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秋を炊く2018

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記事一覧

土鍋で秋を炊く① 秋の枝豆はせつなくて

土鍋で秋を炊く① 秋の枝豆はせつなくて

人の言葉に浸かり、ことんと眠りたい。なにを知ったふりして、人に作品や料理を紹介しているのだろうか。無意識に残るよそからの情報をあたかも自らのもののように紹介していないだろうか。そんなもやもやを少しでもクリアにするために「旅する土鍋イタリア」は旅に出かける。

ガヤついた喧騒と言葉。
セミの声しか聴こえない静寂と言葉。
天に顔を向けながら、オリジナルな言葉が湧き上がるのは、その場の風や香りのおかげだ

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土鍋で秋を炊く② サンマごはんに耳をすませば「3つの土鍋ごちそうサウンド」

土鍋で秋を炊く② サンマごはんに耳をすませば「3つの土鍋ごちそうサウンド」

耳をすませば「ごちそうさまサウンド1」

土鍋の蓋をあけるとき、ゴロゴロンと蓋と本体がすりあう土の音が好き。あの音は、金属の調理器具にはない、ひとつめの『土鍋のごちそうサウンド』。

旅する土鍋は、深く根っこをおろし、目をつむり深く息を吸い、土着を楽しみ、考える。

土鍋で炊く秋刀魚ごはん

秋刀魚が食卓にあがったら手を合わせるように喜び、頭から尾まで食べ、きれいに削がれた背骨だけが皿に残る。焼い

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土鍋で秋を炊く③ 「干し大根としめじ」のごはん

土鍋で秋を炊く③ 「干し大根としめじ」のごはん

ふろふき大根

だいぶ冷えるようになった忙しい秋の晩。ふろふき大根を煮た。シンプルに辛子をつけて食べる一品は、汁も飲み干したくなるほどおいしかった。

翌日は、残った大根のお汁でごはんを炊く。お米に、しめじ、自家製の切り干し大根、ショウガを入れて。先の汁を入れる。

秋晴れの日につくる「切り干し大根」

もう20年くらい野菜を送ってもらっている山梨の農場の大根。無農薬の大根なので安心して皮ごとステ

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土鍋で秋を炊く④ 「ふかし芋」とピエロ

土鍋で秋を炊く④ 「ふかし芋」とピエロ

浮遊感をたのしみつつ、ピンとはった綱をピエロみたいにバランスとって歩く。個展まで1ヶ月。ここらでリミットが出てくる勝負どころだ。陶芸は「完成」まであらゆる工程があり、仕上がりを逆算しながら進む。もう戻れない。

イタリアでの工房修行を終えて帰国したころ、日本に自分の歩むべく「陶芸の綱」が足元に見えない!と気づいたのは、かれこれ19年前のこと。家人は猛烈に海外出張に出ていたし、乳飲み子がいるのに、ど

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土鍋で秋を炊く⑤ 「生秋鮭の土鍋ごはん」

土鍋で秋を炊く⑤ 「生秋鮭の土鍋ごはん」

みずから旅する身であるからこそ、旅の途中の「秋鮭」に、深く手をあわせ「いただきます」と言う。

生秋鮭の身に塩をこすりつけ、酒に数時間浸し、米に入れて炊くだけ。「ごちそうサウンド」コトコト沸騰したら弱火にして20分。ラスト3分間は強火にしてパチパチと水分とばせばおこげに。10~20分蒸らす。※大根の葉っぱがあったので刻んで一緒に蒸らした。

酢飯にしてシソと白ゴマを散らしてお寿司にしてもいい。

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土鍋で秋を炊く⑥ 「生落花生」と秋の土

土鍋で秋を炊く⑥ 「生落花生」と秋の土

落花生収穫の季節。ぽろぽろ、こぼれんばかりの根っこについた豆々。春とは違う秋の土のニオイは、子どもの頃に行った落花生掘りを思い出す。さつまいも掘りの土のニオイと似て非なり。落花生畑は、乾燥した土のニオイがする。

生落花生こそ秋の旬。生鮮野菜と同じように水分を保っているので、新鮮なうちに蒸す。茹でるより蒸すのが好き。半分は「落花生の炊き込みごはん」(後日ご紹介予定)にしたので、残りをミニ土鍋で蒸す

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秋を炊く⑦ 「菊の花としかめっつら」

秋を炊く⑦ 「菊の花としかめっつら」

野草にならび野花を食べるのが好き。東京に住んでいるとなかなか難しいが、エディブルフラワー(食べられる花)もだいぶ店の棚に並ぶようになった昨今。古にさかのぼり、花を食べるといえば、紫蘇の小花や菊。お刺身の横に添えてある可憐な演出、ではなくて、効能ある演出。古代中国で薬として用いられていた菊には殺菌・抗菌効果が期待できるということで、お刺身の横に置いてある。

⁂  ⁂  ⁂

さて、秋の菊といえば

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土鍋で秋を炊く⑧ 「秋ごぼうの鶏ごはん」

土鍋で秋を炊く⑧ 「秋ごぼうの鶏ごはん」

秋の根っこ「ごぼう」を食べよう!

