリン』批評会を開催していただきました。
パネリストの皆さまをはじめ、各地からお越しいただいた皆さま、会をご準備、お手伝いいただいた皆さま、本当にありがとうございました。
歌集の内容はもとより、修辞や口語文語について、連作について、歌集としてまとめることについて、など
とても多岐に渡るディスカッションをしていただきました。
会場発言も含め、今後

もっとみる
【お知らせ】歌集『ネクタリン』が第30回日本歌人クラブ新人賞をいただきました

【お知らせ】歌集『ネクタリン』が第30回日本歌人クラブ新人賞をいただきました

この度、歌集『ネクタリン』が、第30回日本歌人クラブ新人賞をいただくことになりました。
大変光栄に思っております。
選考委員の皆さま、関係者の皆さま、誠にありがとうございます。
そして、この歌集を手に取ってくださった皆さまに感謝申し上げます。

版元の本阿弥書店の皆さまをはじめ、
歌集作成にあたり、かかわってくださった多くの方々、
また、短歌を通して出会った皆さまに、御礼申し上げます。

これから

もっとみる
【書評】『風を待つ日の』野田かおり歌集

【書評】『風を待つ日の』野田かおり歌集

肌寒き春の空気を逃しつつレターパックに課題を詰める

コロナ禍の定時制高校。休校が続いている。
教員をしている主体が生徒たちの家へ課題を郵送するところだろう。
春の空気を逃す、という言い回しに、主体自身のやるせなさが滲むようだ。
この歌集は、コロナ禍の教員生活を明確に詠っている。

ほのほのと運ばれてゆく福祉科の春の準備のマネキン一体

ゆゆゆゆとひとの集まる職場ゆゑ在宅勤務選びて帰る

午後九時

もっとみる
【書評】『初恋』染野太朗歌集

【書評】『初恋』染野太朗歌集

悲しみはひかりのやうに降りをれど会いたし夏を生きるあなたに

この歌集を最初に読んでからしばらくが経った。
そう、しばらくが経ったのだが、この歌集に溢れる恋心と夏のイメージが去らない。
むしろ、光は反射し、重なり、より強くなる。
帯の表に挙げられたこの歌に、そのエッセンスは凝縮されている。
「たったひとつの(過ぎた)恋」(いや、主体の中では完全には過ぎていない)、そのワンテーマが一冊を貫く。潔い歌

もっとみる
【お知らせ】4/28 歌集『ネクタリン』批評会まで1ヵ月となりました(終了しました)

【お知らせ】4/28 歌集『ネクタリン』批評会まで1ヵ月となりました(終了しました)

2024年4月28日(日)に、大阪にて歌集『ネクタリン』の批評会を開催いたします。
当日まで1ヵ月となり、パネリストの皆さまがどんなディスカッションをしてくださるのか、私自身もとても楽しみです。
春の一日、ご都合がよろしければ、どうぞお越しくださいませ。
よろしくお願いいたします。

中井スピカ歌集『ネクタリン』批評会

◆日時:2024年4月28日(日)13:00~16:30
◆会場:大阪市中央

もっとみる
【一首評】第35回歌壇賞受賞作・次席・候補作品より

【一首評】第35回歌壇賞受賞作・次席・候補作品より

『歌壇』(本阿弥書店)にて2024年2月号~4月号までの3ヵ月間、作品評を担当させていただきました。
最終回はちょうど歌壇賞の発表号にあたり、受賞作や次席、候補作品からも何首か評を書かせていただいたのですが、
文字数の関係もあり、残念ながらすべての作品に触れることができませんでした。
そこで今回、一首ずつにはなりますが、掲載された連作すべての評を書いてみたいと思います。
(作品評で取り上げた連作に

もっとみる
【掲載のお知らせ】『歌壇』2024年4月号 作品評「戻れない世界を生きる」

【掲載のお知らせ】『歌壇』2024年4月号 作品評「戻れない世界を生きる」

『歌壇』(本阿弥書店)にて
2024年2月号~4月号までの3ヵ月間、作品評を担当しています。
3/14発売の4月号では『歌壇』2月号掲載の作品から
巻頭作品をはじめ幾つかの連作の歌評、
また他誌からは『短歌研究』2月号より
横山未来子さん、門脇篤史さんの歌評を書かせていただきました。

2月号は歌壇賞の発表号でしたので
歌壇賞の受賞作や次席、候補作品についての評を書くことができ
とても嬉しく思って

もっとみる
【書評】『日々に木々ときどき風が吹いてきて』川上まなみ歌集

【書評】『日々に木々ときどき風が吹いてきて』川上まなみ歌集

まず街の静かなことを書いてゆく日記始めの夜やわらかく

歌集の巻頭歌。日記始めであると共に、歌集のオープニングでもある。
「夜がやわらかい」という捉え方が作者自身の柔軟性をも表すようだ。
これから始まる一冊の、その全体のトーンを表現するような一首で、冒頭の歌としてとても素敵だと思う。

