今日は午後を無駄に使い尽くした。カーペットを探していた僕はインテリア屋さんを訪れた。なぜカーペットを買いたかったかといえば、部屋の雰囲気を明るくしたかった…
すっかり真っ暗になった街は、短い間隔で設置された街灯と面白みのないラインナップの自販機によって照らされている。家まであと5分。いつもは疲れた体を半自動的に…
よく使い込まれたグラブ、バットがアップになった。早朝、街頭ビジョンが映している。約10年前の映像だろうか、まだまだ初々しい彼の笑顔は、スライディングでついた…
——————ワインに対して「飲みやすい」は褒め言葉じゃないと思う。 僕 * 今日の飲み会は断…
2023年、暑さでゆらゆら見える、コンビニエンスストアーでのことだ。 曲がり角からやってきたその男は、まるで狩りの前の獣のように揺れながら歩いていた。手に持った心許…
「やっぱ金かかってる作品の方がおもしれーよ絶対」 「絶対とは言わないけど、まぁ大概そうだわな」 「そりゃそうだろうよ。いや、別に金無いことが悪いってわけじゃないけ…
つい3日前退勤中のわたしの元に、病院に行ってくれた弟から連絡があった。 「母さん、K-POPアイドルのライブ見たいからやっぱり死ぬのやめるってよ」 一週間前に…
子供の頃、朝起きてまだ布団に潜りながら、よく焼けた食パンの匂いとまだ飲めないコーヒーの香りを嗅ぐのが好きだった。とは言っても、わたし自身はパンは焼き色があ…
『俺は白シャツに黒いブルゾンジャケット羽織ってます、パンツはちょっとワイド気味でこれも黒です。身軽で来たかったのでバッグとかは特にないですね』 『了解です!わた…
湿気のない太陽の照りつけが肌を焼く。さっきからツンと鼻を刺すような臭いがする。ほぼ全裸で地面に横たわる人。男か女かもわからないその生き物は、生きているとい…
短編『10時2時』のオーディオバージョンです。 約12分の音源になります。 今回は少し環境音を入れてみました。より臨場感をもって楽しんで頂けると思います。 是非感…
6時38分に上野駅に到着、そのあと5分待って山手線に乗車。私は、スマホの乗換案内アプリの表示を覚えて、またSNSの画面に戻る。帰宅ラッシュの時間はいつもこうだ。…
「次何歌うー?…あ、これにしよ」 また合唱曲。この前も、その前も合唱曲だった。下着だけ着た彼女は、ボロいソファに寄りかかりポチポチとリモコンで新たな曲を入れてい…
母が倒れた。上京して15年が過ぎ、近頃は仕事が忙しく正月であっても田舎に帰ることも無くなっていた。そんな時、滅多に電話なんてかけてこない父から緊急だと連絡が…
「え、本当ですか」 「ええ、これは絶対です」 「マジで?」 「ええはい、マジです」 「はあ」 「はい」 絶対に当たる占い師———誰もが嘘だと思い、誰もがバラエ…
再生時間 5:37 ショートショートの短編をオーディオ化しました。今回は新しい試みとして、先に音声からの配信です。ボイスドラマ感覚でお聞きください! コメントしてく…
庄司浩平
2024年5月18日 00:28
今日は午後を無駄に使い尽くした。カーペットを探していた僕はインテリア屋さんを訪れた。なぜカーペットを買いたかったかといえば、部屋の雰囲気を明るくしたかったからである。床の色は、部屋のトーン全体に関わってくる、とテレビで観た。嘘つけやいと思ったが、仕事から帰ってくると毎回物寂しい空気を家から感じるのは、長いこと付き合っている相手がいないこととか一生懸命働いてる割には貯金がなかなか貯まらないこと
2024年1月28日 23:25
すっかり真っ暗になった街は、短い間隔で設置された街灯と面白みのないラインナップの自販機によって照らされている。家まであと5分。いつもは疲れた体を半自動的に動かして無意識で玄関を上がっているが、今日は心も体もいつも通りではなかった。普段寄ることのないコンビニに無性に入りたくなり、この後夕飯があるのはわかっているのにカップ麺を買った。 外に出て、駐車場のブロックに腰掛ける。2分待って、もう開け
2023年12月28日 15:54
よく使い込まれたグラブ、バットがアップになった。早朝、街頭ビジョンが映している。約10年前の映像だろうか、まだまだ初々しい彼の笑顔は、スライディングでついたであろう土がその爽やかさを倍増させている。 当時、高校野球の大スターであった彼は今、日本野球界の生ける伝説となって、世界の舞台でその剛腕を見せつけている。30代を目前にした彼は、唯一持っていない世界チャンピオンの座を掴むべく、さらなるチ
2023年12月2日 11:57
——————ワインに対して「飲みやすい」は褒め言葉じゃないと思う。 僕* 今日の飲み会は断った。同僚は朝から張り切って仕事を進め、なんとか定時から少し溢れるくらいの時間に退社していた。僕もお誘いを受けていたが、「明日が早いので」と嘘をついた。優しい嘘はついても良いと思う。誰も傷つけていないのだ。学生のころみたいに、なぜか何
2023年9月24日 14:54
2023年、暑さでゆらゆら見える、コンビニエンスストアーでのことだ。曲がり角からやってきたその男は、まるで狩りの前の獣のように揺れながら歩いていた。手に持った心許ないビニール袋が、かえって男の弱い部分を浮き彫りにしているようだった(ただ、中身が何なのかは僕からは見えなかった。それか、何も入っていなかった可能性もある)。「おい、何をやっているんだ」彼は水平線のように細めたまなこをこちらに向
