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ライブレポート『Dry Cleaning@Umeda Club Quattro』

サウスロンドン勢を迎え撃つ、第二弾。

皆様、記憶にございますか。今夏暮れにビルボード大阪でEmma-Jeanを観て以来、やはりサウスロンドン勢を本域で迎え撃たなくては音楽シーンを語る資格なしとの危機意識に駆られて。激務の合間なんとか日程調整した結果、偶然Dry Cleaningの大阪公演に立ち会えることとなり。先述のblack midi公演が観られなかったことは本当に悔やまれるばかり。仕事のバカヤロー。

サウスロンドンと聞いて、真っ先に思い浮かべるのはやはりジャズ界隈だと思うのです。まさかTom Mischがあそこまで上り詰めるとはですわ。ところが調べを進めていくうち、パンクやポスト・ロックの界隈が実は近年めちゃくちゃ面白くなってきていることに気付き。手痛い意見は目立たないトコで個人的に下さいね、なんせ吹いて飛ぶレベルの泡沫アカウントですから…

2021年デビュー作が、各方面で絶賛の嵐。

Sonic YouthやJoy Divisionの正統後継者と称され、かのIggy Popも彼女達の名前を挙げるほど。初めて1stを耳にした最初の印象は、まさしく80sの後期ニュー・ウェイヴの質感そのまま。The Smiths「The Headmaster Ritual」真っ先に思い浮かべたのはこの曲。アイルランド人を両親に持つJohnny Marrだからこそ出せる、アイリッシュ音楽との不完全なマッシュアップ感覚。

例えばビートルズがインド音楽へ傾倒したように、ドビュッシーが東洋音楽に接近したように。音楽と民族は切っても切り離せない部分がある。主宰の思い描く理想のニュー・ウェーヴはどちらかといえば芋っぽい、ある意味で完成されていないまさに「サナギから成虫へ」といった類の音像でして。Dry Cleaningの1stは新しい時代を予感させた、21年屈指の名盤と言えます。

Florence Shawの歌唱論。

ポエトリーリーディングあるいはスポークンワード、果たしてこれは「歌」なのか否か。美大卒業後、絵画の講師として働いていた彼女が突如音楽経験ゼロのままバンドマンに。先月、同じく梅田クワトロで観たElephant Gymもまた結成当初はインストが主体だった。歌い届けるというよりは語り掛ける側面が強いのは、彼女が教育者であるというパーソナリティの裏返し。

過去のインタビューではMF DoomやRammellzeeの名前を挙げるなどヒップホップへの造詣も深い。Tokyo No.1 SOUL SETで言えばBIKKEのアプローチに近いでしょうか、つまり調子や抑揚の変化さえ付けば全て音楽たり得るのだという証左でもあるのかも。昔、リスニングCDを素材にDAW制作していた中学生時代が懐かしく蘇ってきます。「語り物」としてのポスト・パンク。

寡黙な(あるいはぎこちない)ステージングにも期待。

ましてやコロナ禍、マスク完備の大阪勢を目の当たりにしたFlorenceの心中やいかに。といった部分も含め最先端の音世界に酔いしれたいと思います。彼女の立ち姿もまた、主宰が崇める「サナギから成虫へ」を体現していて。とはいえまずは腹ごなしをば。「笑福 大阪西中島店」にて、辛味噌ラーメン並ニンニク少なめ全マシ。

物販でロングスリーブを買うと、もれなく粗品まで付いてきた。最初期のEP『Sweet Princess』やグッズTシャツから象徴的に日本語表記が宛てがわれているのは、なんだか嬉しいですよね。漢字のタトゥーをカジュアルに彫る海外勢方も近年増えてきた印象、バンド結成直後にメンバーのLewisが旅行で日本を訪れていたこともまた何の巡り合わせか。

客入れBGMがやに不気味。

丁度開演予定時刻に差し掛かった頃、突如Todd Rundgrenなんて流れ始めたものですから。嘘やろ…と思わず口に出てしまいました。ポストパンク現場でまさか「I Saw The Light」を耳にすることになろうとは、MF TomlinsonやCaptain Beefheart辺りも中々に意表を突かれる選曲でした。かと思えば突如D. Tiffanyが梅田クワトロをダンスフロアに変貌させ、不思議な魅力全開。

アンコール含め17曲、約1時間半のステージ。

M-1 Kwenchy Kups
M-2 Gary Ashby
M-3 Scratchcard Lanyard
M-4 Viking Hair
M-5 Her Hippo
M-6 Hot Penny Day
M-7 Leafy
M-8 Stumpwork
M-9 No Decent Shoes For Rain
M-10 Don't Press Me
M-11 Conservative Hell
M-12 Driver's Story
M-13 Strong Feelings
M-14 Unsmart Lady
M-15 Magic of Meghan
En-1 Tony Speaks!
En-2 Anna Calls From The Arctic