この歌集は、教師として働く職場詠や、恋人との関係性が表れる歌、家族の歌など、等身大の生活を静かなトーンで詠う。

もっとみる
【旅の記憶】光り輝く3人組(Sydney 3)

【旅の記憶】光り輝く3人組(Sydney 3)

私が旅の最初にお世話になったのは、シドニーの北、セントラルコーストと呼ばれるエリアにある一軒家であった。
そこに週単位でリーズナブルに宿泊できるB&Bのような場所があったのを、webで見つけて、約3週間予約してあったのだ。
(残念ながら今はもうクローズされている)

日本人の方がオーナーだったのも、ここに決めたポイントで、いきなり海外初一人旅でオーストラリア大陸を一周しようという暴挙の、
その「暴

もっとみる
【公開記事】感熱紙だった夏(うた新聞2022年4月号)(エッセイ)

【公開記事】感熱紙だった夏(うた新聞2022年4月号)(エッセイ)

浪人時代、なのでもう二十五年以上前の夏になる。
通うと決めた予備校もドロップアウトしかかって、私は講義をさぼり小さな本屋をぶらぶらしていた。
毎日同じ白紙のページを繰り返しているようで、できることもやりたいこともどんどん減っていた時期である。
いつもの長野まゆみや鷺沢萠の小説ではなく、その日ふと手に取ったのは、すでに文庫になっていた『サラダ記念日』だった。
立ち読みしているうち、私の中にもリズムを

もっとみる
【掲載のお知らせ】『歌壇』2024年3月号 作品評「丁寧に暮らす」

【掲載のお知らせ】『歌壇』2024年3月号 作品評「丁寧に暮らす」

『歌壇』(本阿弥書店)にて
2024年2月号~4月号までの3ヵ月間、作品評を担当しています。
2/14発売の3月号では『歌壇』1月号掲載の作品から
巻頭作品をはじめ幾つかの連作の歌評、
また他誌からは『短歌往来』1月号の特集より
米川千嘉子さん、藤島秀憲さんの歌評を書かせていただきました。

また、同号の特集「わが心の駅」、駅の歌百首選にて真中朋久さんに、
連載「画架に短筒」51回にて塚本靑史さん

もっとみる
【書評】『cineres』真中朋久歌集

【書評】『cineres』真中朋久歌集

来し方も行く末もあるはおそろしく泡だちて寄せる水を見てゐつ

過去も未来もあることが怖いという。
主体は何に怯えているのだろうか。
過去がたくさんあるということは、歳を重ねて責任など重いものを
抱えて生きていくということにもなるだろう。
未来はどうか。行く末があることは明るいことのように思える。
でも、この先どうなるかなどわからない。
わからないのが恐ろしいのかもしれない。
泡立って寄せる水は、海

もっとみる
【公開記事】真剣に遊ぶ(特集「みんなで短歌かるた」)(一首評)

【公開記事】真剣に遊ぶ(特集「みんなで短歌かるた」)(一首評)

結社誌「塔」2022年1月号に「みんなで短歌かるた」という特集が組まれ
その中に「真剣に遊ぶ」と題した文章(一首評+エッセイ)を掲載していただきました。
今回は、その記事を以下に公開します。
(文章の終わりに、追記があります)

【な】
殴ることができずにおれは手の甲にただ山脈を作りつづける
(虫武一俊『羽虫群』 p.11)

【に】
人間の七割は水 小さめのコップ、静かにあなたに渡す
(𠮷田恭

もっとみる
【掲載のお知らせ】角川『短歌』2024年2月号「野に咲く花のやうに」3首選

【掲載のお知らせ】角川『短歌』2024年2月号「野に咲く花のやうに」3首選

角川『短歌』2024年2月号「野に咲く花のやうに」欄の
3首選を担当いたしました。
冬から初春の植物が登場する歌の中から
河野裕子さん、笠木拓さん、北山あさひさんの歌を選んでいます。

また、同号の実作特集「句切れの真相」欄で
糸川雅子さん、大松達知さんに歌集『ネクタリン』から
一首引用していただきました。
句切れという観点から歌を読み解いていただき、誠にありがとうございます。

機会がございまし

もっとみる
【書評?】『街とその不確かな壁』村上春樹(小説)

【書評?】『街とその不確かな壁』村上春樹(小説)

(作品の内容を含みますので、少しでもネタバレしたくない方は
ぜひ作品を読んでからお越しください)

まず君に伝えておいた方がいいだろうと思うのは、
僕が今、村上春樹の小説『街とその不確かな壁』を読み終えたばかりで、
彼の文体の癖が少々この手紙に影響しているだろうということだ。
最後のページを閉じたのはほんとうについさっきのことで、
まだ彼の文体が僕を内側からほのかな星の光のように温めてくれている。

もっとみる