山本啓一

2001-2015年九州国際大学法学部(2008.09-2012.12法学部長)、20…

山本啓一

2001-2015年九州国際大学法学部(2008.09-2012.12法学部長)、2016.04〜北陸大学経済経営学部教授。2017.04〜2021.03 経済経営学部学部長。以前のブログは https://qzm03354.hatenablog.com

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  • 学部長の教科書

    日本で類書が存在しない「学部長の教科書」。2つの大学で学部長を経験した筆者が学部長が手掛ける教育改革のノウハウを全公開。

最近の記事

学部長の教科書⑯ リーダーシップ編 補論その1 学部長のリーダーシップとはなにか

「学部長の教科書〜リーダーシップ編」として、やはり「リーダーシップ」そのものについて扱わなければいけないでしょう。学部長にはどのような「リーダーシップ」が求められるのでしょうか? リーダーシップ編の補論として少しまとめてみましょう。 リーダーシップは大学教員にとって難しい問題です。大学教員、特に人文社会系の教員はしばしば「個人商店」的な要素が強いと言われます。学部長になる前に、学部内で他の教員に対してリーダーシップを発揮したという経験がない人も多いでしょう。 また、教員間

    • 学部長の教科書⑮ リーダーシップ編 第8ステップ 新しいアプローチ・文化を根づかせる

      学部長の教科書の「リーダーシップ編」、いよいよ最後のステップです。最後のステップは、「新しいアプローチ・文化を根づかせる」、です。これは、「教育改革の成果を学部内で共有するとともに、改善のサイクルを制度化し、組織文化として定着させる」と言い換えることもできるでしょう。 改革アプローチを組織文化として根付かせないと、打ち上げ花火に終わってしまうおそれがあります。コッター教授も次のように警告しています。 確かにそのとおりです。これまでのステップを通して取り組んできた学部変革がど

      • 学部長の教科書⑭ リーダーシップ編 第7ステップ 改善成果の定着とさらなる変革の実現

        短期的成果をもとに根本的な改革に着手する ステップ6で述べた初年教育改革、基礎ゼミナール改革は、新入生の成長をもたらすとともに、教員の協働体制をつくり、教員の心理的安全環境を生み出し、教育環境に変革をもたらします。これは学部改革の大きな一歩です。 ただし、第6ステップで短期的成果をあげる目的は、学部長に対する信頼感を獲得し、より大きな改革に手を付けるためです。第6ステップで例にあげた基礎ゼミ改革とは、「科目レベル」の改革に過ぎません。初年次教育改革で少し成果が出ただけで、

        • 学部長の教科書⑬ リーダーシップ編 第6ステップ 短期的成果を上げるための計画策定−初年次教育改革案その3

          学部長の教科書「リーダーシップ編」の「ステップ6」は初年次教育改革に重点を置いたため、かなり分量が増えてしまいました。前回は、⑤ 教員協働による共通教材・授業シナリオ作成、⑥SA制度の導入とSAのチームビルディング、⑦SAを巻き込んだ授業設計までを説明しました。今回は残りの3つのステップを解説します。 ⑧ 授業後のふりかえりと打ち合わせ 1で述べたように、基礎ゼミナール90分とキャリア科目45分を連続実施すると、2コマ目の半分で授業が終わります。つまり、45分間余ります(

        学部長の教科書⑯ リーダーシップ編 補論その1 学部長のリーダーシップとはなにか

        • 学部長の教科書⑮ リーダーシップ編 第8ステップ 新しいアプローチ・文化を根づかせる

        • 学部長の教科書⑭ リーダーシップ編 第7ステップ 改善成果の定着とさらなる変革の実現

        • 学部長の教科書⑬ リーダーシップ編 第6ステップ 短期的成果を上げるための計画策定−初年次教育改革案その3

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        • 学部長の教科書
          15本

        記事

          学部長の教科書⑫ リーダーシップ編 第6ステップ 短期的成果を上げるための計画策定−初年次教育改革案その2

          学部長は、短期間に成果を出す必要があり、そのためには初年次教育改革が有効だという話の続きです。前回の記事で、①基礎ゼミと他の科目の連続実施、②ジェネリックスキル育成を到達目標として設定、③教員のチームビルディング、というところまで説明しました。続けます。 ④ コマのユニット化を基本としたシラバスの作成 基礎ゼミナールにとって、授業設計は「命」です。高校生から大学生になりたての新入生にとっては、「どのような流れの中で、この課題に取り組んでいるのか?」が明確であることは重要で