さて、根っこといえば。個展まで秒読みなので、作品に隠れている「あしあと」と「根っこ」のヒミツをお教えしよう。イタリアに長く住んだものの、かの地に根を張るということが、どんなに難しいものであるかわかったからこその「根っこ」と、それとは反対に、確実に残してきた「あしあと」。この20年あまり、作品に残しつづけているシンボル。

映画「ショコラ」(ラッセ・ハルストレム監

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土鍋で秋を炊く⑩ 「さわらのトマトスープ」

土鍋で秋を炊く⑩ 「さわらのトマトスープ」

日本のおいしい秋の旬を煮込もう。八百屋に並びはじめた露地物の秋白菜とさつまいも、そこに、脂と旨味たっぷりな鰆(サワラ)を加える。出汁なんかいらない。土鍋の蓄熱効果で、食べ終わるまで熱々だ。

春の魚と書いて「鰆」(サワラ)。春になると卵を抱えて瀬戸内海に入ってきて「春を告げる」ということから、春の季語でもあるが、脂がのった鰆はこれからが美味しい。

イタリアの魚屋で魚を選ぶのはむずかしいけれど楽し

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秋を炊く⑪ 「でこぼこ道の新しょうがごはん」

秋を炊く⑪ 「でこぼこ道の新しょうがごはん」

人は自分の道をあるくのだけれど。そこにある仕事や遊びや、食べることや寝ることを自分なりに整備したり趣向をこらすのだけれど。

子育てや介護や、動物や虫や花や農作物を育てたり、どの道にもほかの生きものの息吹がまざり凸凹になる。

理想ばかり語りながらコツコツすてきな靴で歩くより、凸凹をのりこえる運動靴が必要で。その泥まみれ、埃まみれの靴をながめるたびに、自分の道をあるく勇気が出るのかもしれない。

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秋を炊く⑫「秋のえごま塩のふりかけと玄米ごはん」

秋を炊く⑫「秋のえごま塩のふりかけと玄米ごはん」

蓼科のギャラリーに行く道すがら、直売所で「あぶらえ」を買った。この名前に親しみがなく、えごまに似ているな?と思って手に取る。その場で調べると、やはり「あぶらえ」とは「えごま」。昔から飛騨や茅野で盛んに育てられているようだ。お肉を巻いて食べたりする「えごまの葉」は各地で流通しているが、「えごまの種」は東京であまり見かけない。

春蒔きは、夏に葉が出て収穫。葉がおちた秋に種を収穫するそうで、この時期な

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秋を炊く⑬ うちの土鍋は割れている!?「ブリの白ネギ土鍋炊き」

秋を炊く⑬ うちの土鍋は割れている!?「ブリの白ネギ土鍋炊き」

個展搬入があさって木曜日に迫り、お腹ばかり空いている。

ぼちぼちブリ系の魚が元気に登場してきた。焼き目をつけたネギと、酒と醤油と甘酒のたれに一晩つけたブリの切り身を土鍋にいれてくつくつ煮込む。お鍋は浅めの土鍋がいい。魚は切り身のブリでいい。しみじみ飲みたい~が、歌っている場合ではない。個展前の大あらしのため泣く泣くあきらめる。土鍋はうっすらオリーブオイルを全体にぬるといい…も、加えて歌いたい。ち

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パカっと!あけてとじる幕

パカっと!あけてとじる幕

銀座での個展 –秋を炊く− 閉幕しました。写真は我が家のミニミニ土鍋でつくる「めだまやき」です。

学生時代から考えると、30年以上の陶芸道を歩んで参りましたが、わたしのこの道まだまだ草むらです。今回の銀座ギャラリー企画展は、イタリア帰国後13年前から、ほか横浜も同時期から定期的に開催していただいていますが、作家一人では決して舞台をつくれません。

note記事やコトバにはみえないもののひとつに「

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ちょっとブレイク なぜえんえん嗚咽するくらい心の中で喜びの涙を流すのか

ちょっとブレイク なぜえんえん嗚咽するくらい心の中で喜びの涙を流すのか

今回の個展で展示即売させていただいた数百点のうつわは、おかげさまでみなさまにお選びいただき手元から笑顔でさよならしていった。息子や娘が手から離れていく気分。育てた育てた!という達成感に近い。

生んで育てて(デザインして成型して)、いい子もわるい子も(いいものもわるいものも)ないんだよ「これが個性だよ」と育てる(つくる)ことは、時間や対価に代えられない。

太陽や月がない世界なんて

全日満員御礼

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