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展覧会:千葉雅也『マジックミラー』『幅が広い踏切』『間違えたらもう一度繰り返せ』感想

2022年ことばの学校第二期の講義で、佐々木敦が千葉雅也に「長編小説を書いてほしい」と言っていて、私はそれを聞きながら、そりゃあ勿論読みたいが(読みたくないわけがないが)、その前に短編小説をもっと読んでみたい、と思っていた。 短編『マジックミラー』が好きだからだ。そして、「好きだから」という以上に、『マジックミラー』は中編『デッドライン』『オーバーヒート』よりもモチーフの配置が明確で、構成を理解しやすいからである。「意味の手前において展開している要素の関係性に意識を向け」、

    • どこなに#3 銀座

      冬の銀座に、歌舞伎を観に行った。 二月大歌舞伎の初日、演目は『三人吉三巴白波』。節分の夜を舞台に幕が開ける演目を、ちょうど節分の時期に観ることができた。 意図してそのように取ったという訳でなく、「一度、歌舞伎観てみようかな」と不意に思って予約したチケットだったが、結果として良い籤をひいたような気分になる。 歌舞伎座は確か数年前だかに改築したんだよな、という知識だけはあって、とはいえ前の姿を知っている訳でもないので特に感慨もなく、土産物屋の並ぶ1階部分を一回りする。 エスカ

      • 趣味の学習記録#5

        第5講、無意識について。 フロイトの”無意識の発見”について考えるとき、必ず思い出すこと。 中学か高校の頃、橋本治の長大な本『二十世紀』で見かけた記述。以下、記憶に基づいての概要。 ”一時期自分は占星術について調べていた。それで、二十世紀のある時、冥王星が発見されて、以降、ホロスコープを作るにあたり、その存在を勘定に入れて考える必要が出てきた。そうなると、一番遠くにあるその星の影響範囲は大変広く、実質全てがその影響下に入ってしまう。………これは何かに似ている。あっ、そうだ、

        • どこなに#2 築地市場

          どこかにいってなにかを書く。岸本佐知子『死ぬまでに行きたい海』方式の作文、2回目の試み。 3月某日、築地市場に行った。 元々は、家人がその近辺で用を済ますのについていった形で、特に文章を書くつもりはなかった。せっかくだから浜離宮恩賜庭園に行ってみようと思っていただけだった。 しかし築地市場駅から庭園に向かって歩くうちに、なんだか不思議な場所だと感じて、写真を撮った。 右側前方、向かって行く先には巨大ビル群があり、左側後方にはぱかんと開けた埋立地がある。左右でまるで異なる

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        展覧会:千葉雅也『マジックミラー』『幅が広い踏切』『間違えたらもう一度繰り返せ』感想

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        • 私的学習記録
          6本

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          趣味の学習記録#4

          第4講まで修了。ここまででざっくり「①精神分析の歴史と基礎知識」編が終わったというところか。ここから精神分析理論の内容に入っていく。 第4講では、日本精神分析学会と日本精神分析協会の違いについて把握するのに手間取った。これまでも藤山直樹『集中講義・精神分析』などに出てくるのだけど、よく分からないな・・・名前似てるし・・・とテキトーに読んでいたところが、ようやく整理できた。 教科書としている『現代精神分析基礎講座』は第三者的な記述が多く、ディティールが見えてこない。『集中講

          趣味の学習記録#4

          趣味の学習記録#3

          趣味の学習記録#3。第3講は「フロイト入門」、全体に散漫な印象で、まとめるのが難しかった。北山修の語り口は魅力的だが、あまり自分には合わないように思う。 フロイトが芸術に惹かれながら「音楽などでは、ほとんど愉快を感じない」という性質だったのは興味深い。これって、精神分析がガチガチに言葉を用いる営みであることに関係しているのだろうな。藤山直樹のテキストでも、あまりそのことについて触れられてはいなかったように思う。何か文献あるのだろうか。 何かを学ぼうというとき、以下が大事だ

          趣味の学習記録#3

          知らない街に里帰り

          岸本佐知子『死ぬまでに行きたい海』を読んで、似たようなことがしてみたくなった。すなわち、知らない街を訪れて、何かしらかの文章を書くということ。
それで、宇都宮に行くことにした。都内からほど近く、千葉雅也『エレクトリック』の舞台となっている。作品内に地名がたくさん出てくるので、実際に見てみようと思った。折角なので、極私的・宇都宮ガイドも参考として行く店を選ぶ。 東京から宇都宮に行くには大宮で宇都宮線に乗り換える。そこから快速で、約1時間30分。
ところで、私は群馬は高崎の出身

          知らない街に里帰り

          趣味の学習記録 #2

          趣味の学習記録#2。第二講は「精神分析小史」、精神分析の歴史を概観する内容なので、以下を学びのポイントとした。 ・重要事項を時系列に沿って押さえる ・学派名と、属する人名を正確に記憶する ・各学説の影響関係を把握する そのようにしてレポートにまとめてみると、改めて自分が興味が主にフロイトの中期までの古典理論にあるのがわかった。 家人にレポートを提出。自我心理学と対象関係論はなぜ対立関係にあるのか聞かれ、答えられなかった。それぞれの特徴も、まったく追い切れていない。 「なぜ