定刻を10分ほど過ぎステージイン。前日のリキッドでは水を握り締めたまま緊張の面持ちで歌うFlorenceの姿がとても印象的でしたが、この日は終始リラックスした雰囲気。マスクで口元の表情が読み取れない難しさ、初来日公演の喜びを踊り狂うではなく「酔いしれる」姿勢で表現し静かにそして温かく迎え撃つことを選んだ大阪のファンは、彼女達にはどう映ったか。

冒頭「Kwenchy Kups」から「Gary Ashby」そして「Scratchcard Lanyard」までの流れはもう、完璧、と表現する他ない。その昔Radioheadの来日公演でのっけから「Reckoner」→「Optimistic」→「There There」の3連打を食らった、あの感覚に限りなく近かった。太融寺町にサウスロンドンの風が吹き込み、底知れぬアナキズムと哀愁の波が押し寄せる。

中盤、着実に呑み込まれていく。

曲中、執拗に髪を触る仕草。不意に客席へ目をやったかと思えばすぐ目を逸らし虚空に目をやる、そのくせMCでは嘘みたいに照れ笑ってみせたり。まさにFlorence百面相、ふとしたステージングの危うさすら強烈なスパイスとなっていた。こうなることを見越し、主宰はハナからホール席1Fの最後列ど真ん中に陣取る。何度も目が合いました、すぐ逸らされましたけど。好き。

ミドルネームはCleopatra、まさしく彫刻のような美しさでした。中盤「Her Hippo」から新アルバム収録の「No Decent Shoes For Rain」まで続くメランコリーの応酬は、ある意味ファン力を試される濃密で至福のひと時。本公演のハイライト。退屈、通り一辺倒と感じた層は敢えなくここで振り落とされたかもわかりません。機微に触れる音楽、モーダルを楽しむ技量とセンス。

Tom Dowseのギターワーク、Nick Buxtonの包容力。

界隈では既に、変態ギタリストの名を欲しいままにしているTom。SG使いの代表格といえばKim GordonあるいはJim O'Rourke、やはり下馬表通りSonic Youthの影響は色濃いか。アンプ上に所狭しと並べられたBossやAVEX。繊細な楽曲のピラミッドを自在に行き来できる確かな逸材っぷりで、視覚的魅力でもって我々を存分に楽しませてくれた。

他方、Primaveraから大きくセッティングチェンジが施されたNickの金物類も泡沫ドラマー的には目が離せない。ジャズドラマーばりの大口径シンバルが並び、往年の危なっかしいパンクドラマー達とは明らかに一線を画す存在。敢えて語弊を恐れず書けば、あの学芸会みたいなスキルにすら音楽的振れ幅を感じさせるものですけれど。実に正確無比、ウォームな質感が崩れない。

耽溺した者だけが進めるSASUKE 3rdステージ。

「Don't Press Me」→「Conservative Hell」→「Driver's Stage」まで新アルバムで固めた後、前作から「Strong Feelings」→「Unsmart Lady」そして銘曲「Magic of Meghan」と円熟味を増したパフォーマンスが続く。バンドとしての成長曲線が著しいのは勿論のこと、耳にタコができるほど聞いたはずのあの曲が全く違う響きで観客席に届けられる感動。観に行けて良かった。

Florenceの歌い姿には若き日のIan Curtisが信じられないほどバッチリ重なりますし、例えば主宰が80年代の後半ニューウェーブ成熟期に生を受けていたら間違いなく人生を左右していたであろうバンドです。遅れてやって来たルーツミュージック、記念すべき人生初のパンク現場に応えてくれた稀有なバンド。これからも全力で応援したいと思います。

是非、現場で目撃して下さい。

コロナ禍を挟んで、まだまだデビュー5年の新星。こなれたステージングもなければ客席の煽り方も絶妙に手探り感が残っている今だからこそ、観る価値が高い。息の長いバンドとは言い難いほどのキワドい音楽性とバランス感でもって、サウスロンドンの「現在」を形作っているバンドです。目の前のチャンスを逃すと、正直次がないかもわからない。

急遽タワレコで取り寄せたSo Young Magazine日本特別号を読みつつしばし余韻に浸る毎日です。Sonic Youth『Washing Machine』にちなんだバンド名なのかと思いきや、意外とそうでもないのかあるいは壮大なブラフなのか。Puffy Stickersなんて候補もあったそう。18世紀中盤フランスに起源を持つ、衣類の汚れって油で取れるのねん!?から始まったサウスロンドン歴史絵巻。

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