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サンクトペテルブルク取材日記

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2019年、付き合ったらすぐ結婚になりそうだからと画策した「最後の一人旅」は、出発前日に彼女に振られるという大事故から始まる。 失意のまま向かうロシア、サンクトペテルブルクでぼく… もっと読む
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記事一覧

ぼくが見たサンクトペテルブルク 第0章 これはロケだ

旅行に行くことを「取材」と称している。
バイトを「仕事」って言っちゃう大学生より恥ずかしい。

でも、旅行に行ったら必ず紀行文を書く。ブログに投稿したり、旅行先の地方紙に投書したりなんかする。ここまで言うとちょっといい趣味に聞こえる。
書くために旅行している。
ぼくの趣味は旅ジャーナリズムです。かっこよ。

2017年、ちょっと背伸びして「ロンドン人ブラックジョークで笑かしたるSP」に挑戦した。

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ぼくが見たサンクトペテルブルク 第1章 彼女の手荒い見送り

彼女ができたらそう1人で旅行などはできまいと付き合う前日に予約したロシア旅行は、出発前日に彼女にフラれるという手荒い見送りを受け、初日を迎えた。

案の定、後悔とヤケ酒がしっかりと残っている。

今朝起きて、旅行への脚取りが重くなってキャンセル、というオチを心配したが、杞憂だった。むしろ体が疼き、妙に歩き出したくなった。

ありもしない食欲を捏造し、家系ラーメンを消化管に叩き込んだ。後悔はこうして

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ぼくが見たサンクトペテルブルク 第2章 過去へのフライト、運命の乗り換え

サンクトペテルブルクと日本との時差は6時間。
日本から見て目的地は「過去」である。

スパッと消し去られる思い出ではない。でも区切りはつけないといけない。だからせめて「過去」へと向かう機内でだけは、カッコ悪く後悔させていただきたい。それで終わり。

機内食のメインはタラのグリルだった。肉料理の「ヤキトリ」とやらも気になったが、品切れらしい。トルコの独特の風味を醸すビールとともにやや薄味の食事を堪能

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ぼくが見たサンクトペテルブルク 第3章 優しい熊

ロシアのことわざに「優しい熊」というのがあるらしい。

主人の顔に止まった蚊を、主人の顔諸共叩き潰してくれる飼い熊。日本語でいうところの「ありがた迷惑」だ。
今日はありがた迷惑を推奨するお話。

子ども用のバギーを飛行機に持ち込むためには、指定のカバーをかける必要があるようだ。
乗り換えの際、搭乗口の前で、シングルマザーと思しき美女がカバーをしはじめた。

その時一瞬、強い風が吹いた。カバーが不用

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ぼくが見たサンクトペテルブルク 第4章 おそロシアの洗礼

おそロシアの洗礼はすぐに始まった。

空港からホテルへの送迎人が来ない。
送迎人はみな、芸術の街らしい華美なウェルカムボードを無愛想に持っているが、ぼくの名前は見当たらない。
明らかに戸惑うぼくに手を差し伸べるのは、巨躯を揺らして歩み寄るタクシードライバーだけ。

送迎の予約票を確認する。
Ms.Alexというenglish speakingの方らしい。名前から推察される欧米系の女性はやはりそこに

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ぼくが見たサンクトペテルブルク 第5章 『罪と罰』を歩く

朝4時、オレンジをくすませたような、見たことのない色の空に驚き、カメラと三脚を持って部屋を飛び出した。それはロシアの朝焼けだと思った。
答えはネフスキー通りを一色に染める白熱灯だった。やられた。
せっかく起きたものだから、まだ暗い朝方の街を歩き、ネヴァ川沿いまで行ってみよう。

誰もいないネフスキー大通りを通り、ネヴァ川にたどり着いた。
ネヴァ川のほとりには、凍った大河に沿ってライトアップされた歴

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ぼくが見たサンクトペテルブルク 第6章 ロシアのマクドナルド事情

腹が減っては戦はできぬとは言うものの、言語と文化の壁の前では、食べることもまた戦である。

空腹に耐えかね、旅行中に禁忌としていたハンバーガーをあっさり解禁してしまった。
あえてマクドナルドを利用することで、その違いが見えそうだったから、ということにしておく。

一方でロシア語が話せない状態では、マクドナルドすら鬼門に思われた。しかしこれも杞憂。店員は例に漏れずロシア語だが、多言語&クレジットカー

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ぼくが見たサンクトペテルブルク 第7章 無愛想?本当にそう?

きっと無愛想も仕事のうちなのだろう。寒さで顔は凍りつき、態度も冷たくなるのか。お釣りやチケットはだいたいノールックで投げて渡してくる。本当は優しいと思うんだけどな、ロシア人。

市民とは違い、ペテルブルクの街はさまざまな顔をもつ。
古都としての顔。
革命の発信地としての顔。
数々の戦争での激戦地の顔。
そして芸術の街としての顔。
玉虫色の表情で、訪れる人々を次々と虜にする魔都、それがサンクトペテル

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ぼくが見たサンクトペテルブルク 第8章 凍った川を渡る

サンクトペテルブルクの歴史はパブロフスク要塞から始まった。今日はここから。

サンクトペテルブルクはピョートル1世がヨーロッパ進出を夢見て泥沼の上に作った人工都市。その開拓は困難を極めた。
繰り返す洪水とフィンランド軍の脅威、数多の犠牲の上にこの街は成立している。
また、パブロフスク"要塞"とはいうものの、監獄としての顔を持った時代があり、ドストエフスキーも、思想犯としてここに囚われた。観光客とし

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ぼくが見たサンクトペテルブルク 第9章 『グッバイ、レニングラード』

魔法が解けるまでわずか2時間。
ホテルにMs.Alexが迎えに来るのが正午。最後の目的地であり、この旅で必ず行こうと思っていた「レニングラード包囲と防衛博物館」の開館が10時。
しかし博物館入口と書かれたドアはまだ9時30分なのに開け放されていて、中を覗くと剥き出しのコンクリートと諸々の建材が無造作に置かれていた。工事中。次。

「レニングラード包囲戦」については少しだけ。
サンクトペテルブルクは

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