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【小説】連綿と続け

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富山県を舞台にした小説
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連綿と続け・あらすじと登場人物

連綿と続け・あらすじと登場人物

題名: 連綿と続け

(あらすじ)
東京都八王子市で生まれ育った一ノ瀬侑芽は
大学を卒業し、富山県の南砺市役所に就職が決まった。
南砺市では人口と観光客が年々減少し、その回復が急務となっていた。
その為には地域の人々の協力が必要となり、その間に入る担当者として新人の侑芽が選ばれる。様々なことに苦戦する侑芽であったが、足を運ぶうちに地域の人々の暮らしぶりやそれぞれの思いを知り、観光だけに頼らず地域の

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【小説】連綿と続けNo.1

【小説】連綿と続けNo.1

富山県南西部にある南砺市で
とある男女の運命が動きだした

2021年4月1日
南砺市役所・入庁式

市長)え〜、富山県の中でも、我が街は世界遺産に認定された五箇山を有する市です。そやから実質、立山や黒部よりも世界的に有名な土地ながです。やさかい皆さんには誇りをもって、さらなる市の発展に貢献していただきたい。そんな風に思うとります。

市長である壇之浦虎吉の
長い訓話を聞かされている新規採用職員達

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【小説】連綿と続けNo.2

【小説】連綿と続けNo.2

侑芽は一抹の不安を覚えながら
車窓から流れる景色を見つめていた。

そこには日本の原風景とも言うべき風景が広がっている。

砺波平野は庄川と小矢部川に挟まれた扇状地で、
そこかしこに水路がひかれ田畑を潤している。

その水田に点在するのが農家の屋敷で、
屋敷を囲む木々の事を"カイニョ“または"カイナ”と言う。

スギやアスナロ、
ケヤキといった大木や柿の木やカエデ、
ツバキなども植えられている。

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【小説】連綿と続けNo.3

【小説】連綿と続けNo.3

侑芽と高岡は富樫に連れられ
八日町通りにある純喫茶「あいの風」に入った。
席に着くと店主の庄司礼子が声をかけてくる。

礼子)おっ、富樫くん!いらっしゃい。久しぶりやね〜

富樫)ご無沙汰しとります!もう、くたびれてしもたさかい、ちょっこし休憩させて〜

礼子)ええに決まっとるちゃ!それよりこちらのかいらしい(可愛らしい)お嬢さんらは?

富樫)あぁ、そやった!この2人はね、今日から入った新人さん

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【小説】連綿と続けNo.4

【小説】連綿と続けNo.4

侑芽は航に睨まれたまま目を逸らすことができない。
西川と航は小中学校の同級生なのだが、
性格が合わず、
昔からあまり口をきかなかった。
だから大人になった今も、
さして話すこともない。

だが歌子は子供の頃から知っている西川を可愛がっており、
親しく話し込んでいる。
すると玄関先まで
航がドンドンと大きな足音をたててやってき来た。
そしてものすごい剣幕で怒鳴りつける。

航)やかましい!何しに来た

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【小説】連綿と続けNo.5

【小説】連綿と続けNo.5

航は生粋の職人で、
仕事においては実直な性格だ。

しかしそれが災いしてか、
武史や先輩職人である山崎洋平から
紹介された女の子と付き合った時期もあったが、
どれも長続きはしなかった。

何よりも仕事を優先して生きてきたから、
それを理解してくれる恋人はいなかったのだ。

そう思っていた。

武史)お前、そろそろ彼女作ったら?

航)はぁ?そういうの面倒やて前に言うたがに。それにお前やて彼女おらん

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【小説】連綿と続けNo.6

【小説】連綿と続けNo.6

侑芽の噂が街中に広まっている頃、
当の本人は、よいやさ祭りの打ち合わせで井波八幡宮に来ていた。

ここはかつて井波城という中世の城があったという。
戦国時代、越中一向一揆が勃発し
一向宗の総本山となったのが瑞泉寺で
その目と鼻の先にあるこちらが彼らの拠点となった。

