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詩集です。
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記事一覧

詩 『花』

詩 『花』

日本の春

今年も花は咲く

梅の高雅な静けさに

ただ惹かれる

また、

桜の華やかな儚さに

ただ惹かれる

もう誰か詠ったろう

もう誰か愛でたろう

その言の葉をなぞって

ただ花を観る

ただ影になる

                   (2024)

詩 バベル

詩 バベル

そう認めるには、さほどの勇気もいらない

こういう人生が妙な失敗作だって思われるコト

そう認めるには、さほどの反省もいらない

こういう性格が妙な化合物だって思われるコト

真実の人生から的を外した微妙なフェイク

仮面を目深に被った虚栄のフェイス

言葉の海を人形のように泳いで、

言葉の鎖で人間を振り回して、

それでいて大切なホンネは何ひとつ語らない

わがままと自己防衛と言い訳だらけの小

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詩 祈り

詩 祈り

君は祈ってくれた

人々は祈ってくれた

そう、祈りの輪へ入るよう…

今も世界は祈りにあふれて

生きることは祈り

祈りでない生なんてあるの?

すべての人は祈りのかたち

私も君のために祈るよ

テンプス  デアンブラチオ

テンプス デアンブラチオ

人々が天からの審判に怯える中…

青ざめた月の環を流離う影は4つ

ピラミッドの騎士団に見送られ

ご主人様が知らせの綴り紙を運ぶ

イノセントという名の、その光を

双葉の時、最初の時代を締め括る庭で

ようするに終わりの裁きのお白洲の上で

人類の無罪を証し立てるために…

さんぽ さんぽ さんぽのじかん

二十分の、二百日の、二千年の

少しばかり女声コーラスを交えて

さんぽ さんぽ さん

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詩 『安全監督官』

詩 『安全監督官』

自分が何故この座にいるのか分からない時がある。

天が明瞭に私にその地位を配役したのだとしても、

私はその運命に近頃、耐えきれずにいた。

窓を見ると、外は雲の濃くかかる薄い灰青色の空。

妙に天気が気にかかる。明日は雨だろうか。

まあ、それでもよいが…。

私のまとう空気は常に死の影を従える。

反対者どもは当面、私に近寄ることはないだろう。

この権力は、死の恐怖を基礎とするが、

厄介に

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詩 『音』

詩 『音』

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タタタッ タタタッ タタタッ タタタッ
タタタッ タタタッ タタタッ タタタッ

タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ

瞬く火花のスタッカート

カタカタカタカタカタカタ

キャタキャタキャタキャタ

震える無限軌道のトレモロ

カデットの旋律をうち消しながら

大衆歌曲の歌声をかき散らしながら

鋼鉄塊たちの

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詩 『結婚』

詩 『結婚』

目が眩むようなまぶしい光の降るなかで

それでも僕が遥か彼方を見つめていたのは

ただ、未来を視たかったから

そして、それを知りたかったから

できれば其処に行きたいって

僕は孤独の中で希っていた

だってこの世界は、なにか間違ってる…

だからきっと逃げたかった

そうして三千世界を魔天使のように跳んで

時の果てを訪ねた、その旅の終わりの場所で

あなたが迎えてくれた

あなたが言の葉をく

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詩  ange rouge

詩 ange rouge

赤い疾風が燃える

 光速の弾丸を大腕で蹴って
  
  野生の視線が唾を吐く群の狭間で

   そのトーチが海を割る預言となるだろう

  炎を盗んだ人類の守護神の血を受けし

 巨大な白き稲妻よ、征矢の翼よ、

敵を揺るがせ沈黙を呼べ!

   
    

詩 シャトル

小指に力を入れて黒いグリップを握る

カーボン製のラケットのガットに透ける相手

ラブオールの宣言から始まる第三試合

サーブを打ち返して、クリア、スマッシュ

そして時にはネット際で、ロブ

鷹の目でシャトル(球)を追う二人

白いウェアを伝う汗、締まるシューズの紐

終盤、仕掛けられたトリッキーなレシーブ

ストリングがシャトルを弾き、ラインの外へ流す

鬼のような足捌きでそれを拾い、相手に返

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詩 Terra

温められた蒼い大気の薄膜のなかで

幾億年の夢に揺蕩っておりました

天の稲妻の黙示もてその眠りを醒ました

涙滴のようにささやかなこの岩の卵は

貴方を知ってから水衣の渦巻くきらめきと

数多の動植物に彩られた産みの母となり

天空の彼方へ命の協和のコーラスを奏でる

泡立つ海流を跳ねるいるかと空飛ぶ水鳥

風にざわめく大きな森と野の獣らの鳴き声

遍く拡がる生命の律動にマグマの響きを添え

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詩 Ancestor

常闇の深淵から密かに伝えよう

万古の彼方より宙の海原に在りて

すべてを見通す眼もて天を検べた

われらは不死の霊統にて汝の祖

遠く近く隠世に潜む銀河の影法師

永い時の旅にその虚空の縁を渡り

われらの剣の如き視線のビームの

汝を貫きが験しに幾多の魂を与えた

権なる法の諸々によりて形を与えた

自在なる汝よ星々の砕けるその刻まで

疾く歌え、御魂鎮めのその詩を

御魂鎮めのその詩を…

詩 チョコレート

義理ではなかったね
やさしい手でさし出してくれた
小さなハート形の
チョコレート

いつもは意識の外にいた
クラスメートの女の子
笑顔のすてきなきみから
思いがけないプレゼント

手作りだって聞いて
なお嬉しかったよ
カラフルなトッピングで
銀紙を解くのがもったいないくらい

ほんのり甘いお菓子でした
ごちそうさま
バレンタインの恋の味わい
とても幸せになれたよ

お返しに贈ったキャンディーは

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詩『かなしいほどに人間的』

夏の終わる残照に揺らめく人影のふたつ

蝉々鳴る夕べに一輪の花を差し出す君を

僕は見つめささやく

悲しいほどに人間的だね…

秋の終わる月光に伸び立つ人影のふたつ

蟋蟀鳴る夜さりに一輪の花を差し出す君を

僕は見つめささやく

哀しいほどに人間的だね…

冬の終わる雪路に浮き出る人影のふたつ

皆音鎮まるあかつきに一輪の花を差し出す君を

僕は見つめささやく

愛しいほどに人間的だね…

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詩『点景』

夏の終わる夕暮れに
 淡い風が蝉の声を運んで

白い糸のように浮き
 そして去ってゆく送り火の煙

陶器に込められた火に
 枯れた茎がぱちぱちと爆ぜて

男の子が母親に聞いた
 おじいちゃんもう帰っちゃうの

                 (1991)