          学部長の教科書⑫ リーダーシップ編 第6ステップ 短期的成果を上げるための計画策定−初年次教育改革案その2

          学部長の教科書⑪ リーダーシップ編 第6ステップ 短期的成果を上げるための計画策定−初年次教育改革案その1

          教学マネジメント改革は一朝一夕で成し遂げられるものではありません。明確な3つのポリシーの策定、スリムで体系的なカリキュラムの導入、DPと連動した授業展開、教育成果や学修成果の可視化など様々な要素に相互関連性を持たせながら導入していく必要があります。こうした体系的な教育プログラムの整備に時間がかかるのは当然です。 しかし、学部長の任期は2年間または4年間がほとんどです。まず、2年間ではこのような学部変革はおよそ無理でしょう。私の経験からも、カリキュラム改革を導入できるのは3年

          学部長の教科書⑪ リーダーシップ編 第6ステップ 短期的成果を上げるための計画策定−初年次教育改革案その1

          学部長の教科書⑩ リーダーシップ編 第5ステップ ビジョンの障害を放置せず、解決する

          学部変革に向けたビジョンやミッション、コンセプトがかたまり、学部教員にもその内容は伝わりました。いよいよ学部変革を起こしていく段階です。 ただし、学部変革を進めていく上で、学部長が見落としてはならないものがあります。それは、コッター教授がいう「社員のビジョン実現へのサポート」という第5ステップです。わかりやすく言い換えれば「教員がビジョンを実行する上での障害を放置せず、解決する」ことです。 学部ビジョンやミッションが策定されると、その考え方にもとづいて、WGや現場の教員が

          学部長の教科書⑩ リーダーシップ編 第5ステップ ビジョンの障害を放置せず、解決する

          学部長の教科書⑨ リーダーシップ編 第4ステップ ビジョン・ミッションの伝達

          ビジョン・ミッションを教員に浸透させるには 学部ビジョン・全学ビジョンや学部の教育ミッション・コンセプトが策定されたら、まずは学部教員全員に周知徹底することが大切です。ただし、これはそれほど容易なことではありません。 コッター教授は、第4ステップの落とし穴として、「たった一度説明会を開いただけ」とか、「トップがそれ相応の時間を割いて説明したつもりでも、現場はほとんど理解できていない」、「有力役員の何人かが新しいビジョンと反対の態度を取り続けている」といったことが起こりがち

          学部長の教科書⑨ リーダーシップ編 第4ステップ ビジョン・ミッションの伝達

          学部長の教科書⑧ リーダーシップ編 第3ステップ 学部の教育ビジョンとミッションを再定義するその2

          前回の記事の続きです。前回は前任校の事例をもとに、「本当のところ、我々は誰に、何を、いかに提供すべきか」を考えることが学部コンセプトの策定に必要だという内容でした。今回はその続きです。ビジョンやミッションの設定、特にミッションの重要性について説明します。 学部のコンセプト策定は必要か? 北陸大学経済経営学部は、当時は「未来創造学部国際マネジメント学科」という名前でしたが、私の着任前に「未来創造学部」から「名称変更」という手法で改組することが決まっていました。名称変更とは、

          学部長の教科書⑧ リーダーシップ編 第3ステップ 学部の教育ビジョンとミッションを再定義するその2

          学部長の教科書⑦ リーダーシップ編 第3ステップ 学部の教育ビジョンとミッションを再定義するその1

          前回の記事で、学部の「募集問題、退学者問題、成績不振者問題、就職問題などの個別問題は、そもそも学部の方向性が曖昧で、競合校との違いが打ち出せず、教育が組織的に動いていないことが根本にある」と述べました。この点について考えるのが、第3ステップです。 前任校の学部が抱えていた課題 私は前任校の法学部長だった時に、法学部の「差別化」をどう考えてよいか悩みました。法学部では「法律を学ぶ」とか「法律を使う仕事につく」というイメージがあまりに強く、他大学と異なった「特色」を打ち出すこ

