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「平成31年」雑感05 オウム一斉処刑で忘れ去られたもの

■松本サリン事件

▼すっかり忘れ去られた問題があって、2018年7月7日付で、その幾つかが新聞記事になっていた。そのうち3つをメモしておく。

1)松本サリン事件

2)地下鉄サリン事件の全体像

3)警察庁長官狙撃事件の顛末(てんまつ)

▼それぞれ、指摘されているのは長野県警とマスメディアの問題、警察庁の問題、警視庁の問題である。

▼オウム真理教は、長野地裁の松本支部の裁判官を殺そうとする。2018年7月7日付の朝日新聞から。

〈松本市では支部道場建設をめぐって教団と住民が対立し、訴訟となっていた。地裁支部は仮処分で住民側の訴えの一部を認めており、訴訟でも教団が負ける可能性があった。

松本死刑囚は判決直前の94年6月ごろ、サリンの実験を兼ねて裁判官たちの殺害を決意。教団幹部7人が同月27日深夜、裁判官官舎から約30メートルの駐車場で改造した「噴霧車」から、加熱して気化させたサリンを送風機でまいた。

 裁判官官舎で死者は出なかったが、周辺に住んでいた19~53歳の住民7人が死亡し、約600人の重軽症者が出た。重症者のうち、河野(こうの)澄子さんは意識不明の状態が回復しないままサリン中毒によって2008年8月、60歳で亡くなり、死者は8人となった。

 この事件で長野県警は河野さんの自宅を被疑者不詳のまま、殺人容疑で捜索。第1通報者だった河野さんの夫の義行さんを犯人視する報道も続き、事件報道のあり方も大きな議論を呼んだ。

▼松本サリン事件をリアルタイムで見聞きした人は、この記事を読んで「まるで他人事(ひとごと)だなあ」と感じるだろう。

河野義行氏を〈犯人視する報道【も】続き〉とある。生活の実感としては、〈犯人視する報道【が】続き〉ではなかったか。

松本サリン事件で問われたのはオウム真理教の犯罪だけではない。河野義行氏を犯人視した「長野県警の暴力」の問題であり、その長野県警の言うとおりに、検証なきままウソを垂れ流し、暴走し続けた「マスメディアの暴力」の問題である。

マスメディアは、マスメディア自身の問題を矮小化(わいしょうか)する、という構造がよくわかる記事だ。もっとも、回顧する時にこの問題を取り上げるだけマシだという考えもある。

■地下鉄サリン事件の全体像

▼地下鉄サリン事件については、当初は全体像がわからなかった。朝日の以下の記事を読むと、今となっては忘れられているが、〈地下鉄事件は被害の全容が長く明らかでなかった〉ということがわかる。

〈地下鉄事件は被害の全容が長く明らかでなかった。刑事裁判では12人の殺害が審理対象となったが、警察庁は2010年、「サリンの影響は否定できない」として13人目の死者を認定。傷病や後遺障害を負った人は約6300人にのぼった、という調査結果も初めて公表した。

▼要するに、1995年に起きた事件の全体像が、15年も経った2010年に明らかになった。

■警察庁長官狙撃事件の顛末(てんまつ)

▼下記の記事は年表形式だが、スクラップしたときに出典をメモし忘れた。警察庁長官狙撃事件の顛末(てんまつ)である。1995年の地下鉄サリン事件の後、当時の国松孝次警察庁長官が狙撃されて重傷を負った。

警察庁は〈公訴時効が成立した2010年に「オウム真理教による組織的テロ」との異例の見解を発表。後継団体のアレフは「名誉を傷つけられた」として東京都を提訴し、都に100万円の支払いを命じる判決が確定している。〉

警察庁が「やっぱりオウムの仕業」と言うのなら、なぜ時効になったのだろう。この警察庁発表のニュースを見た時の率直な感想は、「わけがわからない」だった。案の定、東京都がアレフに裁判で負けた。

公安がどうしても「あれはオウムの犯罪だったんだ」と公言したかった、ということはわかるが、なぜ公言したかったのか、その論理はわからない。警察庁は厚顔無恥だという印象が残った。

▼これらの顛末を振り返ると、警察やマスメディアの厄介な問題が、今も続いていること、もしかしたら悪化しているかもしれないことがわかる。

それは、たとえば河野義行氏を犯人と決めつけて垂れ流し続けた愚劣な報道について、10秒ほど考えれば、すぐわかる。

あの、新聞、テレビ、週刊誌などが総力を挙げて展開した、目も当てられない言論の暴力が、もしも今、SNSと炎上の世の中で行われたら、いったいどうなるのか。

これは、「平成」を振り返るうえで、欠かせないテーマだと筆者は思う。

(2019年4月16日)


▼これまでの「平成31年」雑感は以下のとおり。

「平成31年」雑感 上皇と改元と憲法と

「平成31年」雑感02 オウム真理教の死刑囚一斉処刑

「平成31年」雑感03 オウム一斉処刑で日本が失ったもの

「平成31年」雑感04 オウム一斉処刑から見える法律の現実


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