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大人の修学旅行。第五話

2023シーズン、第2戦。

台風一過の8月某日、ふと心に浮かんだ日帰り旅の行き先は「御影」です。急行・通勤急行そして普通電車が停車し、神戸三宮までだって目と鼻の先。それこそ毎年の誕生日にはいつも「御影高杉本店」苺のショートケーキが、狭い我が家の食卓に彩りを添えてくれていたものでした。主宰がはっきりと記憶している「御影」の風景は、閉店前の記憶のままずっと止まっている。

大切な叔祖父を見送ったのは、今年5月暮れのことでした。転移性脳腫瘍と診断されてからは娘家族のいる関東へ移り、穏やかな日々を過ごしていたと訊いています。旅立つ直前にはLINEのビデオ通話でほんの少しの間だけ言葉を交わすことも叶いました。なにかこうSNSに蔓延しがちな息苦しさはふとこういった節目節目において払拭され、不思議な力強さを纏うものです。

7人きょうだいの食卓に並べられる料理はいつも、キレイに7等分。キレイに7等分するのって結構無理ゲーなんじゃない?とつい天然由来のノンデリが飛び出しがちな主宰に対しても常に真摯に笑顔を絶やさず向き合ってくれる人でした。あの家系の男子は癖になっちゃう笑い顔が特徴的なんですよね、少しくらいのイタズラなら簡単に許せてしまう。「人徳がある」証拠だ。

霊園の脇。緩やかな上り坂と表現するには些か勾配がキツ過ぎる気もする、そんな細い小道を汗だくになりながら目的地の手前ちょうど七合目辺りまで差し掛かったところで、しもたバケツに水汲んでくるの忘れた。と気付く。おじちゃんとの思い出ばかりに気を取られ、あるいは10数年前の記憶が確かならもっとこう鬱蒼とした森の中にあったはずの景色がそこにないせい。

お茶目なおじちゃんと、束の間のかくれんぼが始まりました。今ここでお水を汲みに戻ると片手にズシンとのしかかる重みが後でボディブローのように効いてくるはずでしょうから、一旦頂に旗を立ててから(リュックと傘だけを置いた後で)歓喜の舞とばかりに元来た坂を駆け下りればいいだけじゃない。天然由来のノンデリだもんで、延々墓地でキョロキョロしちゃうんだぜ。ニチャア。

小雨がパラつくとっても蒸し暑い日でした。クリスチャンのせがれとあってお盆だとかお彼岸だとか、たまにちょいちょいお墓に顔出してみるだとか。なにかそういった部分がすぽんと抜け落ちていたような気がして、丁度30歳を迎えた辺りから一転し「遅過ぎた家族孝行」に大きく打って出た訳です。いつかまた会えるではなく会いたい時が「その時」なのだと心に刻みつつ。

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