          学部長の教科書⑦ リーダーシップ編 第3ステップ 学部の教育ビジョンとミッションを再定義するその1

          学部長の教科書⑥ リーダーシップ編 第2ステップ−強力な改革推進プロジェクトチームの結成

          第1ステップで、学部が危機に直面しており、変革が今すぐ必要だということを、学部長自身は認識できたでしょうか? また、その危機感は他の教員に共有できたでしょうか? まだまだ危機感を感じていない教員も多いかもしれませんが、学部長の思いに共鳴する教員も出てきたかもしれません。最初はそれで十分です。第2ステップに進みましょう。 どんな学部改革でも、学部長が一人でできるわけではありません。学部長が教授会でいくら演説をしたところで、すぐさま全員を巻き込んだ改革ができるわけでもありません

          学部長の教科書⑥ リーダーシップ編 第2ステップ−強力な改革推進プロジェクトチームの結成

          学部長の教科書⑤リーダーシップ編 第1ステップ−緊急課題の認識 「虫の目」編

          前回の続きです。学部変革の第1ステップは、学部長が正しい危機感を持ち、その危機感を学部全体に共有することです。そのためには、学部長はIRデータを活用して「鳥の目」で学部を俯瞰してみることが大事です。ただし「鳥の目」で問題を発見できたとしても、その問題が生じている理由については、データからは読み取れないことの方が多いと思われます。解決策の一つとして、より精緻なデータを収集して鳥の目の解像度を上げる方法もあります。しかし、ここでは全く別の方法である「虫の目」によって自らの学部にレ

          学部長の教科書⑤リーダーシップ編 第1ステップ−緊急課題の認識 「虫の目」編

          学部長の教科書④ リーダーシップ編 第1ステップ−緊急課題の認識 「鳥の目」編

          危機感を認識・共有するために 学部変革の第1ステップは、学部がいかに危機に直面しているかという現状を把握することです。次に、その危機感を学部全体で共有していきます。 このステップは簡単にみえます。実際、IR部署にお願いすれば、データはすぐに集まるでしょう。しかし、前述のコッター教授は、「私がこれまで見てきた企業だけでも、この段階でつまずいてしまうケースが過半数を占める」と述べています。実はこのステップはそんなに簡単ではないのです。 なぜなら、人には「正常性バイアス」があ

          学部長の教科書④ リーダーシップ編 第1ステップ−緊急課題の認識 「鳥の目」編

          学部長の教科書③ 学部長のリーダーシップとマネジメントのフレームワーク

          私が学部長を引き受けた理由 今から 15年前に、38歳で法学部長を引き受けた私は、多くの人から「なぜ学部長を引き受けたの?」と尋ねられました。「学部長なんか引き受けたりしたら、今までやってたことができなくなるよ。それでもいいの?」と。 その頃の私は、大学教育を変えたいというもやもやとした気持ちを持っていました。当時、私は、地元商店街で地域連携型授業に取り組んでいました。目の前にいる学生は驚くほど成長していました。「学生の成長は教育次第」だという考え方は、当時の学生と様々な

          学部長の教科書③ 学部長のリーダーシップとマネジメントのフレームワーク

          学部長の教科書②「学部長は会議漬け〜会議と手続きの仕組みを理解する」

          学部長は会議漬け 学部長になると生活は一変します。大学の役職者はみんなそうだと思いますが、回覧される書類にひたすら判子を押したり、同じ議題が繰り返される会議にいくつも出席することは、学部長の日常の一部になります。 会議に出席するだけでも、資料を読み込み、他の出席者の発言を聞き、求められたら即座に意見を述べるための心の準備をしておく必要があります。学部長になりたての頃は、会議に出るだけでもヘトヘトになるはずです。 私の経験でも、現任校では学部長として出席しなければならない

          学部長の教科書②「学部長は会議漬け〜会議と手続きの仕組みを理解する」

          「学部長の教科書」の連載を始めます

          今年の夏休み企画として、「学部長の教科書」をnoteで書いていきます。 「学部長の教科書」を書くと言い始めてもう数年経ちました。多くの人からは「早く書くように」とせっつかれています。しかし、未だに完成していません。その理由は色々ありますが、そんな言い訳を述べるよりも、一歩を踏み出すために、この夏休みにnoteで少しずつ書いて公開していくことにしました。最後までたどり着けるかは「神のみぞ知る」ですが、この夏いっぱいで頑張ってみます。 まず、「学部長の教科書」がどのような内容

          「学部長の教科書」の連載を始めます