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【エッセイ】春特別企画2024①─桜を詠んだ和歌について─『佐竹健のYouTube奮闘記(63)』

 桜の季節がやってきた。

 上野公園や墨堤、井の頭公園といった桜の名所では、満開の桜花が咲き誇っていることだろう。

 春になると、私のチャンネルでは春特別企画をやっている。一昨年は石神井川から王子までのサイクリング、去年は桜の種類や江戸時代の花見の話をした。自転車で川越に行ったり、小田急や江ノ電を使って鎌倉へ行く企画は、3年前からずっとやっている。

 春特別企画をやる理由としては、やっぱり春だから、何か楽しいことをしたいという気持ちが大きい。天気もいいし、桜もきれいだから、何か楽しいことがしたいなと自然と思うようになるのである。


 今年の春特別企画は、桜と和歌の話をすることにした。

 最初は桜と文学の話にしようかと思った。

 桜と日本文学は関わりが深い。咲き誇っては散っていくという要素に、当時の日本人は仏教的無常観を感じていたのだろう。そのためか、よく和歌や俳句にも詠まれているし、物語や随筆などに度々登場する。

 具体例を出すと、物語の方では、紫式部の『源氏物語』で、花見の宴の話がある。また『平家物語』では、桜が好きすぎる藤原成範という人物が、天照皇大神に頼み込んで、本来なら7日間咲くところを21日間まで延ばした話がある。また『太平記』では、日野俊基が鎌倉へ護送されるときに、

落花ノ雪二踏ミ迷フ、片野ノ春ノ桜狩リ

『太平記』より

 から始まる道行文がある。その後に、同じく散りゆくものである紅葉が来ることから、俊基の死を予感させている。

 ちなみにこの後、俊基は鎌倉で斬首されている。そしてその後、佐渡に流された親戚の資朝も斬首された。

 随筆では、清少納言の『枕草子』で絵より実物で見る方がいいものについて、桜を挙げている。時代は下って、鎌倉末期から南北朝時代の隠者である兼好法師は『徒然草』の中で、庭に植えたい木に桜と松を挙げている。

 一話規模のものから部分的な挿話まで、様々な形で桜についての話や描写がある。

 桜と文学の話でも私は良かったが、いざ実行するとなると、江戸や近代の文学もカバーしなければいけないので辞めた。

 江戸時代の文学については、松尾芭蕉の『おくのほそ道』と『南総里見八犬伝』以外読んでいないので、未知の部分が多い。また、江戸時代は出版文化だけでなく、歌舞伎や人形浄瑠璃、落語といった舞台芸術も発達していたので、これらもカバーしなければならない。

 近代文学はいくらか読んでいるものもあるので、江戸時代のものよりもよく知っている。だが、復習するのに手間がかかる。

 いろいろ考えた結果、平安・鎌倉の話がいいということに行き着いた。

 それでも、平安・鎌倉時代の作品には、様々な種類の創作物がある。メジャーなものだと、物語では、紫式部の『源氏物語』や作者不詳の『平家物語』、随筆では清少納言の『枕草子』や鴨長明の『方丈記』がある。また、日記文学では菅原孝標女が書いた『更級日記』、和歌集では『古今和歌集』や『新古今和歌集』などが知られている。何をメインに話すか、そして、桜の美しさがより際立つ文芸のジャンルは何か、考えなければいけなくなった。

 考えた結果、和歌にしようと決めた。桜の美しさを最大限に引き出しているのは、日本独自のスタイルの詩である「やまとうた」である和歌にしようと。

 和歌が桜の美しさを最大限に引き出していることを証明していこう。

うつせみの世にも似たるか花桜
さくと見し間にかつ散りにけり

『古今和歌集』春歌

 上に一つ、例を挙げてみた。

 こちらの和歌は『古今和歌集』の春の歌に収録されていたものだが、意味としては、

「咲いたと思ったら散っていくところが、儚い現世の様とそっくりである」

 といった感じだ。31音の中に桜の持っている美しさや儚さといったものだけでなく、平安時代から中世に流行った無常観も同時に表現している。

花の色はうつりにけりないたづらに
わが身世にふる長雨せしまに

『古今和歌集』春歌 113

『古今和歌集』から、また一つ例を出してみた。

 こちらは百人一首にもある小野小町の歌である。意味合いとしては、

「桜の花が長く降り続ける雨で朽ちていくように、物思いをしているうちに私も老いてしまった」

 というものだ。

 これだけでも、美人と呼ばれた小町の、言葉にならない悲哀が伝わってくる。若さが無くなったら、美しさも消える。そして男に捨てられる。そんな悲哀を咲いて散っていく桜の花に仮託している。

 こんな感じで、和歌では桜の美しさを31音の中で視覚的に表現している。同時に、その中に感じたことや自身の境遇を桜の花に仮託するなど、芸を凝らしたものとなっている。


 古今集に詠まれたものは平安時代の人が詠んだものなので、現代のものとの価値観の相違が大きい。だから、これなら現代人でも共感できそうだ、というものをいくつかピックアップして紹介することにした。また、知らない和歌を出されても、ピンと来ない人もたくさんいるだろうから、知名度とクオリティが高い百人一首にあるもの選んだ。

 現在鋭意制作中だが、いろいろあって公開が桜が散るころか、もしくは散ったあとになるかもしれない。本当に申し訳ない。


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