伊藤万次ノ輔

小説を書いたり、読んだり。

伊藤万次ノ輔

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最近の記事

落とす

 まだ黒土の田んぼと、背の高い枯れ草のあいだの砂利道を歩いていると、なにかを落とした気がして あ とおもって振り返る。  道の両脇のちいさいイネ科の草たちにまぎれてホトケノザ、オオイヌノフグリ、あとは白い道が一本、枯れ草のうしろにまわりこんですぐに視界から消えるだけ。種もみたことないのに季節になれば咲くんだ。  なにも落とさなかったかもしれないし。通ってきた道はおもいもかけず蛇行して、歩いてるときは気づきもしない。敷かれた砂利はくもった空を反射もせずに、それでもこれは光ってる

    • パレスチナデモのコール(パレスチナ連帯デモでのシュプレヒコールまとめ)

      必要を感じたので、パレスチナ連帯デモのシュプレヒコールを分かる範囲で(間違いを恐れずに)書いてみます。自分も聞き取れないの結構あるので、「他にもこんなんあるよ」というのがあれば教えていただけるととても助かります。そして間違いがあったら指摘していただけると嬉しいです! まず前提として、5つほど! ①パレスチナは、英語読みで「パレスタイン」です。 ②From the river to the sea(フロム・ザリバー・トゥ・ザ・シー)は、ヨルダン川から地中海、つまりパレスチナ全

      • 備忘録くん

        ここ最近、「ことば」の暴力性について考えることがとても増えました。 小説を書いている人間として、もともと折に触れて考えてはいたし、自分が考えるまでもなくたくさんの人がそのことについて話している。だから今更こうやって書き連ねるようなことでもないかもしれないけど、ちょっといま考えていることを備忘録として書いておきたいなと思ったのです。そういう事情ゆえに全然まとまらない文章になることをあらかじめ宣言しておきます。そして伝わるように整然と書くというよりは、思いついた順番に思考を辿って

        • くものした(千字戦二回戦)

           空に雲が浮かんでいて、その雲がうすければうすいほど、宇宙からみた地球を想像してしまう。幼い頃よく眺めた図鑑では、地球の青いすべすべした表面に、白いマーブル模様が渦巻いていた。あの図鑑はどこへいったのだろうか。  祖父の葬式は小さな家族葬だった。自宅から車で二十分ほどいくと、護岸のされていない用水路に沿って田んぼがどこまでも続いていて、ささやかな樹林帯があって、その奥に、白い石造りのどっしりした市営斎場があった。母と祖母は通夜が終わった後泊まり込んで、ぼくだけが一度帰って告別

          KURAGARI(千字戦一回戦)

           とにかく、自分がどちらに進んでいるのかを知らなければならなかった。むやみに歩いているうちに、声の反響さえなくなった。そんなに広い地下室など、ありえるだろうか。  きっかけは蜘蛛だった。守衛室からでて、コンクリート打ちっぱなしの廊下を進んでいると、体長が小さなメモ帳ほどもある蜘蛛が、暗い奥の方から迫ってきたのだった。水風船のように膨らんだ腹部は、工事現場のトラバーを歪めたような模様で、自分は焦ってペンライトを取り落とし、すぐ右手には蹴上げの高い階段が下方の暗がりへと真っすぐ伸

          KURAGARI(千字戦一回戦)

           熱がではじめて四日目の朝はよく晴れていて、ゴミだしのついでに近所をすこし散歩することにした。  最初の日に病院にいってコロナとインフルエンザの陰性のお墨付きをもらった以外は出歩く気力もなくて、布団にもぐって終日うつらうつらしていたのが、さすがにぼく自身の気持ちによくない影を落としはじめていた。熱はまだ七度七分あったけれど、歩けないことはない。とにかくこんなに長引くのははじめてかもしれなかった。  もう七時を過ぎているのにまだすこし黄色い日差しが、雲のない青空をいっぱいに満た

          いき

           二両編成の暖色バイカラーの車両が、田んぼに挟まれた線路を走っていた。気温があがりすぎないように開け放たれた窓からは、涼しくなりはじめた外気がディーゼルの匂いと草いきれを伴って流れ込んでくる。りょうとかおるは褪色した橙色のロングシートに半身で向かい合うように座って、身体にのぼってくる羽蟻をその都度手の甲で払い落としながら、十八時前で日の沈みかけた窓の外を眺めていた。車両後方に見える薄い雲は残照を受けて、明瞭な陰影を刻みながら赤く光っている。  「箱が笑うって、段ボールが、って

          生態園いったりもして

           久しぶりで朝から雲ひとつない。曇りはじめる前までは、心配なほど晴ればかりだったのに。起きぬけの窓に青空ばかり広がっていると、みょうにそわそわしてしまう。それは桜が散りはじめたときの気持ちとも、夜空に花火の音が響いてるときの気持ちとも似ている。  コーヒーを飲みながら机にむかって小説を読んでも、内容が頭にはいらない。そこに書かれた少年は、おばあさんの名の日のお祝いでいっしょに踊った女の子に恋をして、寝床にはいってもうきうきして眠れないでいた。そのはげしい気持ちがいまの自分にし

