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【読書ノート】「武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別」 藤田早苗 (著)

著者は国際人権法の専門家。以前から言われているように日本は人権後進国であり、女性差別や入管問題などその現状とそれを変えていくためにはどのようにしたらよいかについて書かれた示唆に富んだ内容。先進国でありながら日本の人権感覚は国際的なそれと大きくずれており、国際的な人権基準と照らし合わせてみると日本で人権が守られていないことが多々ある。大きな原因の一つが政府が人権を保障する義務を守っていないことである(特別報告者の勧告無視など)。特に国連人権理事会の特別報告者らが「国際人権基準を満たしていない」と批判して国民からも大きな反対の声が上がって一度は廃案になりながら、昨年可決されてしまった入管難民法改正案についても、筆者は人権の観点から強い危機感を示している。国際人権について一通り理解出来る優れた一冊で一読をお勧めする。

【目次】
第一部 国際人権とは何か
第一章 人権とは?――「思いやり」と「人権」は別物だ
第二章 国際人権をどう使うか
第二部 国際人権から見た日本の問題
第三章 もっとも深刻な人権侵害は貧困
第四章 発展・開発・経済活動と人権
第五章 情報・表現の自由
第六章 男性の問題でもある女性の権利
第七章 なくならない入管収容の人権問題


以下、気になった個所を抜粋

入管問題の改善は私たちの人権にも関わる
収容施設の外国人の人権問題は「直接自分には関係ない」と感じる人もいるかもしれない。入管問題は当事者に選挙権がなく、政治家もあまり票にならないから、まともに向き合ってこなかったとも言われている。 しかし、このような外国人の人権をないがしろにする国が例えば、女性や障害のある人、生活困窮者、性的マイノリティなど、社会的な弱者やマイノリティの人権を尊重するだろうか。これは、人権意識とコミットメントの問題で、その国の人権保障レベルのバロメーターと言えるのではないか。全ての人権問題についても言えるが、これは当事者以外の人の人権とも無関係ではないはずだ。

287-288

勧告実施への土壌作りと制度・機関
・・・日本政府は特別報告者の勧告に対し「一方的な勧告だ」「 事実誤認」だなどと反論を繰り返してきた。また「日本は何度同じ勧告をされても改善しようとしない」と自由権規約委員会の議長に指摘されたように、条約機関からの勧告には真摯に向き合ってない。
だからこそ野党、市民、メディアなどが国際人権法や国連人権勧告への知識が理解を深めて、問題のある政府の態度や解釈については指摘していく必要がある。 そうして、これ以上日本政府が的外れな反論を繰り返し、勧告無視を続けることを許さない土壌を作っていくことが必要だ。 例えば日本の人権状況の改善に絶対必要なのが、個人通報制度の受託と。 独立性を担保した国内人権機関の設立であることは第2章でも述べた。この2つについては、長年問題として挙げられながら、いまだ実現されていない。

292-293

「人権の視点」を持つということ
最後に大きな社会の枠組の中で国際人権が浸透していくために、日々の生活の中で私たちができることについても考えてみたい。 ポール・ハント教授は「尊厳、平等、透明性、説明責任、差別の禁止などは人権にとっては重要で、人権を形成する価値だ」と言う。しかし、ここまで見てきたように、日本ではそういう価値自体があまり尊重されていないし、浸透していないようだ。
社会や文化は変化するものであるが、何年経っても日本の社会にはびこっているものに、アカウントビリティとは反対の「説明しなくてよい」とか「隠す」ということや、差別につながる「身内以外には排他的」という風潮がある。それらは、日本社会や文化がどんどん変わっていく中でも深いところでしつこく残っている悪い要素で、これも日本で人権があまり尊重、重視されない理由の1つではないだろうか。
このような社会の要求をすぐに改善することは不可能だが、そういう社会にプラスの影響をもたらしていく1つの道は、「人権の視点」でものごとを見ることができる人が増える、ということであろう。

302-303

(2024年3月6日)


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