今ではその動乱が嘘のように静まり返り
城の痕跡は土塁や枡形など僅かに残っている遺構だけである。

緩い石段を上がっていくと
参道から

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【小説】連綿と続けNo.7

【小説】連綿と続けNo.7

それから数日間、
侑芽は井波よいやさ祭りのパンフレット作りに取り掛かっていた。

デスクワークをしていると、
外回りから戻ってきた高岡が
隣の席にどかっと座り大きな溜め息を吐いた。

高岡)はぁ……そりゃあ誰かさんはやる気になるよねー。あんなイケメンと一緒に仕事できるんだからさー。あたしなんて自転車で走り回って、爺さん婆さんの話を延々と聞かされたり、富樫さんから雑用任されたり…ほんっと不公平だわー

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【小説】連綿と続けNo.8

【小説】連綿と続けNo.8

航の車で井波の皆藤家に戻ってきた侑芽は、
夕飯の準備を手伝った。

歌子)ええから座っとって〜。疲れとるが〜

侑芽)お手伝いくらいさせてください!

歌子)そ〜お?ほんなら野菜切ってくれる?

侑芽)包丁お借りします!

台所を覗きこんだ正也は
微笑ましいといった表情でニヤけている。

正也)そうや!「一ノ瀬さん」って長いさかい「侑芽ちゃん」て呼んでもええ?

侑芽)はい!大丈夫です!

歌子)

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【小説】連綿と続けNo.9

【小説】連綿と続けNo.9

侑芽が航に飴玉を渡す。
それを受け取ろうと航が手のひらを差し出したその時、侑芽が航の手に触れる。

航)え?…な、何!?

「父と同じ手」と呟き
懐かしそうに航の手に触れる侑芽。

航)……!?

航は驚きつつも拒むこともせず、
それを受け入れた。

航)親父さん…何の仕事しとるが?

侑芽)自動車の修理をする町工場で働いています。子供の頃、父と手を繋ぐと分厚くて繋ぎにくくて(笑)ちょうど、こんな

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【小説】連綿と続け No.10

【小説】連綿と続け No.10

祭りの準備が進む中、富樫から電話で思いもよらぬ知らせを受ける。

富樫)急で悪いがやけど…上からの提案で連休中に市内で"街コン“することになったさかい、その準備も宜しゅうね〜

侑芽)街コン!?

街コンとは
街ぐるみで行われる大型コンパイベントである。

イベント会社と地域がタックを組み、男女の出会いの場を設けるもので、参加者は開催地区の定められた複数の飲食店を廻るため、地域振興にも役立てられて

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【小説】連綿と続け No.11

【小説】連綿と続け No.11

侑芽は早退したが、結局家で仕事をしている。
そこへインターホンが鳴り、部屋着のまま出ていくと西川が心配そうにして立っていた。

西川)急に来てしもてかんにん!倒れたて聞いて…ちょっこし心配になってしもてな。あっ、良かったらこれ食べて?

そう言って侑芽に何かを渡してくる。
それは富山県産イチゴ「かおり野」であった。
その名の通り、ふわっとイチゴの香りが漂ってくる。

侑芽)わぁ…いい香り!でも、わ

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【小説】連綿と続け No.12

【小説】連綿と続け No.12

市役所に到着した航は、
意を決した様子で歌子から渡された差し入れを持って中に入っていく。

ところが侑芽が在籍している観光推進課の場所がわからずキョロキョロとあたりを見回していると、たまたま通りかかった高岡が駆け寄ってくる。

高岡)あれ?確か昨日お会いしましたよね?どうされたんですか〜?まさか私に会いに来てくれたんですかぁ!?

勘違い甚だしい高岡はいつもより声のトーンが高い。

航)いや、ちょ

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【小説】連綿と続け No.13

【小説】連綿と続け No.13

航)あの…

侑芽)え…どうかされましたか?

侑芽は驚きつつも首を傾げている。
航は掴んだ手を慌てて引き

航)か、かんにん!あんな、この前もろた飴…あれ、けっこう美味かったさかい…その…

侑芽)あぁ。飴ならまだありますよ?

そう言ってバックの中から飴玉を取り出している。
航はあの時のように片手を広げ
深呼吸をしてから

航)こんな手で落ち着くんやったら…、その…いつでも貸すさかい

侑芽)

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