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総理大臣が「国家の歴史」を消している件

▼国家の最高指導者が、国家の政策について、誰とどういう話をしているのかを、すべて消してしまっている、という話。

▼2019年6月3日付の毎日新聞1面トップから。「公文書クライシス」シリーズのスクープだ。適宜改行。

〈首相の面談記録、作成せず 官邸、災害対策も〉

安倍晋三首相が官邸で官庁幹部と面談した際に、首相官邸が議事概要などの打ち合わせ記録を一切作成していないことが、官邸への取材で明らかになった。

官邸が面談で使った官庁作成の説明資料を終了直後に全て廃棄していることは毎日新聞の報道で明らかになっていたが、官邸による記録作成の有無は不明だった。首相の指示などが事後に検証できないブラックボックスになっている実態が一層鮮明になった。【大場弘行、松本惇】〉

▼一読、唖然(あぜん)とする話だが、〈官邸は記録未作成の理由について「官庁側の責任で作るべきものだ」と説明する。しかし、情報公開請求したところ、首相の下で災害・テロ対策や重要政策を担う内閣官房ですら、記録を作成していなかった。

つまり、わかりやすく言うと、この間(かん)の

国家の歴史が消されている

ということだ。記者による解説の結論は、〈もはや首相が記録作成を指示するしかない〉というものだが、現政権がそんな指示をするはずもない。

▼記録管理学会元会長の小谷允志(まさし)氏いわく、

「官邸が首相と官庁幹部の打ち合わせの記録を一切残さず、「記録は官庁側が作成すべきだ」と言うのは、言い訳に過ぎない。世間に批判されかねない面談内容が表に出るリスクを回避したいだけだ

官庁は官邸の意向を忖度(そんたく)して記録を作らない、あるいは作っても公開対象となる公文書にしていないとみるべきだ。首相の面談記録は国の歴史の記録でもある。それを残さない官邸と官庁は、公文書を「国民共有の知的財産」と定める公文書管理法の精神を完全に踏みにじっている。

▼首相官邸のスタッフは、「首相の面談記録は国の歴史の記録」という認識を持っていない、かなりプライベートな規範に則って動いている組織だということがよくわかる記事だった。

▼さて、このスクープの続報が、2019年6月24日付の毎日新聞1面トップに載っていた(大場弘行記者)。

見出しが漢字ばかりでわかりにくいのだが、細かいようで大きなスクープだ。適宜改行。

〈首相面談記録未作成/「官邸は指針違反」/改定審議委員 明言/省庁と同様義務〉

〈官庁間などの打ち合わせ記録を作成することを義務化する改定公文書ガイドラインを審議した元公文書管理委員会委員長代理の三宅弘弁護士が、取材に応じた。

安倍晋三首相と官庁幹部が官邸で面談した際の議事概要などの記録が作成されていない問題について、三宅氏は「明らかなガイドライン違反だ」と明言した。

菅義偉官房長官は3日の記者会見で「ガイドラインに反していない」と主張したが、改定に関わった当事者は真っ向から否定した。〉

▼簡単に言うと、ルールを作った人が、プレイヤーのルール違反について「ルール違反だ」と言っている。プレイヤーのほうは「ルール違反ではない」と言っている。どちらが正しいか、という話だ。

〈三宅氏は「ガイドライン改定時に、首相面談記録が官邸で保存されない事態になろうとは考えもしなかった」とし、「記録がなければ、これだけ長く在任する安倍首相がどんな政策決定をしたのか検証できなくなる。歴史が残されなくなるという意味でも大問題だ」と批判した。〉

▼三宅氏の言うとおりだと思うが、記録を作らない現状についての首相官邸の答えが傑作だった。(つづく)

(2019年6月29日)

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