マガジンのカバー画像

short story

11
運営しているクリエイター

記事一覧

洞窟  :  short story

洞窟 : short story

裕也は、玄関前で待っていて、俺の車を見つけると車の前に駆け出して来た。

「轢かれるから玄関に戻って。」

裕也は自分で安全確保するのがちょっと危うい。

車を車止めに停めて、玄関先に移動した裕也と、ハイタッチ、ロウタッチ、グータッチした。

僅かだけどビリビリとした感じ。

「裕也くんこんにちは。」

「うふふ。」

裕也が玄関を開け、リビングまで入って行く。

リビングにいた母親と、兄の蓮くん

もっとみる
波紋  :  short story

波紋 : short story

外に出ると、
昼間と夜の気温差が激しく、
夜霧を作り出している。
薄く立ち込めた霧で、
街頭の灯りが幻想的に広がっていた。
月影もなく、
霧のせいで星もまばらにしかなく、
木星だけが刺す様な光を放つ。
それなのに、
肉眼で確認しにくいはずの昴の位置だけは、
見る事が出来た。

子供の頃、
弟と
「もうこの星は最後なんだ。
 次に生まれる時は、
 あの星に生まれるんだ。」
と、昴を指し、話した事があ

もっとみる
廉さん  :  short story

廉さん : short story

「世界を現すのには、言葉は少なすぎるのですよ。」

と、廉さんは言った。

果てのない壮大なものから、小さな波から細波まで現すには、言葉は少なそうだ。

それを現そうと、言葉を尽くせば尽くすほど離れていく。
言葉である形を作り出すと、似ているけれど、どこかもやっとする別の形が現れてしまう。
それは「嘘」と言っていい程離れてしまうこともある。

私が深く納得すると、

「ただの戯言ですよ。」
と、微

もっとみる
三人のキョウコ :  [short story]

三人のキョウコ : [short story]

西が言った。
「恭子さん、誘ったんだけどねぇ、この前、夜中に胸がドキドキして救急車呼んだんだってぇ。だから、来れないって…。
いっつも、体調が悪いって言うんだけど、この前、友達の個展の時は来てて、普通に見えたんだけど…。病気に負けてる気がするんだよねぇ。」

「会うと大概元気なんだけど…。」
と、もう一人の今日子。

恭子はもうずっと、どこか具合が悪いと、中々家から出て来ない。
でも、会えば元気な

もっとみる
おもい。  ( 短編 :   5894文字 )

おもい。  ( 短編 : 5894文字 )

SNSの記事を読んでいたら、雲を消す方法が載っていた。「強く念じずに軽い感じで雲と一体化して消したい雲を消しゴムで消すイメージ消す」って、書いてあった。
雲を見ていたらそれを思い出して、消したい雲をジッと見て、
「青空が見たいからごめんね。消えてくれる?」
と、雲に言って、消えるイメージをした。
そしたら、アハ体験みたいに、ゆっくり静かに消えて、雲の切れ間から青空が覗いた。
「こんな簡単に出来るの

もっとみる
なごり雪

なごり雪

寒いなぁ〜…と思ったら、
昨夜から雪になりました。

道路の雪は直ぐに消えましたが、山には雪が残っています。

風も強くて、
見えない風の壁にカラスがぶつかって、
同じ所で飛んだまま動けずにいました。

なんとか前に進めたカラスもいましたが、風の壁に押し戻されてしまうカラスもいました。

カラスのそんな様子見なかったら、そこに風の壁があるなんて分かりません。
カラスの動きが、そこにある何かを教えて

もっとみる
オレンジピール🍊 (詩みたいな感じ)

オレンジピール🍊 (詩みたいな感じ)

あなたは夢だと言う

わたしは現実だと言う

グルグルと回り続けて
あれが夢だったのか現実だったのか
どっちが
どっちなのか

その境は
とても曖昧で

どのみち
ずっとこのまま
グルグル回り続けるんだから

どっちだっていい

あなたの記憶

わたしの記憶

どっちだっていい

時々
夢にして
時々
現実にして

オレンジピールが
グルグル剥かれて
香りが広がって

その香りは
チョコレートを思

もっとみる
真っ白の夏

真っ白の夏

光が強すぎて、
全てが真っ白で透明な景色に思える、
昼下がり。

クーラーの効いた部屋で、
大人たちはみんな午睡に落ちている。

ボクは、
昼寝なんかしたくない。

大人たちの午睡から抜け出して、
虫取り網を手に持ち、
虫取り籠を肩にかけ外に出た。

眩しい光に包まれた瞬間、
汗が吹き出し、視界がくらっとする。

木で鳴いていた蝉に虫取り網を振ると、
「キィー」
と、声をあげて飛んでいった。
蝉を

もっとみる
椅子取りゲーム : short    story

椅子取りゲーム : short story

壇上で礼をすると、少女たちは思い思いに座るように床に座り、メインパートを歌う少女だけが、スツールに腰掛けた。

それと同時にハープが前奏を始める。

メインパートの少女の歌がそれに続く。

強く優しく、懐かしい気持ちになる。

これは日本の歌で「いつで何度でも」
と言う歌だと、娘が言っていた。
歌詞も日本語だから分からない。
「生きている不思議 死んでゆく不思議…と、歌ってるんだよ。」と娘は教えて

もっとみる
夏の雨雲 : short story

夏の雨雲 : short story

一昨日、
「もう、消えてしまいたい。」
と言うくらい、
どーしようもない出来事があった。

聞こえちゃったんだよね。
心の声…。

「あら、来たの。」
と、冷たいトーンで…。

聞こえてしまったものは、
仕方ない。
聞こえちゃったんだから…。

もう、話す勇気なんかないから、
車に戻り、
「このままじゃいけない。」
と思い、
スーパーに併設された本屋に行った。

本屋は魔法の宝庫だ。

あっという

もっとみる
「暑き折 伸びております」:  short story

「暑き折 伸びております」: short story

どこかの子供が、
「ウェェェェェェェェェェェェェ……」
と、走り過ぎて行った。

何が
「ウェェェェェ…」
なのか、想像しても分からないんだけど。

子供を見て、
「自分がなりたいのはアレだな…。」
と、思った。
あの子供の頭の中は「ウェェェ」しかないだろう。で、全力で走る。
直火焼きされてるような炎天下、そんな状況なんて頭にないだろう。
走ってる理由なんて考える隙間だってないだろう。

「ヤツは

もっとみる