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紅茶詩篇

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記事一覧

紅茶詩篇『嘯いていたい』

紅茶詩篇『嘯いていたい』

 私は詩人だから
 いつだって何かを嘯いていたい
 少なくとも百円均一のセリアのお店で
 コーヒーフィルターとノートを買っている場合ではない
 私から漂うものがそんな日常の香りと言葉ではいけない
 コーヒーもノートも詩作には必要だけれどね
 私は詩人だから
 もっと嘘のような本当のことを呟いていたいんだ

 私は詩人だから
 さも意味ありげな無意味なことを嘯いていたい
 少なくとも無印良品で買った

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紅茶詩篇『悪魔は神が嫌いじゃない』

紅茶詩篇『悪魔は神が嫌いじゃない』

 悪魔は神様を嫌いなわけではなさそう。
 宗教的な意味に於いて。
 悪魔は神様を狂信しているひとが、
 きっと嫌いなんだ。

 悪魔は神様を嫌いなわけではなさそう。
 文化的な意味に於いて。
 悪魔は神様を知らないひとに嘘を言って、
 からかって遊んでいるだけなんだ。

 悪魔は神様を嫌いなわけではなさそう。
 悪魔学的な意味に於いて。
 悪魔は自分がやったことの取り返しがつかなくなると、
 神様

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紅茶詩篇『凍てつく冬薔薇』

紅茶詩篇『凍てつく冬薔薇』

 うつくしいものが分からないことは、
 怖いものが分からないことと同じくらいには、
 恐ろしく危険なこと。
 世界が終わる冬薔薇の時刻、
 巨悪の心が零してしまったんだ。
 もしも奇跡が消えた夜に。
 喪われた青い星の軌跡の果てに消えてしまった。
 そして忽ち崩れ去った。
 悪は人間を嘲る場所に在るのに、
 うつくしいものへの畏怖に慄える心は持っているらしい。

 うつくしいものへの畏れがない者は

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紅茶詩篇『牢獄』

紅茶詩篇『牢獄』

 私は学校が嫌いだった
 学校での出会い全てが
 何一つとして誰一人として
 私を助けてはくれなかったから
 高校生で心を壊して身体を壊した私のことを
 誰も気づいてはくれなかった
 死にたいとこぼしたところで
 教師は明るく笑ってる
 仕事の方が好きだった
 傲慢な教師みたいな大人は
 一般的な社会にはいないからだと思った
 自分より経験値がない人間を相手にしていることを忘れて
 傲慢を働いてい

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紅茶詩篇『青』

紅茶詩篇『青』

 月夜の青に溺れていた
 肌の肌理が乾いていた
 私は船を漕いでいた
 ひとりの青い海の夜に
 流された血を溶かしながら
 傷を負った肌と肉体から
 この薔薇を守るために骨まで達した恐怖の傷に
 心許ない手当てをして
 清い於血が傷からしみるのを鎖すように隠しながら
 心を神経そのもののように研ぎ澄ましていた
 まるで清い血で恐怖を飲み物とする神のように
 眠りにきちんと癒やされることが約束されて

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紅茶詩篇『死神が通る』

紅茶詩篇『死神が通る』

 私を怖がる皆々
 私を追い払い勝とうとする
 恐ろしいものだと泣く
 或いは汚いものだと嘘を言う
 なのにも拘わらず万策尽きると酷いことを言う
 最も煌びやかで何よりも荊(あざ)やかな私に向かって
 迎えに来い
 どうか苦しみ無いように
 涙も息もなく言うのだ
 あなたはうつくしい
 私に最早言葉はなく
 私を貶す者の終わりに
 彼らの終わりに通りがかったら
 私は誰かの死を迎え送った後に
 そ

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紅茶詩篇『もしも奇跡が消えた夜に』

紅茶詩篇『もしも奇跡が消えた夜に』

 もしも世界から奇跡が消えたら、最初に何がしたいだろうか。
 肌寒い夜の下で、私は妹の顔を見ていた。
 私がそう尋ねると、妹は私の肩に肩を寄せた。
 妹が、奇跡の類いを信じてはいないことを、私はよく知っていた。
 私は漠然と杳(とお)くにいる尊い何かを信じている。この子はそんな私に寛容なだけで、何かを信じてはいなかった。
 私は奇跡なんて、信じていない。
 でも、奇跡は、世界からなくならない、きっ

