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短編小説その1「人魚姫の泡」
短編集その一
人魚の泡
人魚の泡は無数に浮かび上がる貴重な宝飾品である。日差しに輝きながら昇って行く、どことてあてなどなくとも昇り続けるけれど、人魚姫が泡となって解体したのではない。そのそこの島に人魚姫はまだ横たわっている、王子様の頭を膝の上に載せて、歌を歌いながら優しく頬を撫でて通過する船を眺めている。泡を生み出すのは人魚姫ではない、優しく撫でる王子様の頬が溶けて人魚のような淡い泡が立ち上っ
丸山眞男著 「現代政治の思想と行動」を読んで
日本の思想に関して、何冊か興味を持ち読んだ本がある。このうち一冊を紹介したい。まず丸山眞男の「現代政治の思想と行動」である。本書は著者によりコレクション(選別された短論文)された、政治というより、全体主義またはファシズムを中心に記述している。無論、斜め読みであるが、丸山眞男の思想の核は記述されていず、思考はあっても思想の無い本であると判断している。この思想の無いという意味が、彼自身の思想が記述され
もっとみる題:マーク・ルラ著 佐藤貴史・高田宏史・仲金聡 訳「シュラクサイの誘惑 現代思想にみる無謀な精神」を読んで
哲学者とその政治行動に関する冒険的なエッセイである。分かりのよい文章で哲学者の思想の紹介にもなっているが、僭主政治に手を染めた者を非難する一貫した姿勢はとても厳しい。たぶん、著者は哲学者が真理へのあこがれと同時に具体的な秩序づけ(政治)を行いたいとする欲望との間には関連があり、この衝動が、無謀な情熱とも成り得ることを人間の心の中にあることを見抜いていたプラトンの考えを受け継いでいるのである。即ち心
もっとみる伊藤整著 「小説の方法」と「小説の認識」と「近代日本人の発想の諸形式」を読んで
半年以上前に読んでいて、感想文を一つ一つ書こうと思ったが、余り思い出すことがない。内容にそれほど斬新な思想も無いため、結局まとめて書こうと思ったのである。これらは短論文の形式を取っていて、それも何度も訂正し再出版したらしい。著者の苦労の割には伝わってくるものが少ない。文章の切れがあまり良くない、使用する言葉の定義も成されていない、また些か論理に欠けるところがある。良く分からないところもある。たぶん
もっとみるハインリヒ・v・クライスト著 山下純照訳「こわれがめ」と種村季弘訳「チリの地震」を読んで
「ドゥルーズ 千の文学」で大宮勘一郎は「クライスト 群の民主制」と題し、ハインリヒ・v・クライストについて記述している。ただ、読んだ作品名は「チリの地震」が辛うじて記されているだけで、なぜ「群の民主制」なのかは良く分からない。「ドゥルーズ 千の文学」では、四十人を超える各作家について論評されているが、主要著作物名や論旨不明確な論評は初めてである。記述内容が「群の民主制」―あるいは戦争機械=国家に、
もっとみる題:レーモン・ルーセル著 岡谷公二訳「アフリカの印象」を読んで
少しずつ一ケ月以上かけて小刻みに読んで、読む終えたらこの小説の内容が良く分からなかった。主人公らしき人物がいるが、それ以上に登場人物が結構多い。それに、彼らの遭遇する、もしくは引き起こす出来事が、横道に逸れた物語も含めて、これまた多いのである。文章は事実を羅列式に述べるようでも、結構味わい深い。現実の事実が並べられているようでも、逆に幻想的でもあり、修飾語も味わい深いものがある。おおまかな筋を数頁
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