          趣味の学習記録 #2

          千葉雅也『エレクトリック』感想

          『エレクトリック』を読み終えて、しばらくぼーっと内容について考えていたらふと、『デッドライン』の一節が頭に浮かんだ。 これは、人々がインターネットによって一つにまとめ上げられる手前の物語。そこにあった何かを、未来に逃がそうとしている。そんなふうに思った。 1. 変身 物語においては、始まってから終わるまでの間に何らかの変化が起こるのが常だ。大体は主人公が変化する。少年から青年へと成長し責任を引き受けるようになる、とか、少女の髪が落とされる、とか。 しかし『エレクト

          千葉雅也『エレクトリック』感想

          趣味の学習記録 #1

          予定通り趣味の学習計画第一回を終えた。学習内容はA4で二枚程度にまとめ、レポートとして家人に提出する。noteには所感を書く。いずれも、そのようにすることで自身にプレッシャーをかけ、学習を継続させるためである。
 出版されている講義録は、現在公開されている21年のプログラムとは少し内容が違った。ので、書籍の内容を元に進める。最も印象に残った一節は以下。
 精神分析の基礎年ほど前から、言葉を正しく扱うにはどうしたらよいか、何かと考えていたので、響くものがあった。
 また「

          趣味の学習記録 #1

          雑記、あるいは【ただならぬ道】円城塔『Boy's Surface』感想

          物心ついた頃から漫画が好きで、漫画家になりたいと思い、人生の前半ずっと漫画を描いて生きてきた。ところが数年前から何故だか文章が書きたくなり、それまで思ってもみなかった、「小説を書く」ということを、自らのものとするようになった。 中年期まっただなか、今さら職業小説家を目指すわけでもなく、ただ日々の楽しみとして文章を書き、何十年後かに1作仕上げられたらいいなと、そんなことを思っていた。しかししばらくして気づく。この道は、やばい。漫画家を目指し漫画を描いていた自分からすると、小説

          雑記、あるいは【ただならぬ道】円城塔『Boy's Surface』感想

          趣味の学習計画 一般人が精神分析を学ぶには

          前置き 私は精神分析に興味があり、これまであれこれランダムに入門書を読んできた。そしてここにきて、もっと学びたくなった。すなわち、 ・系統立った知識を ・一定の期間を定めて ・できたらテスト/レポート付きで 学びたい。 そこで、どうすればそれが可能か調べ、学習計画を立ててみた。ここにその学習計画を記しておく。これには自分と同じように、趣味で精神分析を学びたいと思っている中年会社員(はたして、いるだろうか?)の参考になれば、という思いと、計画を公開することで後戻りができない

          趣味の学習計画 一般人が精神分析を学ぶには

          “ない記憶が蘇る”と、『一ノ瀬家の大罪』第1話

          11/14発売週刊少年ジャンプ、タイザン5『一ノ瀬家の大罪』第1話を読んだ。そして、そういえばネットで「ない記憶が蘇る」って言い方(ネットミーム?)あるよな、と思った。 
初めてその言い回しを見たとき、「うまいこと言う」とも思ったし、「気味が悪い言い方だな」とも思った。新しい、でも聞いて一発で意味がわかる、ある種の感情に対する”名づけ”。新しい言葉は必ず少しの違和感を含んでいて、だからこそ人の意識に引っかかり、流通する。私は「ない記憶が蘇る」という言い方の、自他の区別のなさ

          “ない記憶が蘇る”と、『一ノ瀬家の大罪』第1話

          金原ひとみ『パリの砂漠、東京の蜃気楼』感想

          『パリの砂漠、東京の蜃気楼』を読む。文芸誌に掲載されていた短編を除いては、ほぼ初めて読む金原ひとみ。絶え間なく押し寄せる自己破壊の衝動を、どうにかなだめすかしつつ送る切迫した日々の記録で、美しかった。言っていることが、昔仲の良かった友人のそれと実によく似ていた。不登校で、鬱で、恋愛によって生きている。友人もそういう人で、しょっちゅうナンパされているところも何か似ている。 その子と、恋愛と生きることの辛さについてのみ、熱心に喋っていた20代を思い出した。
”でも恋愛がない人生

          金原ひとみ『パリの砂漠、東京の蜃気楼』感想

          きちんと仕事ができますように:高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』感想

          面白かった。どこかにある、どこにでもあるような職場が活写されていて、そこに生きる不快な人物たちが書かれている。 主要登場人物の芦川、二谷、押尾には、読んでいてそれぞれ不愉快な思いを抱いた。そうなるように書かれていると思う。この話の感想の多くは、書かれた登場人物の悪口となるだろう。自分の職場にもいる「あの人」に似た_____を、「こういうところがたまらなく嫌」とこき下ろす。そういう、実在の人物の悪口を言っているときに人が感じる快感、と似たものを提供してくれる小説だ。 
その

          きちんと仕事ができますように:高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』感想

          2年越しの暗号

          千葉雅也『デッドライン』を初めて読んだとき、「これはこれまで読んできたどの小説とも違う」と思った。「こんなもの読んだことない」と思い、何がどう違うのかそれからずっと考えている。ずっとというのは、初めて手に取った2020年頭ころからで、都合7回は通しで読んでいると思うが、今だに分からない。 その後『ことばとVol.1』に発表された短編『マジックミラー』は、どういうつくりで成り立っているものなのか、自分なりに少しは掴めたように思った。2021年の『オーバーヒート』も。しかし『デッ

          2年越しの暗号