2023年8月14日 22:29
「やっぱ金かかってる作品の方がおもしれーよ絶対」「絶対とは言わないけど、まぁ大概そうだわな」「そりゃそうだろうよ。いや、別に金無いことが悪いってわけじゃないけどさ、舞台挨拶とかで監督とか製作陣が“資金無いなりに、頭使って頑張りました!!役者の芝居も素晴らしい!!”みたいな事言い出すとめっちゃ冷めるんだよね。いやそれは周りがいうことであって自分から言うことじゃねーぞって」「不景気だから」「お
2023年6月24日 20:08
つい3日前退勤中のわたしの元に、病院に行ってくれた弟から連絡があった。「母さん、K-POPアイドルのライブ見たいからやっぱり死ぬのやめるってよ」 一週間前には、さっさとあの世に行って早逝した韓流スターに会いにいくんだと三途の川方面にアクセル全開な気持ちでいたが、乙女心はまったくきまぐれオレンジロードである。彼女の体調を見なくてはならない病院のスタッフさんに感謝と申し訳なさが少し込み上
2023年5月28日 00:28
子供の頃、朝起きてまだ布団に潜りながら、よく焼けた食パンの匂いとまだ飲めないコーヒーの香りを嗅ぐのが好きだった。とは言っても、わたし自身はパンは焼き色があまり付いていないのが好きで、その匂いの正体はもっぱらお父さんのものだった。せっかく自分の布団から出てきたのに、和室に敷かれたままのお母さんの布団に再度飛び込んで、朝食を急かされるのがルーティン。まだ高い位置にあるテーブルには、ちょうど良い焼
2023年4月28日 20:32
『俺は白シャツに黒いブルゾンジャケット羽織ってます、パンツはちょっとワイド気味でこれも黒です。身軽で来たかったのでバッグとかは特にないですね』『了解です!わたしはブルーのニットと細身のブラックのパンツです!あ、あと紺色のキャップ被ってます』『ありがとうございます( ̄^ ̄)ゞでは駅の東口に待ち合わせで!』 桜も散り、だんだんと暑くなってきた春の陽気。とはいえまだまだ日によっては寒くな
2023年3月17日 18:55
湿気のない太陽の照りつけが肌を焼く。さっきからツンと鼻を刺すような臭いがする。ほぼ全裸で地面に横たわる人。男か女かもわからないその生き物は、生きているというより”死んでいない”と言った方が正確だった。赤信号を次々と渡る群れにおいてかれまいと、大きなライフルを持った警察を横目に歩く。 薄汚れた建物。小便とたばこの吸い殻が混ざった異臭。砂糖の含有量が頭を抱えたくなるエスプレッソ。ミサンガを体に
2023年3月2日 10:05
【オーディオVer.短編】10時2時
短編『10時2時』のオーディオバージョンです。約12分の音源になります。今回は少し環境音を入れてみました。より臨場感をもって楽しんで頂けると思います。是非感想、コメントお待ちしております。よろしくどうぞ。
2023年2月18日 23:13
6時38分に上野駅に到着、そのあと5分待って山手線に乗車。私は、スマホの乗換案内アプリの表示を覚えて、またSNSの画面に戻る。帰宅ラッシュの時間はいつもこうだ。帰りのタイムラインは頭に入っているものの、軽微な遅延やその他の要因で使う路線が変わったりするので、乗り換え駅に着く少し前に毎回確認している。今日はホームドア点検とかで、約2分から3分の遅れだ。“———お客様にはご迷惑をおかけしており
2023年1月14日 21:46
「次何歌うー?…あ、これにしよ」また合唱曲。この前も、その前も合唱曲だった。下着だけ着た彼女は、ボロいソファに寄りかかりポチポチとリモコンで新たな曲を入れている。この前来た時に歌ったお気に入り。まだベッドの上にいる僕は仕方なくマイクを握り直す。 3600円。駅チカにあるラブホテルの、平日フリータイムの価格。僕は一人暮らしだったからわざわざ行く必要もなかったけど、単純に行ってみたくて安めのところ
2023年1月2日 12:33
母が倒れた。上京して15年が過ぎ、近頃は仕事が忙しく正月であっても田舎に帰ることも無くなっていた。そんな時、滅多に電話なんてかけてこない父から緊急だと連絡があったのだ。どうやら元々の持病が悪化したとのことだが、父も詳しいことは把握してないようで電話口からは少し落ち着かない雰囲気が感じ取れた。結局私は、会社を早めに上がって荷物を詰め、二週間ほど帰ることにした。「お母さん、ただいま」 平日
2022年12月16日 22:09
「え、本当ですか」「ええ、これは絶対です」「マジで?」「ええはい、マジです」「はあ」「はい」 絶対に当たる占い師———誰もが嘘だと思い、誰もがバラエティ番組のいい加減な賑やかしのようだと馬鹿にした一人の女性。年は50~60代と言ったところか、その素性は全くの不明である。そんな怪しい自称占い師が一気に話題の中心になった事件があった。中華街の裏、ある若者がその人から余命3ヶ月と宣告さ
2022年12月2日 18:10
【オーディオVer.短編】トゥーロング・トゥーリブ
再生時間 5:37ショートショートの短編をオーディオ化しました。今回は新しい試みとして、先に音声からの配信です。ボイスドラマ感覚でお聞きください!コメントしてくださった方へ、返信もしております。よろしければスキ、コメント、フォロー、サポートを宜しくお願い致します。後日、修正、加筆したものを完全版として文字の短編を投稿します。是非そちらも見に来てください。