記事一覧
『未来』4月号掲載7首
本心を嘘に隠してやり過ごす朝はまたもや嘘をつく
雨
屋上でアステリズムを見上げている星のポリフォニーが響き渡る
努力(コナトゥス)を心掛けつつ今日もまた職場へ向かう変わらぬ朝(あした)
祝福をされることはないそれでも砂漠の日々を生き抜いていく
夜もまたひとつの太陽だと知ったこれでまた私は生きていける
宇宙の風よあなたの魂を呼び覚ませ私はあなたとともに在りたい
名が名が刻まれた
『未来』3月号掲載8首+α
無意識の夢と現のあわいにてラピスラズリの蝶が舞っている
肉体は魂の舟 遺伝子の川を漂うGeneのさざなみ
至福の日々を過ごすきみに花束を天使の集うスピノザの海
最期の地は何もない極地なり灰色の風が吹いている
無能力は生のすべてを阻害する絶対的な悲しみあふれ
悲しみの果てには瑠璃の悲しみの彫刻があり集められゆく
朝方のぼやけた意識の心象の花野で猿が僕を見つめる
月光がきみの御髪をかがや
『未来』2月号掲載8首
目の前の景色はすべて生き地獄鬼などおらず人の業なり
死者たちの黒き葬列が私たちを誘ってゆく夜の果てへと
夜明け前のカゲロウたちは闇へと溶けて夢を漂う
老境の名もなき王が月の砂漠を征くエーテルの風が吹く
千の天使がバスケットするはつあきの私の不安が躍動する
コスモスが広がっていく白昼夢宇宙に咲く一輪の華
かなしみを黒壇の黒で塗り潰す白から黒へ闇が訪れる
紅葉の赤は人から流れた血の赤パレ
『未来』1月号掲載8首
眠れぬ夜も病める日々も朝は来るきみのおかげで世界は回る
手を繋ぎ硝子の海を見ていよう静寂のまま漂っている
満月が静かに照らす夜の海の波は流れて生命は揺れる
三億の時の流れを漂ってカゲロウたちは生を繋げる
八月に別れを告げる時が来るトンボが飛んで九月は来たり
目をつむり静かの海を歩きゆくあなたの祈りは星の降る夜
我が心すべてあなたに委ねんと楓のような日常となる
喜びや悲しみは移りゆくも
『未来』2023年12月号掲載7首
失った翼を嘆き小夜の街へ僕はまだ飛べるのでしょうか?
生の果て繰り返される輪廻転生(サンサーラ)僕らは何度も生まれ変わる
それぞれの風の中にいるわたしたち(いつまでも風は吹き続ける)
新しい歌が生まれて育ちゆくこの瞬間がただ愛おしい
獣(けだもの)は法治の檻に潜みおり反逆のために爪を研ぐ
きみよ眠れ宇宙の終わるその時に起こしてあげる最後を見よう
果てしなく広くて遠い草原で狼が歌を歌って
『未来』2023年11月号掲載7首
ぼんやりと海を漂う夏の朝聴こえてきたよ海の静寂
電子の界を彷徨う新しきアリスがあらわれることはあるだろうか
白夜(はくや)に揺れ水中に消える白い花眩む視界に愛憎も揺れる
Heavy weather 雨、我々は無力なり祈りを捧げ明日を待つ身
銀河にはひとつになったきみがいて明日はきみの手に真理はきみの瞳(め)に
脱け殻のように生き抜く虚しさよいずれは踏まれ忘れ去られる
月光が曠野を照らし
『未来』2023年10月号掲載9首
きみの目に暗黒はいま光りつつ黒い紫陽花の造花の心よ
虚無をまとい煙のように人が消え、男たちは証拠を奪った
女たちは答えを隠し立ち去った私は消えた跡を探す
満月の光で息を吹き返し街は真夜中に活動する
夜を駆けるマキャベリストの子供たち成長してもそのままであれ
盲目の老詩人は秘密の鍵で無限の図書館へと消えた
そびえ立つ絶望の塔は膨張せり夜道を歩く人々を喰う
現代のソドムとゴモラでは何が起
『未来』2023年9月号 掲載8首
君のことも名もなき花も曖昧だalexithymia(記憶喪失)の夜が更ける
水のように自在に変わる自らを目指して生きよと願う深夜
傷痕を指でなぞったその先の荒野にコヨーテの群れが吠ゆ
選択肢のない日々をただ選ぶのみ踏みにじられるためにある花
私が死んで別の私が現れる火花が散って曖昧になる
廃市で終焉の音(ね)が鳴り響く死と乙女の影が消え去る
何度でもこの瞬間は繰り返す王を弑するナイフ輝
『未来』2023年8月号 掲載7首
闇ぬちに光閉ざせば永遠に感情のないまま漂える
曖昧で生きることさえままならず苧環抱いて泣きながら寝る
鈍色の蝶が『審判』に止まった魂の鱗粉が舞い散る
哀しみは未だ癒えずにただ一人己の天使を胸に抱いて
きみが閉じた心の裏側に光が満ちるようにと祈っている
美しき春の死骸が横たわり世界の終わりが笑っている
魔法解け見上げる空は浅黒く夢や希望は必要がない