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紅茶詩篇『酔うべきはうつくしい女』

紅茶詩篇『酔うべきはうつくしい女』

 自分の恋から、恋が分からない女。
 恋ではなくて、異性が好きな女。
 まともに狂ったことがない女。
 何も盗られたことがない女。
 本当に卑しい男から、声を掛けられたことがない女。
 他の誰かを助けるために、手を差し伸べたことがない女。
 いやらしい男から声を掛けられることに悦び、自分は常に手を取ってもらうべき女だと信じてる。
 月の所為にして。月の所為にして。
 一番にはならない女。
 だけれ

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紅茶詩篇『奪われた花だった』

紅茶詩篇『奪われた花だった』

 片思いが痛くて、異常を感じていた。苦しみではなく、痛みだったから。その相手が、私だけが一方的に惨めになる場面でだけ、輝いていたから。
 片思い、一人恋。苦しんだ一人恋だけで学んだ愛だけで、恋の痛みを癒やしていた。痛みに生まれた想いに慰められることを、おかしいと思ったんだ。正しさが私を守っていないことに気づいたんだ。呪いで出来た恋から、誰も私を守らない恐怖を。
 仕組まれていた恋だった。相手は悪魔

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紅茶詩篇『しあわせの女の子』

紅茶詩篇『しあわせの女の子』

 女の子にはお金がかかるよ、お化粧、化粧、基礎化粧。
 女の子にはお金がかかるよ、お茶代、お茶菓子、美容院。
 女の子にはお金がかかるよ、使うと無くなる衛生用品。
 女の子にはお金がかかるよ、お洋服、お洋服、お洋服。
 いい子でいるためのお金、経費にならない交際費。
 私のお疲れとお疲れな人生とのお付き合いにかかる、いろいろなご褒美。
 私がご機嫌でいるためのおやつがご入り用なお昼過ぎに、溜息。

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紅茶詩篇『りんごはうつくしい』

紅茶詩篇『りんごはうつくしい』

 りんごはうつくしい

 完全なる果実の意識体

 朽ちることを嫌う霊界の果実

 うつくしい者が魅せられてやまない輝き

 甘くさわやかな果実

 滴る甘い血液

 喉が上下する

 冷たい水を飲んでいるときのように

 どうしてりんごは

 枯れそうなときに飲む水のような形をしているのだろう

 りんごはうつくしい

 神秘なる意識の集合体

 腐ることを嫌う霊界の果実

 うるわしい者が魅せ

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紅茶詩篇『おくやみ』

紅茶詩篇『おくやみ』

 寝台に横たわる女の子。戦い倒れて死の眠り。

 倒れながら、どの争いの当事者でもなかった子。

 巻き込まれてしまっただけの、やさしい子。

 殺してしまった。汚れた影々を。

 薔薇を抱えて、悪い子の数だけ。

 慈悲と無償のやさしさが分からない悪い子に、髪を切る悪ふざけをされた。

 怯えたふりをしていれば、誰かを傷つけても赦されるというしたり顔が欺けなかったうつくしい子。

 やさしくされ

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紅茶詩篇『壊れた愛と翅根と骨根』

紅茶詩篇『壊れた愛と翅根と骨根』

 無心された慈しみという、動かないままの私がいた。

 背中から羽と血が出ていた。家に帰りたいやさしい子の背中をした私の頬に、涙の線が渇いていた。 

 天使の羽を食べて醜い奇形に姿を変えた懸想男たちの死が、累々としていた。牙から逃れたばかりの私に、灼けつく悋気(りんき)を煙らせながら。私の骨と肌(かお)を食べた者たちは酷い有様。その地獄を天使の所為にする所業に、うんざりしていた。天使を不治の病の

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紅茶詩篇『花を悼む』

紅茶詩篇『花を悼む』

花を悼む

死んだ私を優しく葬る。

柩の中で眠る私を、綺麗になった私が見つめる。

旅立つ私が外套を着るように、眠る私が夜着を纏うように、

白い着物の襟を整え、綺麗な髪を永遠に巻いて、私は羽織る、紅茶の香りを。

語るべき言葉も、零すべき苦悩はもうない唇に、甘い香りの紅を引く。

何の未練もない死化粧をする。

死ぬべきだったと信じていたの、誰に言われたわけでもないのに。

彼女は信じ続けてい

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