          生態園いったりもして

          業務引き継ぎ2022.12.22

          ○昨日の対応事案 ・12:39 6F空調機械室B(剛田武培養室の向かい)において、床面に直径3メートル程度の穴が空いているのを巡回中の警備員Mが発見する。穴からはMの父親が大量発生。大声で楚歌を合唱し、項羽施設長を取り囲むなどの迷惑行為に及んでいるとの事。 ・12:45 連絡を受け、警備隊長Gが現場へ急行。Mと合流し、対応開始。2号消火栓2台による左右からの放水で撃退を試みるも失敗。(原因:Mの父親が不溶性だった為) ・13:27 Gの指示により、火炎放射器にて焼却処分開

          業務引き継ぎ2022.12.22

          しらすの話

          1年前の昨日のpm4時頃辺りからだったか、床の繋ぎ目から綺麗に蒸し上げられて周囲の光を内密な形で吸収する釜揚げしらすがまろびでてくるようになった。さながら、自分の感性すら自分で守れない私を譴責するかのごとく、しらすはその小さな身をふるふると震わせていた。それも一斉に。 私がうっかりと踏みつけると、それはまるでうっかり踏みつけられた釜揚げしらすのように音も立てずに潰れ、幕張にあるモンベルで東海道五十三次踏破のために購ったスニーカーの靴底には感触もなかった。私は父のことを思い出し

          伊藤万次ノ輔断罪日記

          アイリーン・ウォーノスとチェスをする夢から醒めるとゴリアテの腹に放り込まれたみたいに辺りは真っ暗で、眠りすぎたあとの倦怠感で脳みそが出来たてのイチゴジャムみたいにとろとろと熱かった。 起き上がる気力もなくスマートフォンでTwitterを開くと、TLが僕の話題で持ち切りで、丁寧に遡っていくと、どうやら次のオフ会で僕の耳になにを差し込もうかと相談しているらしいことがわかった。 「君は、合成皮革の匂いのする木星の夢と、トイレットペーパーにインクをたっぷり垂らしてくしゃくしゃに丸めた

          伊藤万次ノ輔断罪日記

          脳みそに関する反省文

          この度は耳から脳みそを出してしまい、大変申し訳ございませんでした。夏の浜辺で熱気に揺らめくパラソルのような色の脳みそだとのご指摘には弁駁の余地はなく、真摯に受け止めて今後に活かしていく所存でございます。 口から脳みそが出た場合、早急にこれを飲み込み、鼻から出た場合は啜れるのですが、耳から出た場合は自身で押し込むしか方法がなく、京都の小料理屋で酒のアテにした生麩のようなその感触を想像するだに逡巡し、結果として三時間もの長時間に渡り脳みそを出しっぱなしにしてしまいました。周囲の皆

          脳みそに関する反省文

          BFC4一回戦感想

          ☆作り込まれた小説は、その作りが書かれたものと有機的に繋がって作品としての強度を担保しているか。いかようにも解釈の出来るような開かれた小説は、作品から解釈を求める圧が感じられない限り感じたままを。 ☆(最初に言い訳)今回、自分で感想を書いてみて、他の人の評も読んでみてわかったことは、自分には圧倒的にかけている視点があるということでした。作品があって、それを受け取った自分以外の誰かがどう思うかという視点であって、改めて振り返るとそういうのを自分はほとんど度外視していて、分かり

          BFC4一回戦感想

          歩き旅から帰ってみて

          歩き旅が終わって配偶者と京都で合流して、一日目は清水寺と錦市場、二日目は金閣寺と龍安寺と嵐山と伏見稲荷、行きたいとこ全部行く弾丸ツアーして帰ってきて、そこからまたあれやこれやと動き回ってしまったので、明日はゆっくりスーパー銭湯にでも行こうかしらと思っています。 新しい仕事のスタートする日も決まって少し緊張。そこはなるようになるしかないから。 旅はもともと自分の中のなにかを変えたくて始めたことじゃなくて、純粋に歩きたいという気持ちだったので、旅によってなにか変わったというとやっ

          歩き旅から帰ってみて

          歩き旅16日目

          今日は草津宿の少し先から、京都の三条大橋まで歩きました。これで東海道五十三次を踏破しました、嬉しい。 到着したら達成感があるのか、それとも旅の終わった寂しさがあるのか、と考えていたのですが、橋がみえた瞬間に思わずぐっときてしまいました。そういう感動って予想していなかったのでちょっと不意打ちでした。 橋を渡る手前で写真撮ったり欄干に凭れて川面をみつめたりして、なかなか渡り切れなかった。終わらせるのがもったいないというか。 鴨川って本当にきれいですね。宮沢賢治の銀河鉄道の夜で、川

          歩き旅16日目

          歩き旅15日目

          今日は滋賀の草津の少し先まで来ました。 草津は中山道との追分になっていて、ここでふたつの街道が合流します。伊勢参りと東海道の分岐点である日永の追分に着いたときもそうでしたが、主要な道が交わったり別れたりするところってなんか感慨深いです。 時間に余裕があったので、草津宿の本陣を見学したり、資料館のようなところを見学したりしました。 いままでの宿場でも本陣が見学できるところはあったのですが、余裕がなくてスルーしてしまっていたので楽しかった。でも自分が江戸時代の人間だったら本陣でな

          歩き旅15日目